年収の壁の対応策の助成金ってどういうものですか?

服部印刷で年収の壁について解説中の大熊は、服部社長から追加で質問された。



服部社長
 大熊さん、130万円の壁についてはわかったのですが、もうひとつ、106万円の壁の解消もいわれていますよね?これはどういうことなのですか?
大熊社労士大熊社労士
 ご質問ありがとうございます。今回の「年収の壁・支援強化パッケージ」では、すでにご説明した社会保険の扶養から外れないようにする壁と、新たに社会保険に加入することを避けようとする壁の解消を目指す構成になっています。
福島さん
 「新たに社会保険に加入することを避けようとする壁」ですか?
大熊社労士
 はい。細かなことを除いてご説明しますが、御社のパートさんは週30時間以上働くことになると、社会保険に加入しますよね。
福島さん
 そうです。130万円の壁を意識しているパートさんは、だいたい週25時間くらいの契約が多く、雇用保険だけ加入しています。
大熊社労士
 ただ、従業員数(正確には厚生年金保険の被保険者数)が101人以上の企業では、週20時間以上、月額賃金が8.8万円以上等の要件を満たした場合に、週30時間未満であっても社会保険に加入することになっています。この「月額賃金が8.8万円」を年額換算すると、おおよそ106万円になるため「106万円の壁」と呼ばれているのです。
福島さん
 従業員数が多い会社では年収が106万円以上になると、会社で社会保険に加入することになるということですね。確か社会保険の適用拡大でお話聞いた覚えがあります。
大熊社労士
 あくまでも年収106万円は、8.8万円を年額換算したものですので、106万円という明確な壁があるわけではありません。ただ、130万円の壁と対比してそのように呼ばれますね。
服部社長服部社長
 パートさんが社会保険に入ると、給与から社会保険料は天引きされ、手取り収入はかなり減る。これに加え、企業としては同額の社会保険料負担が発生する。結果、社会保険に加入しない範囲で働くという選択が生まれるということですね。
大熊社労士
 そうです。その就業調整の問題です。ただ、時代は変わりつつあると感じています。おそらく、採用に苦労せずにパートタイマ―やアルバイトが募集できた頃は、就業調整を希望するパートタイマーやアルバイトを集めれば一定の労働力は確保できたと思うのです。会社としても社会保険料の負担がない分、総額の人件費を圧縮できる。ただ、労働力人口は減少傾向、採用コストもあがり、コストをかけたわりには思うような採用ができないことが多い。そんな状況があるように感じます。
福島さん
 それなら、今いるパートさんに頑張ってもらう方がいい、ということでしょうか。
大熊社労士
 そのような考え方も選択肢になりますよね。ただ単純に「もっと働いて、保障もあるので社会保険に加入して!」というメッセージを出しても「手取りが減るのは嫌だ」という人も多いと思うので、企業も手取りの減少を一部補助する方策を検討する。そのため、「年収の壁・支援強化パッケージ」では、手取りを減らさないように対応した会社に助成金を支給するとともに、社会保険適用促進手当という手当を設けたのです。
福島さん
 助成金・・・ですか?
大熊社労士
 はい、助成金のメニューは2つあり、まずは社会保険に加入するパートさんの手取りが減らないように、給与を支給したときに助成金が支給されるものです(手当等支給メニュー)。つまり、社会保険に加入することで、手取りが減ってしまう分について、会社が給与を払ってくださいよ、というものです。すごく大雑把にいうと、社会保険料はおおよそ給与の15%なので、15%分の給与を払ったときに助成金を払うという仕組みになっています。
服部社長
 なるほど。給与は減らない、社会保障は手厚くなる。会社の負担の一部は助成金でカバーですね。そうは言っても15%の負担は大きいな・・・。
大熊社労士
 そうですよね。もう1つの助成金のメニュー(労働時間延長メニュー)を説明すると、労働時間を伸ばすと給与の引上げ幅は小さくまたはなくてもよいというものがあります。例えば週の所定労働時間を2時間延ばすとともに給与を10%引き上げるということも可能です。週の所定労働時間を4時間延ばすときは、給与の引上げは不要です。
福島照美福島さん
 弊社のパートさんで週25時間(1日5時間×5日)の方は1日6時間の勤務にしてもらい、週30時間で社会保険加入のイメージですね。
大熊社労士
 はい、そうです。106万円の壁対応策として助成金がまとめられているように見えますが、新たに社会保険に加入するパートさんには、どの企業であっても利用できる助成金になっています。
服部社長
 なるほど。当社も人手不足感があるので、検討してみてもよいかもしれないな。
大熊社労士
 助成金は最大従業員1人あたり50万円になっています。福島さんがお話された労働時間延長メニューでは1人あたり30万円が支給されます。この機会にパートさんに社会保険の加入も検討いただいてもよいかもしれませんね。

>>>to be continued

大熊社労士のワンポイントアドバイス[大熊社労士のワンポイントアドバイス]

 106万円の壁対応策としてのキャリアアップ助成金の社会保険適用時処遇改善コースについて取り上げました。助成金には様々な要件がありますので申請を検討されるときは、その要件について十分にご確認ください。


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2023年12月18日「年収の壁の対応策(130万円の壁)ってなんですか?」
https://roumu.com/archives/120186.html

参考リンク
厚生労働省「年収の壁・支援強化パッケージ」
https://www.mhlw.go.jp/stf/taiou_001_00002.html
(宮武貴美)