労働契約法 報告書に見る注目事項[番外編 変更解約告知]

 現在、roumu.com blogで連載を行っております「労働契約法 報告書に見る注目事項」ですが、その中の[その8 雇用継続型契約変更制度]において、変更解約告知を取り上げました。読者の方よりこの内容に関するご質問を頂きましたので、今回は変更解約告知についてご説明したいと思います。


 変更解約告知とは、これまでの労働契約を一旦解消させ、同時に新たな労働契約の締結を相手方に打診するものです。使用者が従業員へ申し入れ、従業員がこの新たな契約への変更に応じなかった場合には、結果として労働契約は終了となり、当該従業員は解雇されるということになります。


 変更解約告知は、「ドイツでは労働契約上、職種や勤務場所が特定されることが多いので、それらの変更(主として配転)」に用いられることが多い(菅野和夫「労働法」P471)とのことですが、日本ではあまり立法的な手当がされていないため、馴染みが薄い制度ではないでしょうか。しかし実際に、この点に関して紛争となった事件がありますので、そのいくつかを見てみることにしましょう。
■スカンジナビア航空事件(東京地判 H7.4.13)
 以下の要件を満たした場合には、変更解約告知も有効であるとされた。
・労働条件変更が会社にとって必要不可欠
・上記必要性が、労働者が受ける不利益を上回る
・変更解約告知が、拒否した労働者を解雇するに足りるもの
・解雇回避努力がなされている


■大阪労働衛生センター第一病院事件(大阪高判 H10.8.31)
 使用者側に絶大な権力を持たせる結果となる当該制度を認めることは、日本の雇用慣行に馴染まない。解雇については整理解雇の要件と同レベルの厳格さが要求されるべき。(変更解約告知は無効)


 上記2つの裁判例は、変更解約告知に関して判断が下された有名な事件です。とはいえ日本においては、下段大阪労働衛生センターの見解が示すように、変更解約告知の適用に関してはどちらかといえば消極的で、それが故に未だ十分な議論がなされていないというのが現状です。変更解約告知の解釈について危惧される点を挙げれば、これを有効とすると、拒否した労働者は即解雇という大きな弊害がもたらされる危険性があるということです。契約変更の申出後、その是非が問われる間という、この間のいわば空白の期間を埋めるべく登場したのが冒頭に登場した雇用継続型契約変更制度というものです。これは労働者がその身分関係を維持しつつ、司法の判断を仰ぐことが可能な制度となっています。


  雇用継続型契約変更制度の新設に伴い、今後、変更解約告知に関するより突っ込んだ議論がなされることが期待されます。


(労働契約チーム)