労務監査の概要とその効果
前回、多発する労務トラブルのリスク回避のためには労務監査が有効であるとお話させて頂きましたが、今回はより当社で実際に実施している労務監査を例に挙げ、具体的に労務監査によってもたらされる効果およびその全体像について述べさせて頂きます。
[労務監査の目的]
労務監査の目的は、主として以下の3点に集約されます。
1)事前にトラブル発生要因を発見し、今後想定される人事労務上のリスクを最小限にすることで、安定した企業活動をバックアップする。
2)諸問題の発見のみならず、その後の具体的な解決策を提案することで、解決に向けた具体的な取り組みを行う。
3)企業のリスク回避という視点のみならず、働く側の視点も勘案した提案をすることで、組織活性化と従業員の帰属意識の向上を図る。
以上3つの視点から、企業の抱える潜在的なリスクを洗い出しを行い、対応策を具体的に検討します。
[リスクに関する5分類と監査の対象分野]
企業の抱えるリスクは様々ですが、当社では労務監査を実施する上で想定されるリスクを、1)法律違反など世間一般に「悪い会社」というイメージを与え不買運動などを引き起こしてします「イメージリスク」、2)社員のモラール低下により生産性が低下する「風土悪化リスク」、3)優秀なコア人材が流出してしまう「人材流出リスク」、4)多額の費用発生により経営上、悪影響を及ぼす恐れのある「財務リスク」、5)違法行為、または安全配慮義務を怠ったことによって生ずる「訴訟リスク」の5つに分類し、それに基づき監査を実施します。
具体的には、以下の大項目について約500項目の実態調査を行います。
1)整備されている規程
2)整備されている協定書
3)社会保険(加入状況、運用状況など)
4)労働保険(加入状況、運用状況など)
5)給与計算(時間外計算、保険料控除など)
6)就業規則(届出、作成義務、内容など)
7)労働時間1(休日、休憩など)
8)労働時間2(変形労働時間制など)
9)労働時間3(フレックスタイム、裁量労働など)
10)労働法関連(法定書類整備、貯蓄金管理、解雇運用など)
11)雇用・請負・派遣(契約内容など)
12)雇用(在宅・障害者等など)
13)女性労働(採用、母性保護、セクハラ、育児休業など)
14)退職金(制度、運用状況、積立金不足など)
15)安全衛生(管理体制、健康診断、メンタルヘルスなど)
16)その他(情報管理、車両管理など)
当然すべてが法律遵守に基づいて運用されているのが理想ですが、すべてにおいて遵法であるという会社は現実的には非常に稀です。リスクには早急に回避すべきものと発生の可能性が低いものがあり、当然早急に回避すべきものについて、改善する必要があります。こうしたリスクに対して優先順位をつけ、優先順位の高い課題より解決を図ることが、労務監査の上では重要です。
[労務監査の効果]
結果、労務監査を実施することによって期待される効果としては、次の3点が挙げられます。
1)イメージリスクを初めとするあらゆる労務リスクをコントロールできる状態にすること
2)労働法規が遵守されて、法律違反によって生ずる労務トラブルが発生しない状態にすること
3)企業秩序が維持され、従業員のモラール向上を図ること
次回より、労務監査の具体的項目について発生する問題点と、そのリスクおよびリスク回避の方法について述べたいと思います。
(神谷篤史)