なぜ看護師・介護士は3年で辞めるのか?退職理由1「経営理念の浸透」

 先日より連載を開始した「なぜ看護師・介護士は3年で辞めるのか?」ですが、この連載では医療機関や・介護施設で大きな問題となっている職員の早期退職問題の原因と対策についてお話させて頂きます。前回は職員の早期退職問題の原因を以下の7つに分類しました。



経営理念の浸透についての問題
職場の風土についての問題
組織のあり方についての問題
自分自身のキャリアアップについての問題
患者(利用者)との関係についての問題
労働条件についての問題
給与水準についての問題


 本日はこれらのうち、退職理由1「経営理念の浸透についての問題について解説しましょう。
[退職の理由]
 経営理念と職員の定着の間には一見、直接的な関連性がないように思われますが、「どのような施設にしていきたいのか」といった基本的なビジョンが不明確である場合には、職員の退職の遠因となることがあります。


 経営理念は、すべての職員がその方向に向かって歩みを進めるための羅針盤のようなものです。これが不明確だと職員はそれぞれが自分勝手に「こういった施設にしていきたい」という組織像を描き、四方八方違う方向に向かうことがあります。そうなると組織としての統制や秩序は崩壊します。そして組織統制や秩序の崩壊は、サービス水準の低下や派閥の形成を初めとする人間関係の悪化をもたらし、結果として不穏な空気を職場にもたらすことになるのです。


[退職に繋がる主な原因例]
(1)法人の理念やどういった施設にしたいのかということが明確にされていない。
(2)理念や方針の意味が職員に十分に浸透されていない。
(3)施設が将来にどのような方向に進むのかが分からず、不安となる。
(4)考え方の異なる複数の派閥が組織内に跋扈しており、情報などの伝達が遮断される。等


[定着に向けての回避策]
 こうした問題を回避するためには、経営理念や施設のビジョンを明確に、かつ分かりやすく定め、職員に周知することが求められます。これはパートタイマーも含めた全職員の目線を同じ方向に向けることを目的としています。全職員が同じ方向に向かっていれば職員間の派閥は発生し難く、職員間の十分な意思疎通を通じて、患者や利用者に対してのサービス水準についても統一させることが期待できます。


 理事長室や院長室などに理念が書かれた額縁を掲げて職員いる施設もありますが、多くの場合はその補足説明や考えに至った背景が十分に職員に知らされておらず、残念ながら額縁を掲げるだけ終わってしまっているという例が多いようです。それでは、職員を同じ方向に導くことは当然不可能であり、職員間で派閥が形成されるのも無理がありません。


 そのため、施設関係者は、わかりやすく平易な表現で経営理念や目指すべき施設像を職員に対して明確に説明するなどといった対応や配慮が必要で、必要であればその理念などに基づいた行動指針を定めることも考えていかなければなりません。そして、一旦策定した理念や目指すべき施設像については、毎朝の朝礼で職員全員で唱和をしたり、定期的な会議などにおいて理念に基づいた職員の行動を表彰するなどといった方法によって、考えを刷り込ませることが求められます。経営理念を策定をしたら終わり、ということではいけません。


 それでは次回は、退職理由2「職場の風土についての問題」について取り上げます。



関連blog記事
2007年12月10日「なぜ看護師・介護士は3年で辞めるのか?その1」
https://roumu.com
/archives/51190709.html


(服部英治


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