昇給を考える その1:定期昇給制度の意義

 毎年、春季には多くの企業で昇給が行われる。この数年、中小企業の賃上げは様々なデータはあるものの、概ね4,000円前後の水準で推移しているが、これはあくまで統計データ調査に回答した(できた)企業の平均である。もちろんこれは企業によって大きく異なるし、大企業よりもはるかに中小企業の方が企業間格差は大きくなっている。大企業では3年程前から当分凍結されていたベースアップ(ベア)が実質的に復活し、今年もその流れは続いている。しかし今回の米国発の急激な景気後退により、このベアも再凍結される時期が近いと思われる。


 さて、一般に賃上げはこのベアと定期昇給(定昇)に大別される。簡単に言えば、ベアは全体の底上げであり、定昇は賃金制度の個人への反映であるが、今回は後者の定昇について述べることとする。そもそも、企業はなぜ定期的に賃金を上げていくのだろうか。世間の慣行、年齢相場賃金の相対的上昇、昇給しない場合のモチベーションダウンという強迫観念もあるだろう。大きく見れば従業員の生活の向上を何とか図りたいという経営者の想いもある。しかしここで定昇という制度をもう少し論理的に考えてみたい。改正パート労働法と労働契約法にも薄くではあるが盛り込まれたスローガン、「同一労働(成果、責任、能力と言い換えるべき)同一処遇」という観点から見ると、昨年と比べて「労働」が向上していなければその見返りとしての賃金を上げる合理性はない。しかし多くの企業は個人の差はあるにせよ、さしたる根拠もなく定昇を行っている。これは、序列を維持する賃金政策によるもの、年齢に対応する生活扶助的意味合いや勤続による経験習熟に応えるためと言われている。この根拠を明確にするかどうかの是非は悩ましいところではあるが、制度化(明確化)を図るべき時期が到来した企業の定期昇給=人事賃金制度に関する検討課題は次の2つとそのバランスになる。
「労働(職種、能力、成果)」をどの階層へどの程度反映するか
雇用を引き留める(リテンション)色をどこまで出すか


 この詳細については次回、改めて述べたいと思う。



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(小山邦彦)


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