出向社員の出向先における年次有給休暇の付与日数

 本日はある顧問先様から質問を頂いた、出向者に関する年次有給休暇の取り扱いについて取り上げたいと思います。



【質問】
 当社では先月から子会社に在籍出向させている社員がいます。その社員から年次有給休暇(以下「年休」という)を取得したいという申請がありました。当社での勤務年数は20年以上あり、出向前は前年度分を合わせて40日の年休が残っていました。当社で残っていた年休は出向先である子会社でも取得することができますか?


【回答】
 出向の場合、出向元との雇用関係が継続しているとされるため、出向先である子会社で年休の取得申請があった場合でも、出向元会社で発生した年休を取得することとなります。


 そもそも労働基準法第39条が定める年休については、6ヶ月間継続勤務し、その間の全労働日の8割以上出勤した労働者に対し付与されます。この質問における論点は、年休付与の基礎となる勤続年数に関し、出向元会社と出向先会社の勤務を継続勤務と判断するか否かにあります。今回は在籍出向ということですので、この社員については出向元会社と出向先会社の双方と雇用関係があるため、出向元会社と出向先会社の勤務年数は「継続勤務」と判断され、出向元において付与された年休を取得することができます(関連通達:昭和63年3月14日基発150号(継続勤務の意義)参照)。なお、この際の時季指定権および時季変更権は出向先企業と労働者の間にあり、労働者が時季指定権を行使する時は、出向先企業に対して行うことになります。


 ちなみに、転籍(移籍出向)の場合においては、転籍前の会社との雇用関係は終了しており、現在の雇用関係は転籍後の会社との間にのみ成立するため「継続勤務」と判断されず、転籍前の会社で発生した年休を使うことはできません。


【関連法令・通達】
労働基準法 第39条
 使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。


労働基準法 第39条4項
 使用者は有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。


昭和63年3月14日基発150号(継続勤務の意義)
 継続勤務とは、労働契約の存続期間、すなわち在籍期間をいう。継続勤務か否かについては、勤務の実態に即し実質的に判断すべきものであり、次に掲げるような場合を含むこと。この場合、実質的に労働関係が継続している限り勤務年数を通算する。
イ 定年退職による退職者を引き続き嘱託等として再採用している場合(退職手当規程に基づき、所定の退職手当を支給した場合を含む。)。ただし、退職と再採用との間に相当期間が存し、客観的に労働関係が断続していると認められる場合はこの限りでない
ロ 法第二十一条各号に該当する者でも、その実態より見て引き続き使用されていると認められる場合
ハ 臨時工が一定月ごとに雇用契約を更新され、六箇月以上に及んでいる場合であって、その実態より見て引き続き使用されていると認められる場合
ニ 在籍型の出向をした場合
ホ 休職とされていた者が復職した場合
へ 臨時工、パート等を正規職員に切替えた場合
ト 会社が解散し、従業員の待遇等を含め権利義務関係が新会社に包括承継された場合
チ 全員を解雇し、所定の退職金を支給し、その後改めて一部を再採用したが、事業の実体は人員を縮小しただけで、従前とほとんど変わらず事業を継続している場合



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2006年11月19日「【労務管理は管理職の役割】年次有給休暇と時季変更権」
https://roumu.com
/archives/50798945.html


(佐藤浩子)


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