[ワンポイント講座]社員あるいはその家族が新型インフルエンザに罹患した際の給与の取扱い

 先月、厚生労働省は新型インフルエンザが流行期に入ったと発表し、流行のピークは10月上旬頃と言われています。既に企業においては、社員あるいはその家族が新型インフルエンザにかかり、急遽対応に追われるなどの事態となっているところもあるのではないでしょうか。そこで、今回のワンポイント講座では、社員あるいはその家族が新型インフルエンザに罹患した際の給与の取扱いについて取り上げてみましょう。


 この新型インフルエンザA(H1N1)は、今年の4月28日に感染症予防法第6条7項に定める新型インフルエンザ等感染症と位置づけられました。これにより、新型インフルエンザに罹患した場合は行政の指導に従わなければならず、会社として社員を出社させることはできず、必ず休ませる必要があります。このような前提を押さえた上で、その休業の際の給与の取扱いについて考えてみましょう。会社が社員を休業させる場合には、労働基準法第26条において休業手当の支払が必要とされていますが、これはあくまで「使用者の責に帰すべき事由による休業」の際に適用となり、具体的には生産調整のための休業のような場合がこれに該当します。


 これに対して新型インフルエンザの罹患により休まざるを得なくなった場合は感染症予防法に基づく休業であり、法令を遵守するためにやむを得えず休ませるものであるため、会社に責任はありません。そのため給与においては、会社に休業手当の支払は必要ないということになります。また会社を休むことになる日についてはそもそも労働の義務がない日となることから、原則としては年次有給休暇の取得もできないこととなります。しかし、現実的な対応としては、今回の新型インフルエンザの罹患による欠勤についても、通常の傷病と同様に年次有給休暇の取得を認めるという柔軟な対応を行う例が多くなることでしょう。


 次に問題になるのが、社員本人ではなく、その家族が新型インフルエンザに罹患し、社員を休ませるような場合の取り扱いです。これについては会社と行政のいずれの判断により社員を休ませることになるのかによって取扱いが異なります。濃厚接触者として感染している可能性が高い者については、法律で保健所へ健康状態を報告することが定められており、保健所等で調査を受けることになっています。そして、感染予防法第44条の3に感染を防止するための協力についての定めがあり、感染症にかかっていると疑うに足りる正当な理由のある者と判断された場合は、外出自粛の要請を受けることになります。そのため、この要請を受けて休業する場合については、使用者の責に帰すべき事由ではないため、休業手当の支払は必要ないということになります。一方、上記の事由には該当せず、会社の判断で念のため休ませるような場合は、最低でも休業手当の支払は必要となります。


 今後、新型インフルエンザの拡大が予想されており、会社としては、いまのうちから厚生労働省が出しているパンフレット等を配布するなどして感染予防策の周知徹底を図り、また、感染した場合に報告が速やかに行われるように社内書式などを整備しておくことが求められます。


[関連法規]
感染症予防法 第6条(定義)
1~6 省略
7 この法律において「新型インフルエンザ等感染症」とは、次に掲げる感染性の疾病をいう。
一 新型インフルエンザ(新たに人から人に伝染する能力を有することとなったウイルスを病原体とするインフルエンザであって、一般に国民が当該感染症に対する免疫を獲得していないことから、当該感染症の全国的かつ急速なまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあると認められるものをいう。)
二 再興型インフルエンザ(かつて世界的規模で流行したインフルエンザであってその後流行することなく長期間が経過しているものとして厚生労働大臣が定めるものが再興したものであって、一般に現在の国民の大部分が当該感染症に対する免疫を獲得していないことから、当該感染症の全国的かつ急速なまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあると認められるものをいう。)


同法 第44条の3(感染を防止するための協力)
 都道府県知事は、新型インフルエンザ等感染症のまん延を防止するため必要があると認めるときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該感染症にかかっていると疑うに足りる正当な理由のある者に対し、当該感染症の潜伏期間を考慮して定めた期間内において、当該者の体温その他の健康状態について報告を求めることができる。
2 都道府県知事は、新型インフルエンザ等感染症のまん延を防止するため必要があると認めるときは、厚生労働省令で定めるところにより、前項の規定により報告を求めた者に対し、同項の規定により定めた期間内において、当該者の居宅又はこれに相当する場所から外出しないことその他の当該感染症の感染の防止に必要な協力を求めることができる。
3 前二項の規定により報告又は協力を求められた者は、これに応ずるよう努めなければならない。
4 都道府県知事は、第二項の規定により協力を求めるときは、必要に応じ、食事の提供、日用品の支給その他日常生活を営むために必要なサービスの提供又は物品の支給(次項において「食事の提供等」という。)に努めなければならない。
5 都道府県知事は、前項の規定により、必要な食事の提供等を行った場合は、当該食事の提供等を受けた者又はその保護者から、当該食事の提供等に要した実費を徴収することができる。



関連blog記事
2009年7月6日「新型インフルエンザを理由とした休業等についても雇用調整助成金の対象に」
https://roumu.com
/archives/51582309.html


参考リンク
厚生労働省「新型インフルエンザ」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/index.html
厚生労働省「新型インフルエンザ対策パンフレットなど」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/inful_pamphlet.html
厚生労働省「新型インフルエンザに係る対応について(平成21年4月28日健感発0428003号厚生労働省健康局長通知)」
http://www.mhlw.go.jp/kinkyu/kenkou/influenza/090429-02.html


(福間みゆき)


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