[ワンポイント講座]電子メール等で給与明細を交付する際のポイント

 2010年3月17日のブログ記事「[ワンポイント講座]労働関係書類を電磁的記録により保存する際の注意点」では、労働関係書類を電磁的に保存する際の注意点について取り上げましたが、今回のワンポイント講座では給与明細の電磁的交付について取り上げてみたいと思います。


 毎月の給与計算業務において給与明細書の作成と交付は、従業員の人数や支店数が多いとその分手間がかかり、時間を取られるものです。そこで給与明細書を電子メールやインターネット上で電磁的に交付できないかと考えることは自然な流れでしょう。中には、いっそのこと給与明細の交付をやめることはできないかと考える方もいらっしゃるかも知れません。そこで以下ではそもそも給与明細は必ず従業員に交付しなければならないものなのかどうかを確認した上で本題に移ることとしましょう。


 労働基準法においては給与明細の交付に関する規定はありませんが、所得税法において、給与を支払う者は給与の支払を受ける者に支払明細書を交付しなくてはならないという旨の規定がされています。また健康保険法、厚生年金保険法、労働保険の保険料の徴収等に関する法律の各法においても、それぞれ「保険料を控除したときは、保険料の控除に関する計算書を作成し、その控除額を被保険者に通知しなければならない」と定められています。こうした理由により給与の支払者には給与明細書の交付義務があるわけです。


 その交付方法については、当然ながら、原則、書面での交付を行うこととされています。書面以外の交付方法については、給与を受け取る者の承諾がある場合に限って、電子メールをはじめとした電磁的方法で交付することが可能とされています。ただし、給与を受け取る者から書面での交付の請求がある場合には、必ず書面で交付しなければなりません。したがって、実際に電磁的方法により給与明細を交付する際には、あらかじめ従業員に承諾を得ておくということが重要なポイントとなります。承諾の取り方については、所得税法施行令で定めがされています。具体的には、該当する従業員に対して、「あらかじめ ~ その用いる電磁的方法の種類及び内容を示し、書面または電磁的方法による承諾を得」ることが要請されています。承諾が得られなかった場合には、もちろん原則どおり書面で給与明細書を交付することが必要となります。なお、電磁的方法による交付は、書面での交付に比べ、誤送等により情報漏洩が起きやすいため、細心の注意が求められます。



関連blog記事
2010年3月17日「[ワンポイント講座]労働関係書類を電磁的記録により保存する際の注意点」
https://roumu.com
/archives/51707930.html


(佐藤和之)


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[関連法規]
所得税法 第231条
 居住者に対し国内において給与等、退職手当等又は公的年金等の支払をする者は、財務省令で定めるところにより、その給与等、退職手当等又は公的年金等の金額その他必要な事項を記載した支払明細書を、その支払を受ける者に交付しなければならない。
2 前項の給与等、退職手当等又は公的年金等の支払をする者は、同項の規定による給与等、退職手当等又は公的年金等の支払明細書の交付に代えて、政令で定めるところにより、当該給与等、退職手当等又は公的年金等の支払を受ける者の承諾を得て、当該給与等、退職手当等又は公的年金等の支払明細書に記載すべき事項を電磁的方法により提供することができる。ただし、当該給与等、退職手当等又は公的年金等の支払を受ける者の請求があるときは、当該給与等、退職手当等又は公的年金等の支払明細書を当該給与等、退職手当等又は公的年金等の支払を受ける者に交付しなければならない。
3 前項本文の場合において、同項の給与等、退職手当等又は公的年金等の支払をする者は、第一項の給与等、退職手当等又は公的年金等の支払明細書を交付したものとみなす。


所得税法施行令 第356条
 居住者に対し国内において給与等の支払をする者は、法第231条第2項本文(給与等の支払明細書)の規定により同項に規定する給与等の支払明細書に記載すべき事項を提供しようとするときは、財務省令で定めるところにより、あらかじめ、当該給与等の支払を受ける者に対し、その用いる電磁的方法の種類及び内容を示し、書面又は電磁的方法による承諾を得なければならない。
2 前項の規定による承諾を得た給与等の支払をする者は、当該給与等の支払を受ける者から書面又は電磁的方法により法第231条第2項本文の規定による電磁的方法による提供を受けない旨の申出があつたときは、当該給与等の支払を受ける者に対し、同項に規定する給与等の支払明細書に記載すべき事項の提供を電磁的方法によつてしてはならない。ただし、当該給与等の支払を受ける者が再び前項の規定による承諾をした場合は、この限りでない。


健康保険法 第167条
 事業主は、被保険者に対して通貨をもって報酬を支払う場合においては、被保険者の負担すべき前月の標準報酬月額に係る保険料(被保険者がその事業所に使用されなくなった場合においては、前月及びその月の標準報酬月額に係る保険料)を報酬から控除することができる。
2 事業主は、被保険者に対して通貨をもって賞与を支払う場合においては、被保険者の負担すべき標準賞与額に係る保険料に相当する額を当該賞与から控除することができる。
3 事業主は、前二項の規定によって保険料を控除したときは、保険料の控除に関する計算書を作成し、その控除額を被保険者に通知しなければならない。


厚生年金保険法 第84条
 事業主は、被保険者に対して通貨をもつて報酬を支払う場合においては、被保険者の負担すべき前月の標準報酬月額に係る保険料(被保険者がその事業所又は船舶に使用されなくなつた場合においては、前月及びその月の標準報酬月額に係る保険料)を報酬から控除することができる。
2 事業主は、被保険者に対して通貨をもつて賞与を支払う場合においては、被保険者の負担すべき標準賞与額に係る保険料に相当する額を当該賞与から控除することができる。
3 事業主は、前二項の規定によつて保険料を控除したときは、保険料の控除に関する計算書を作成し、その控除額を被保険者に通知しなければならない。


労働保険の保険料の徴収等に関する法律 第31条
 事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、前条第一項又は第三項の規定による被保険者の負担すべき額に相当する額を当該被保険者に支払う賃金から控除することができる。この場合において、事業主は、労働保険料控除に関する計算書を作成し、その控除額を当該被保険者に知らせなければならない。