[ワンポイント講座]労働関係書類を電磁的記録により保存する際の注意点
人事総務の仕事をしていると、どうしても年々書類が溜まっていってしまうものです。なかには、書類保管のために事務所が手狭になってしまい、お困りの方もいるかもいらっしゃるのではないでしょうか。だからといって、書類をむやみに捨てるわけにもいきませんので、書類の量を減らすためにパソコン等に電磁的記録で保存する方法を検討されている方も多いのではないかと思います。そこで今回はのワンポイント講座では、人事労務関係の書類をパソコン等に電磁的記録で保存する際の注意点について取り上げてみたいと思います。
人事労務関係書類については、使用者に保存の義務が課せられており、例えば労働者名簿や賃金台帳等の重要書類については、労働基準法で3年間の保存が義務付けられています(労働基準法第109条)。もちろん書類保存ですから、原則的には紙媒体での保存が義務付けられているわけですが、法律上要請されている一定の条件を満たすことで、これらをパソコン等に電子媒体で保存することも認められています(平成17年3月31日基発331014)。
電子媒体での保存方法としては、以下が定められています(e-文書省令第4条第1項)。
作成された電磁的記録を電子計算機に備えられたファイル又は磁気ディスク等をもって調製するファイルにより保存する方法
書面をスキャナ等で読み取ってできた電磁的記録を電子計算機に備えられたファイル又は磁気ディスク等をもって調製するファイルにより保存する方法
わかりやすく言い換えると、はワードやエクセル等でデータファイルを作成し、パソコン内のハードディスクやCD-Rにて保存することを指し、は紙媒体で作成された文書をスキャナ等で読み込み画像データとして保存することを指しています。そしてそれらは、労働基準監督官の臨検時など労働者名簿、貸金台帳の閲覧・提出等が必要とされる場合に、直ちに必要事項が明らかにされ、かつ、写しを提出し得るシステムとなっているようにしておかなければなりません(平成7年2月28日基発101、平成7年3月10日基収94)。
さらに、スキャナ等で読み込み保存する場合には、以下の5つの要件も満たさなければなりません(平成8年6月27日基発411)。
①画像情報の安全性が確保されていること
イ 記録された保存義務のある画像情報について、故意又は過失による消去、書換え及び混同ができないこと。また、電子媒体に保存義務のある画像情報を記録した日付、時刻、媒体の製造番号等の固有標識が同一電子媒体上に記録されるとともに、これらを参照することが可能であること
ロ 同一の機器を用いて保存義務のある画像情報と保存義務のない画像情報の両方を扱う場合には、当該機器に保存義務のある画像情報と保存義務のない画像情報のそれぞれを明確に区別する機能を有していること
画像情報を正確に記録し、かつ、長期間にわたって復元できること
イ 電子媒体、ドライブその他の画像関連機器について、保存義務のある画像情報を正確に記録することができること
ロ 電子媒体に記録された保存義務のある画像情報を、法令が定める期間にわたり損なわれることなく保存することができること
ハ 電子媒体、ドライブ、媒体フォーマット、データフォーマット、データ圧縮等のデータ保管システムについて、記録された画像情報を正確に復元することができること。また、労働基準監督官の臨検時等、保存文書の閲覧、提出等が必要とされる場合に、直ちに必要事項が明らかにされ、かつ、写しを提出し得るシステムとなっていること
通達による要請にもありますが、電子媒体にて保存されたデータの安全性を確保することは実務面からも重要なことです。ファイルに保護をかけることやバックアップなどの対策を行って、誤ってデータが削除されないよう確実な保存ができる仕組みを取るべきです。また、電子データとすることで個人情報流出の危険性が高まりますので、データを保存するパソコンをスタンドアロンにしておく等対策を講じる必要があるでしょう。
なお、従業員等から署名や押印を取っている重要書類については、民事訴訟法上の争いとなった際に証拠として使用するため、やはり原本が必要ですから、書面のまま保存する必要がありますのでご注意ください。
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(佐藤和之)
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[関連法規]
労働基準法 第109条
使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を三年間保存しなければならない。
労働基準法施行規則 第56条
法第百九条の規定による記録を保存すべき期間の計算についての起算日は次のとおりとする。
一 労働者名簿については、労働者の死亡、退職又は解雇の日
二 賃金台帳については、最後の記入をした日
三 雇入れ又は退職に関する書類については、労働者の退職又は死亡の日
四 災害補償に関する書類については、災害補償を終つた日
五 賃金その他労働関係に関する重要な書類については、その完結の日
民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律(e-文書法) 第3条
民間事業者等は、保存のうち当該保存に関する他の法令の規定により書面により行わなければならないとされているもの(主務省令で定めるものに限る。)については、当該法令の規定にかかわらず、主務省令で定めるところにより、書面の保存に代えて当該書面に係る電磁的記録の保存を行うことができる。
2 前項の規定により行われた保存については、当該保存を書面により行わなければならないとした保存に関する法令の規定に規定する書面により行われたものとみなして、当該保存に関する法令の規定を適用する。
厚生労働省の所管する法令の規定に基づく民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する省令(e-文書省令) 第4条
民間事業者等が、法第三条第一項の規定に基づき、別表第一の一及び二の表の上欄に掲げる法令のこれらの表の下欄に掲げる書面の保存に代えて当該書面に係る電磁的記録の保存を行う場合並びに別表第一の四の表の上欄に掲げる法令の同表の下欄に掲げる電磁的記録による保存を行う場合は、次に掲げる方法のいずれかにより行わなければならない。
一 作成された電磁的記録を民間事業者等の使用に係る電子計算機に備えられたファイル又は磁気ディスク、シーディー・ロムその他これらに準ずる方法により一定の事項を確実に記録しておくことができる物(以下「磁気ディスク等」という。)をもって調製するファイルにより保存する方法
二 書面に記載されている事項をスキャナ(これに準ずる画像読取装置を含む。)により読み取ってできた電磁的記録を民間事業者等の使用に係る電子計算機に備えられたファイル又は磁気ディスク等をもって調製するファイルにより保存する方法
2 民間事業者等が、法第三条第一項の規定に基づき、別表第一の三の表の上欄に掲げる法令の同表の下欄に掲げる書面の保存に代えて当該書面に係る電磁的記録の保存を行う場合は、前項第二号に掲げる方法により行わなければならない。
3 民間事業者等が、第一項各号の規定に基づき別表第一の一の表に係る電磁的記録の保存を行う場合は、必要に応じ電磁的記録に記録された事項を出力することにより、直ちに明瞭かつ整然とした形式で使用に係る電子計算機その他の機器に表示し、及び書面を作成できるようにしなければならない。
4 民間事業者等が、第一項各号又は第二項の規定に基づき別表第一の二若しくは四又は三の表に係る電磁的記録の保存を行う場合は、次に掲げる措置を講じなければならない。
一 必要に応じ電磁的記録に記録された事項を出力することにより、直ちに明瞭かつ整然とした形式で使用に係る電子計算機その他の機器に表示し、及び書面を作成できるようにすること。
二 電磁的記録に記録された事項について、保存すべき期間中における当該事項の改変又は消去の事実の有無及びその内容を確認することができる措置を講じ、かつ、当該電磁的記録の作成に係る責任の所在を明らかにしていること。
三 電磁的記録に記録された事項について、保存すべき期間中において復元可能な状態で保存することができる措置を講じていること。
5 別表第一の一の表の上欄に掲げる法令の同表の下欄に掲げる書面の保存につき、同一内容の書面を二以上の事務所等(書面又は電磁的記録の保存が義務付けられている場所をいう。以下同じ。)に保存をしなければならないとされている民間事業者等が、第一項の規定に基づき、当該二以上の事務所等のうち、一の事務所等に当該書面に係る電磁的記録の保存を行うとともに、当該電磁的記録に記録されている事項を他の事務所等に備え付けた電子計算機の映像面に表示し、及び書面を作成することができる措置を講じた場合は、当該他の事務所等に当該書面の保存が行われたものとみなす。
民事訴訟法 第228条第4項
私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。