今後の労働法制に多大な影響を与えることが確実な「有期労働契約研究会報告書」が公表に

有期労働契約研究会報告書 今回の雇用危機では、非正規切りという言葉が生まれるなど非正規労働者の雇用の不安定さが大きな社会問題として認識されるようになりました。こうした状況に対応するため、厚生労働省では平成21年2月23日より有期労働契約研究会(座長:東洋大学法学部 鎌田耕一教授)を立ち上げ、これまで18回の会合を催して来ましたが、その報告書が先日遂に公開されました。この内容は非常に労働者保護色が強いものであり、わが国の労働法制に多大な影響を与えることは間違いありません。そこで本日はそのポイントについて取り上げることとします。


 この研究会では、雇用の安定、公正な待遇等を確保するため、契約の締結時から終了に至るまでを視野に入れて、有期労働契約の不合理・不適正な利用を防止するとの視点を持ちつつ、有期労働契約法制の整備を含め、ルールや雇用・労働条件管理の在り方を検討し、方向性を示すことを課題として議論が進められて来ましたが、今回の報告書では以下のような提言がなされています。


[各論1]締結事由の規制、更新回数や利用可能期間に係るルール、雇止め法理(解雇権濫用法理の類推適用の法理)の明確化
(1)締結事由の規制
 有期労働契約の締結の時点で利用可能な事由を限定することを検討。
(2)更新回数や利用可能期間に係るルール
 一定年限等の「区切り」を超える場合の無期労働契約との公平、紛争防止、雇用の安定や職業能力形成の促進等の観点から、更新回数や利用可能期間の上限の設定を検討(有期労働契約の利用を基本的に認めた上で、濫用を排除。稀少となる労働力の有効活用)。
(3)雇止め法理(解雇権濫用法理の類推適用の法理)の明確化
 定着した判例法理の法律によるルール化を検討。


[各論2]均衡待遇及び正社員への転換等
(1)正社員との間の均衡のとれた公正な待遇
 正社員と同視し得る者は均等待遇、その他の者にも均衡待遇(努力義務や説明責任)との措置の検討。
(2)雇用の安定及び職業能力形成の促進のための正社員への転換等
 雇用の安定、職業能力向上の観点から、正社員転換措置の義務付けやインセンティブ付与等の検討。


[各論3]その他の課題
(1)現行の大臣告示による明示事項(更新の判断基準等)および雇止め予告等の法定事項への格上げの検討
(2)予告手当あるいは契約終了時の手当の検討。
(3)1回の契約期間の上限(現行原則3年)については、上限維持が一つの方向。


 実際の報告書を読むと、諸外国での有期労働関連の法規制の内容と検証が多く見られ、かなり具体的な内容が報告されていることが分かります。実際にはまだまだ社会的な議論が尽くされているとは言い難い状況ではありますが、この報告書をきっかけとしてかなり労働者保護色が強い法律が検討されるのは間違いないでしょう。今後はこの流れに注意をすると同時に、今後の労働力の調達方法についての再検討を進めていくことが求められます。



関連blog記事
2009年12月2日「[ワンポイント講座]原則的には難しい期間の定めのある労働契約の期間途中での解雇」
https://roumu.com
/archives/51659240.html

2009年8月6日「有期契約労働者の雇用管理の改善に向けて~有期契約労働者の雇用管理の改善に関するガイドライン」
http://blog.livedoor.jp/leafletbank/archives/50519635.html
2009年4月16日「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準について」
http://blog.livedoor.jp/leafletbank/archives/50480151.html


参考リンク
厚生労働省「「有期労働契約研究会報告書」について」
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000000q2tz.html


(大津章敬)



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