飲食店店長労務管理超基礎【第2回】飲食店店長ならば、アルバイトの社会保険加入要件を理解する
パート・アルバイトを社会保険に加入させていない飲食店が多い
飲食店においては、正社員以外のパート・アルバイトを雇用保険や社会保険に加入させていないケースが多いと言われています。事実、ある飲食店店長に「アルバイトなんだから雇用保険とか、社会保険には加入させる必要はないだろう?」と聞かれたことがありますが、これは誤りです。社会保険の加入においては、正社員・パート・アルバイトなどの雇用形態はまったく関係ありません。どのような雇用形態であっても労働時間など一定の条件を満たせば雇用保険や社会保険に加入させる必要があります。もしも、保険に加入させていなかった場合は、過去2年間に遡って保険料を納める必要があります。この保険料の事業主負担分は合計約14%にもなります。例えば月給20万円のアルバイトが2年間遡って保険料を納めなくてはならなくなった場合は、20万円×14%×2年=67万2千円にもなります。もしもこのようなアルバイトが10人いれば、672万円にもなってしまいます。このようなリスクを抱えた状態で飲食店経営を続けていくことは非常に危険です。この社会保険料加入の問題に対する解決策は2つしかありません。1つは「社会保険に加入させる」、もう1つは「加入しなくても良いようにする」ことです。
パート・アルバイトの社会保険の加入要件
以下ではまず雇用保険と社会保険の加入要件について確認しておきましょう。
①雇用保険の加入要件
飲食店においては、個人経営であれ、法人経営であれ、一人でも従業員を雇った瞬間から雇用保険に加入する義務が発生します。しかし、1週間に合計10時間しか働かないような短時間のパート・アルバイトについてまで雇用保険に加入しなければならないわけではありません。パート・アルバイトの雇用保険への加入要件は以下の2点です。
(1)31日以上の雇用見込みがある方
(2)1週間の所定労働時間が20時間以上である方
この要件に該当する場合には、例えパート・アルバイトであったとしても雇用保険に加入する必要があります。一方、正社員と同じように1週間の労働時間が40時間あるような者でも、以下の5点に該当する者は雇用保険に加入する必要がありません。
(1)法人の役員
(2)事業主と同居している親族
(3)昼間学生
(4)4ヶ月以内の期間を予定して行われる季節的事業に雇用される方
(5)日雇い労働者
ですから、飲食店の経営においては、1週間の労働時間が20時間未満のパート・アルバイトでシフトを組むようにしたり、パート・アルバイトを学生中心にしていくと雇用保険料負担を減らすことができます。
②社会保険の加入要件
社会保険については、個人経営であれば例え100人の従業員を雇用していたとしても社会保険に加入する必要はありません。しかし、法人の場合は従業員1人だけでも加入する必要があります。社会保険についても短時間労働者については、ある一定の労働時間数以上の場合のみ加入義務が発生します。その基準は以下の2点です。
(1)1日または1週間の労働時間が正社員の概ね4分の3以上の方
(2)1ヶ月の労働日数が正社員の概ね4分の3以上の方
正社員の1週間の所定労働時間を40時間としている企業が多いので、目安としては1週間の労働時間が30時間未満であれば、社会保険に加入しなくてもよいということになります。また1週間の労働時間が40時間の者でも以下の2点に該当する方は社会保険に加入する必要がありません。
(1)日雇労働者(ただし1ヶ月を超えて使用されるに至ったらその日から加入)
(2)2ヶ月以内の期間を定めて使用される者(ただしその期間を超えて使用されるに至ったらその日から加入)
よって1週間の労働時間が30時間未満のパート・アルバイトでシフトを組むようにすると会社の社会保険料負担を軽減することができます。
問題解決は採用活動から始まる
雇用保険と社会保険の加入要件はご理解いただけたかと思います。そうはいっても長時間勤務してくれるパート・アルバイトは飲食店店長にとって、頼りになりますし、成長も早いため、ありがたい存在でしょう。しかし、ここまで述べた社会保険料負担の大きさや退職のリスクを考えれば、短時間のパート・アルバイトを上手に活用することも重要であることが分かります。飲食店経営は、正社員比率が低いということが弱みといわれます。しかし、雇用保険料や社会保険料をコントロールすることが可能であることは、実は他の業種にはない大きなメリットでもあります。これはすなわち、雇用保険料や社会保険料の加入要件について正しく理解すれば、正社員ばかりの業種に比べ14%の人件費を節約することができるということなのです。まずは雇用保険や社会保険の加入要件を理解し、うまくシフトを組むことは飲食店店長の必須スキルであるといえるでしょう。
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2011年2月5日「飲食店労務管理超基礎【第1回】飲食店店長ならば、必ず就業規則を整備する」
https://roumu.com
/archives/51821707.html
(中島敏雄)
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