解散要件の緩和を含む厚生年金基金代行割れ問題に対する厚労省報告書
いわゆるAIJ問題を契機として厚生年金基金の問題が改めて炙り出されましたが、厚生労働省では「厚生年金基金等の資産運用・財政運営に関する有識者会議」を設置し、その見直しの方向を検討してきました。先週の金曜日にその報告書が取りまとめられました。本日はその中からもっとも大きな注目を浴びている事項の一つである総合型厚生年金基金を中心とした代行割れ問題への対応の方向性について取り上げましょう。
[代行割れ問題の深刻化と総合型厚生年金基金の課題]
○ 平成15年から平成17年までにかけて、企業会計基準の見直しの影響もあり、大企業を中心に「代行返上」が進んだ結果、現在では基金の約8割は中小企業を母体とする総合型基金となっている。
○ 総合型基金の母体企業の中には厳しい経営状況に置かれているところもあり、積立不足に伴う追加の事業主拠出が企業経営にも大きな影響を与えるようになってきている。また、保有資産が最低責任準備金に満たない、いわゆる「代行割れ」となっている基金も、平成22年度末現在で全体の約4割、代行割れ総額は約6,300億円となっており、過去10年の平均で見ても、最低責任準備金に対する年金給付等積立金のバッファーが10%未満の基金(保有資産額が最低責任準備金の1.1倍未満の基金)が全体の約6割、その約半数(全体の約3割)の基金が代行割れとなっている。
○ 平成17年度以降導入されている特例解散制度により総合型基金が解散し、分割納付中に一部の事業所が倒産した場合、不足分の債務は、現行法の下では国と基金との間の債権・債務関係となっていることから、倒産事業所分の債務は基金の債務として残り、結果として残った事業所が連帯して負担することとなる。
○ 代行割れ基金の母体企業の多くは業況の悪化している業種に属しており、財政健全化の道筋が立たないために、既に解散を決議している基金もある。しかしながら、解散時の積立不足分の負担や倒産事業所に係る連帯債務の問題等のため、解散に踏み切れないまま財政状況がさらに悪化している基金もあり、厚生年金保険本体の財政への潜在的影響という観点からも代行割れ問題は深刻さを増している。
[代行割れ問題への対応]
○ 代行部分は公的年金の一部であり、代行給付に必要な資産を毀損することは、最終的に代行部分の給付責任を負う厚生年金保険本体の財政に影響を与えるものであることから、代行部分の財政運営の在り方を考えるに当たっては、厚生年金保険本体の財政に与えるリスクを縮小する方向で検討する必要がある。
○ 深刻化する代行割れ問題への対応としては、これまでも特例解散制度により、厚生年金保険本体への納付額の特例や分割納付などの措置が講じられてきたが、産業構造の変化等に伴い、母体企業の負担能力が著しく低下している基金では、こうした現在の措置を用いても、解散できない状況にある。
○ 代行部分の積立不足は母体企業が責任を持って負担することが前提であるが、一方で中小企業の連鎖倒産等による地域経済・雇用への影響、さらに基金を構成する企業がすべて倒産した場合には結果的には厚生年金保険本体の財政へ影響を与えることなどを踏まえれば、問題を先延ばしせず早急に制度的な対応を行う必要がある。
○ 具体的には、モラルハザードの防止に留意し、厚生年金保険の被保険者の納得が十分に得られる仕組みであることを前提に、基金の自主的な努力を支援するとの観点から、特例解散における現行の納付額の特例措置や連帯債務の仕組みを見直すことを検討すべきである。この場合、連帯債務の問題については、解散後も国と基金との間の債権・債務関係が続く現在の仕組みを見直して、解散時に各事業所の債務が確定できるようにすることを検討すべきである。
○ また、解散の際に、母体企業の財務諸表にそれまで簿外債務となっていた年金給付債務が計上されることに伴い母体企業の資金調達に大きな支障が生じることのないよう、金融行政と連携しつつ対応を検討する必要がある。
○ なお、分割納付に際して納付額に付される利率は厚生年金保険本体の実績運用利回りに連動しているが、母体企業の資金調達計画を組みやすくする観点から定率にするなどの緩和措置を講ずるべきであるとの意見もあった。
厚生労働省ではこの報告を踏まえて検討を加え、関連法改正案を来年の通常国会に提出する方針であるとしています。中小企業においては総合型の基金から脱退も解散もできず、財務リスクだけが年々高まっている状態にある企業も少なくなかったため、今回のAIJ問題が結果的にこの問題の解決に向けた一助となりそうです。
関連blog記事
2012年5月17日「AIJ問題により議論が進められる厚生年金基金の運用等に関する規制」
https://roumu.com
/archives/51930499.html
参考リンク
厚生労働省「第8回 厚生年金基金等の資産運用・財政運営に関する有識者会議」配付資料」
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002e9wf.html
(大津章敬)
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