[医療福祉労務管理連載(2)]有期雇用契約を結ぶ際の注意点

med2 前回は、現在の医療福祉業界における有期雇用契約職員の現状や有期雇用契約の急増により発生してきた課題などについて解説しましたが、今回は、そもそも「有期雇用契約」とはどのようなものであり、雇用契約を結ぶ際にはどのような点に注意すべきかについて解説します。
有期雇用契約とは
 雇用契約を契約期間について大別すると、「期間の定めのないもの」と「期間の定めのあるもの」があります。契約期間の定めのないものとは、将来的には職員の自己都合退職や事業主からの解雇などで、雇用契約が終了する可能性はあるものの、少なくとも雇用契約を結ぶ段階では退職の時期が決まっていないものをいいます。定年が定まっている場合であっても定年までに退職となる可能性も往々にあるため、こちらに分類されます。求人でよく見かける「正職員募集」というものは、期間の定めのない雇用契約を前提とし、定年まで勤めることのできる人材を募集していることが通常です。

 これに対し、契約期間の定めのあるものが有期雇用契約であり、雇用契約を結ぶ段階であらかじめ「契約期間の終了日=退職日」が決まっています。有期雇用契約は、契約の更新がされない限りはその期日に従って自動的に退職となります。契約職員、嘱託職員、臨時職員など名称は様々ありますが、それらは契約期間の定めのある職員のことを指して区別していることが多く、正職員とは別の雇用形態となっていることが一般的です。

有期雇用契約を結ぶ際の注意点
 有期雇用契約は退職となる期日が決まってはいるものの、契約の更新があるかどうかがはっきりしない場合が多く、雇用が不安定な状況ともいえます。そのため、職員は先行きがわからない状態で不安を抱えながら勤務していることも少なくありません。一方、事業主としても、更新の有無をあいまいにしておいて、雇止めを行おうとすれば、職員との間でトラブルに発展するおそれもあります。こうしたトラブルの防止や解決を図り、有期雇用契約が円滑に活用されるように、労働基準法や同法施行規則、厚生労働省で策定されている「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準(平成15年厚生労働省告示第357号)」において、様々な取扱いが示されています。以下ではその中から事業主が注意すべきポイントを4点挙げておきましょう。
①契約期間の有無と期間の明示
 雇用契約を結ぶ際は、契約期間の明示をしなければなりません。有期雇用契約の場合は、ここで具体的な期日を明確に定め、職員本人へしっかりと契約期間を書面で明示しておくことが肝要です。なぜならば、契約期間がはっきりと明示できていなければ、契約期間の定めのない契約と捉えることができ、場合によっては定年までの雇用義務が生じてしまう可能性があるからです。なお、有期雇用契約の場合、1回の契約期間の上限は60歳以上などの一定の場合を除き、原則として3年となっていますので、この点も合わせて注意が必要です。
②契約更新の有無と更新基準の明示
 有期雇用契約の職員にとって、雇用契約が更新されるかどうかは、関心事の一つです。有期雇用契約の場合、その更新の有無についても、契約締結の段階において書面において明示しておかなければなりません。契約締結時にすでに更新の有無が決定しているならばよいですが、その時点では不確定な場合もあるでしょう。そのような場合、労働条件通知書においては「更新する場合があり得る」とした上で、更新をするかどうかの判断基準を定め、あらかじめ職員に明示することが必要となります。この基準については、契約期間終了時の業務量により判断する、職員の勤務成績・態度により判断する、といったように具体的な内容を示しておき、実際に更新をするかどうかの検討の際には、その基準に基づいて判断を行うこととなります。契約更新の際の無用なトラブルを避けるためにも、事業主としては、労働条件通知書に上記の事項が記載されているかどうかを確認し、記載がない場合は追記しておくことが必要です。
③雇止めを行う場合は予告が必要
 雇用契約時には更新する可能性がある旨の契約を結んだものの、その後の経営状況の変化や人員配置の見直し等により、更新を行わないこととなる場合もあるでしょう。これは雇止めと呼ばれ、この場合、少なくとも契約期間が満了する30日前までに職員本人に対し、雇止めの予告をしなければならないこととされています。職員のその後の生活のことを考えると、更新しないことが決定した段階で早めに予告をすることに越したことはないのですが、一方で、あまりに早く予告した結果、職員がモチベーションを低下させることや、場合によっては早めに転職活動をした結果、契約期間の終了前に退職してしまうというリスクもあります。雇止めを行う際には、職員の生活環境や性格等も見極めた上で、慎重な判断を行うことが肝要です。
なお、雇止めの予告が義務付けられているのは、以下のいずれかに該当する場合です。
ア 有期雇用契約が3回以上更新されている場合
イ 1年以下の有期雇用契約が更新又は反復更新され、最初に有期雇用契約を締結してから継続して通算1年を超える場合
ウ 1年を超える契約期間の有期雇用契約を締結している場合
④雇止め理由の明示
 雇止めの予告をした後に、職員から雇止めの理由を教えて欲しいという要求があれば、拒むことはできず、書面にて遅滞無く理由を明らかにしなければなりません。この取扱いは、退職後も同様です。すなわち、事業主としては、理由を尋ねられた際には、はっきりと答えられるようにしておかなければならないということです。特に契約内容や更新回数が同程度の職員がおり、一方は更新をするけれども、他方は更新しないというような場合には、トラブルとなりやすいため、具体的な差を示して理由が言えるようにしておkましょう。なお、ここでいう雇止めの理由とは、単に契約期間の満了ということでは足りず、担当業務終了のため、無断欠勤等の勤務不良のため、といったように雇止めを決定することとなった具体的な理由でなければなりません。

 有期雇用契約にまつわるトラブルは、上記のポイントを踏
まえた対応により未然に防げることが少なくありません。そのため、改めて現場の対応を見直しておきましょう。また近年では、有期雇用契約に関する法改正が相次いでいますので、その動向も見逃せません。そこで次回からは、有期雇用契約に関係する法律の概要と、法改正の内容や運用ポイントについて解説していきます。


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2014年3月21日「[医療福祉労務管理連載(1)]医療機関・福祉施設における有期雇用契約の現状と抱える課題」
https://roumu.com
/archives/52030275.html

(小堀賢司

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