就業規程は周知していなければ拘束力はありません!
前回検討した「マイカー通勤管理規程」は、宮田部長と大熊社労士との間で、何度もやりとりをした結果、遂に完成した。そこで服部社長に最終確認してもらうために大熊は服部印刷を訪問した。
宮田部長:
わが社の規程もここのところずいぶん見直しが進みましたね。これも大熊先生にご指導いただいたお蔭です。福島さん、最近見直した規程の一式は用意してもらっているよね?
福島さん:
はい、部長。就業規則に、セクシャルハラスメント防止規程、マイカー通勤管理規程、それに出向規程ですね。この1、2ヶ月のうちに見直すことができました。大熊先生ありがとうございます。
大熊社労士:
いえいえ、これもみなさんの高い意欲があってこそですから。しかし、まだまだいろいろ細かな点を見ていくと変えなければならない規程や追加しなければならないものが出てくると思いますよ。
服部社長:
大熊さん、福島さんが打ち合わせに加わってから、当社への来社頻度が高くなっているように思いますが、気のせいですかねぇ
大熊社労士:
社長、なにをおっしゃりますかそんなことはないですよ。福島さんは聡明な上、実務もよく理解されているので、宿題がどんどん進み、結果として従来よりもスパンの短い訪問となっているだけですよ(少し苦し紛れの言い訳!?)。ところで話を元に戻しますが、追加または改正した規程類は社員に周知していますか?
宮田部長:
はい、先生のご指導でも周知+教育が重要とのことでしたので、教育についてはこれからスケジュールを立てていく予定ですが、周知は既に始めているはずです。でも一度、確認しておきましょう。福島さん、各部署に規程集というファイルが置いてあるので、新しいものに変わっているか調べてきてくれないか。
福島さん:
はい、承知しました。すぐに確認してまいります。10分もあれば全部署のものを確認できると思いますので、行ってきます。
そして10分後
福島さん:
今戻ってまいりました。部長、各部署の規程集を確認してきたのですが、「セクシャルハラスメント防止規程」がありません。この規程は部長が作成、配布してくださるということだったと思いますが違ったでしょうか?
宮田部長:
あっ、そうだったね。書類を準備したのは確かだけど、それからどうしたかなぁ?記憶がないなぁ!?ちょっと待ってください。机の引き出しに紛れ込んでいるかもかもしれないので探してみます。あった、あった。書類ができあがったものだからすっかり安心して、そのままになってしまっていたようです。申し訳ありません。
服部社長:
困るなぁ、宮田部長。しっかりしてくれよ。ところで、社内研修も6月に行う予定だったね。ということは、セクシャルハラスメント防止に関する規程が変わったことを社員は知らないということになるね。
大熊社労士:
それはいけませんね。就業規則の服務規律で「社員は性的な言動により他の社員に苦痛を与えること、また他の社員に不利益を与えたり、就業環境を害してはならない。詳細についてはセクシャルハラスメント防止規程に定める」としておきながらも、周知ができていなかったのですね。他の会社でも、いろいろな規程は作るものの、周知していないケースがたまに見受けられます。
服部社長:
周知は必要だと思いますが、そんなに重要なことですか?
大熊社労士:
はい、とても重要です。規程を改正しても周知がなければ実行性や拘束性を伴いません。御社の場合、セクシャルハラスメント防止規程を早速作成しましたが周知されていない訳ですから、先日説明した男女雇用機会均等法の措置義務を果たしたことにはなりません。規程などの社内ルールは社員と事業主のお互いが理解してはじめて守られるのであって、一方だけが知っていて、もう一方は知らないというのではルールにはなりません。裁判例でもこのことを示しています。
参考:「フジ興産事件」(最高裁二小 平成15年10月10日判決)
使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要する(最高裁昭和54年10月30日第三小法廷判決〈国労札幌支部事件〉)。そして、就業規則が法的規範としての性質を有する(最高裁昭和43年12月25日大法廷判決〈秋北バス事件〉)ものとして、拘束力を生ずるためには、その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要するものというべきである。
服部社長:
なるほど、それでは宮田部長ではなく、福島さんが早速各部署に配布しておいてください。
宮田部長:
社長!分かりやすい当てつけですね(苦笑)。それにしても今回のことは申し訳ありませんでした。庶務的な仕事については、これからはしっかり者の福島さんにお願いすることにします。ところで、周知の方法ですが、他社もわが社のように規程集ファイルで綴っているのでしょうか?実は、以前ある部署で規程集をその他の処分書類と一緒に廃棄してしまったらしく1年間ほどまったく気づかなかったということがあったのです。そのようなことをなくしたいのですが。
服部社長:
紙をファイルするのもいいが、近い将来社内ネットワークを構築したいと思っているので、部署のパソコンで閲覧できるようにならないでしょうか。大熊先生、そのような方法もOKですよね?
大熊社労士:
はい、中小企業では規程集をファイルで綴っておき、各セクションに1冊ずつ置いているところはかなり多いですね。また、パソコンで閲覧する方法でも周知していると認められます。ただし、パソコンが苦手な人もいますので、マニュアルなどを作って操作方法がわかるようにしておく必要があります。また、操作もできるだけ簡単な設定にしておいてください。
服部社長:
パソコン上での周知は、今すぐというわけではないのですが、研究を進める必要があると思っていますので、また教えてください。今日はありがとうございました。
>>>to be continued
[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
こんにちは、大熊です。今回は就業規則等の周知について取り上げてみました。就業規則等が効力を持つためには、社員に対し周知されていることが原則となります。したがって、就業規則や労使協定、各種法令などの改正が行われたら速やかに周知するようにしてください。周知方法としては「常時各作業場の見やすい場所に掲示・備え付ける」「書面で交付する」「磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置する」といった選択肢がありますので、自社にあった方法で行なえば良いでしょう。また、周知した就業規則等について、疑問点や不明点があれば質問できる窓口(担当者)を設けておくことが望ましいでしょう。
[関連条文]
労働基準法第106条(法令等の周知義務)
使用者は、この法律及びこれに基づく命令の要旨、就業規則、第十八条第二項、第二十四条第一項ただし書、第三十二条の二第一項、第三十二条の三、第三十二条の四第一項、第三十二条の五第一項、第三十四条第二項ただし書、第三十六条第一項、第三十八条の二第二項、第三十八条の三第一項並びに第三十九条第五項及び第六項ただし書に規定する協定並びに第三十八条の四第一項及び第五項に規定する決議を、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によつて、労働者に周知させなければならない。
2 使用者は、この法律及びこの法律に基いて発する命令のうち、寄宿舎に関する規定及び寄宿舎規則を、寄宿舎の見易い場所に掲示し、又は備え付ける等の方法によつて、寄宿舎に寄宿する労働者に周知させなければならない。
[関連判例]
フジ興産事件(最高裁平成15年10月10日第二小法廷判決)
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/06/s0610-5b2.html#5
関連blog記事
2007年4月9日「社員を出向させるには本人の同意が必要ですか?」
https://roumu.com/archives/53577054.html
2007年3月27日「出向規程」
http://blog.livedoor.jp/shanaikitei/archives/53361083.html
2007年4月16日「具体的なセクハラ対策の実施が求められています!」
https://roumu.com/archives/53586123.html
2007年3月9日「改正男女雇用機会均等法対応のセクハラ規程 ダウンロード開始」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/50910960.html
2007年4月23日「プライベートな時間で飲酒運転事故を起こした従業員を懲戒できるのか?」
https://roumu.com/archives/53842865.html
参考リンク
福岡労働局「就業規則の作成・周知のポイント」
http://www.fukuoka.plb.go.jp/29joken/joken01_03.html
茨城労働局「就業規則は社員に周知しなければならない」
http://www.ibarakiroudoukyoku.go.jp/soumu/qa/syugyo/syugyo03.html
(鷹取敏昭)
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