パートタイマーが扶養家族にこだわる理由
前回、大熊はパートタイマーとの雇用契約時の注意点についての説明を行った。それに引き続き、今回はパートタイマーの雇用でもっとも特徴的な扶養に関することについて説明することとした。
大熊社労士:
パートタイマーの雇用契約時の注意点について説明させて頂いたとおりですが、実際にパートタイマーを雇用したときに、よく現場が困ってしまうことがあります。それはどのようなことかお分かりになりますか?
宮田部長:
そうですね、家庭の事情でパートタイマーをしている方が多いでしょから、家族の急病や家事などで突然休むといったことがあるのではないでしょうか。
大熊社労士:
そうですね。一般的には正社員に比べて、そうした突然の欠勤は多いので、シフトの調整に手間取ることが多いのは事実ですね。しかし、その頻度の多少はともかくとすれば、欠勤のことは正社員にも同じようなことは言えます。それ以外に思い当たるところはありませんか?
福島さん:
よろしいでしょうか?私は収入のことではないかと思います。夫の扶養家族の範囲で働きたいというパートタイマーの方が多く、年末になるとそのやり繰りで現場が困っているということを聞いたことがあります。
大熊社労士:
さすが福島さん、そのとおりです。後で詳しく説明しますが、扶養家族の範囲で働くということは、簡単にいうと一定の年収以下で働かなければならないということです。このことが影響して、本当は繁忙期で一番働いて欲しい年末に働けないという事態になり、現場が困って泣かされるという話は御社に限らず、多くの企業でよく聞かれます。もちろん、この扶養家族の範囲にこだわらない方であれば、問題はありません。
宮田部長:
そうなのですか。私の妻はずっと専業主婦でしたので、そのようなことにはまったく関心がありませんでした。その扶養家族の基準とはどういうものなのですか?
大熊社労士:
被扶養者の範囲内の基準として、一般的に「103万円基準」「130万円基準」があるといわれています。まずは「103万円基準」から説明してみましょう。所得税の関係で配偶者控除が受けられる配偶者の年収基準は、給与所得控除額(最低65万円)プラス基礎控除(38万円)の合計103万円、これ以下となります。これがいわゆる年収103万円基準と呼ばれるものですが、もう少し具体的にみてみましょう。例えば、1月から11月までに合計100万円の収入があったとしましょう。そうすると12月には3万円分しか働けませんので、時給750円のパートタイマーであれば40時間、普段の約3分の1程度しか働けません。単純に臨時アルバイトを雇って済むのであれば良いのですが、その人に頼っているような業務の場合は困ってしまいます。
服部社長:
大熊さんが採用のところでも計画性を持ってパートタイマーを採用しなければならないとおっしゃっていましたが、そのことですね。
大熊社労士:
はい、パートタイマーの労働時間はしっかりとした計画を持った上で設定しなければなりません。これには残業分も考慮しなければなりませんので、社員以上にスケジュール管理が必要といえるでしょう。
福島さん:
そのスケジュールの立て方としては、まず年間総労働時間数を計算して、次に繁忙期に必要な労働時間数を予定し年間総労働時間数から差し引く。残った時間数を他の期間に振り分けるということで良いのでしょうか。
大熊社労士:
すばらしい、私の秘書になってもらいたいくらいですね。さらに残業がある場合の割増賃金分や賞与を支給する場合はその分を考慮しなければなりませんので、労働時間数はさらに短くなるでしょう。したがって、現場とよく相談し、余裕をもって勤務スケジュールを組むことがポイントとなります。
宮田部長:
なるほど、よく分かりました。もう一つの基準について教えていただけますか?
大熊社労士:
はい、次は年収「130万円基準」についてご説明いたしましょう。健康保険の被扶養者として認定されるためには、対象者の年収が130万円未満であることが一つの要件とされています。ただし、ここで注意しなければならないのが、正社員の勤務時間数及び勤務日数の4分の3以上勤務している場合は、パートタイマーであっても健康保険の被保険者となるという点です。基準は年収だけではないということです。例えば、時給750円のパートが週30時間(1日7.5時間)、週4日(月換算17日)働くとすると、月収は7.5時間×17日×750円で95,625円、これを年収に換算すると95,625円×12月で1,147,500円となり、年収では130万円未満ですが一定以上の労働時間数があるため被扶養者ではなく、被保険者本人の扱いとなります。
福島さん:
なるほど、そうなのですか。実は“130万円”と“労働時間”の2つの要件で少し頭が混乱していましたが、よく理解できました。
大熊社労士:
ちなみにここで更に問題を複雑にしているのが、家族手当の支給要件です。多くの企業では家族手当の支給対象について、所得税や健康保険の被扶養者であることを要件としています。そのため、配偶者であるパートタイマーがこの手当の支給停止を嫌って、年収のコントロールをすることになるのです。具体的な例をあげて説明しましょう。
[前提条件]
・夫の勤務する会社では配偶者手当20,000円が支給されている。その支給要件は健康保険の被扶養であること。
・パートタイマー(月収120,000円)が健康保険の被保険者本人となった。
[影響額]
夫の方に支給される家族手当の支給停止=
年額240,000円のマイナス
パートタイマーの健康保険料(介護保険あり)=月額5,564円、年額換算66,768円のマイナス
パートタイマーの厚生年金保険料=月額8,639円、年額換算103,668円のマイナス
以上のように、家族の単位で考えると++=年額410,436円の手取りが減少することになります。
福島さん:
扶養家族の範囲内であれば、夫に家族手当が支給され、パートタイマーの保険料負担もなくなることを考えれば、扶養家族にこだわるのも無理はないですね。
大熊社労士:
厳密には、社会保険料控除や将来もらえる年金額の増額などの細かな点について計算は行っておりませんが、現在の手取りがどうかということが最大の関心ですので現実的なものといえるでしょう。したがって、家族手当や時給の金額にもよりますが、一般的には年収130万円を超え180万円位の間は、逆に手取りが減るといわれています。
宮田部長:
先生の説明で、パートタイマーがなぜ扶養家族にこだわるのかよく理解できました。
>>>to be continued
[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
こんにちは、大熊です。今回は「パートタイマーの扶養家族」について取り上げてみました。被扶養者の範囲内で働くことを希望しているパートタイマーの場合は、いずれにしても正社員以上に計画的に勤務スケジュールを組むことが必要となります。現場の責任者とよく相談し会社側の求める勤務時間と、パートタイマー側の希望する勤務時間との調整を図っておく必要があります。とにかく現場として困るのが、計画どおりに業務が進まないことでしょうから事前に双方の予定をつき合わせておくことが望まれます。また、子女の手が離れて働く時間の余裕ができた(扶養家族にこだわる必要がなくなった)パートタイマーには、労働時間の見直しの相談をしてみてもよいでしょう。労使双方の条件に食い違いがないよう人事担当者としては調整を図ってください。
[関連条文]
短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律
http://wwwhourei.mhlw.go.jp/cgi-bin/t_docframe.cgi?MODE=hourei&DMODE=CONTENTS&SMODE=NORMAL&KEYWORD=&EFSNO=1336
関連blog記事
2007年5月28日「パートタイマーとの雇用契約締結時はここを注意しましょう」
https://roumu.com/archives/54253639.html
2007年5月21日「パートタイマー募集にあたって、これだけは押さえましょう」
https://roumu.com/archives/54203815.html
参考リンク
タックスアンサー「所得税 配偶者控除」
http://www.taxanswer.nta.go.jp/1191.htm
社会保険庁「(健康保険)被扶養者(被扶養者とは?)」
http://www.sia.go.jp/seido/iryo/iryo07.htm
社会保険庁「(健康保険)保険について」
http://www.sia.go.jp/~yamaguchi/insurance/health01.htm
社会保険庁「健康保険・厚生年金保険適用関係届書・申請書一覧」
http://www.sia.go.jp/sinsei/iryo/index.htm
社会保険庁「定期的な被扶養者の認定状況の確認(検認)の実施について」
http://www.sia.go.jp/topics/2006/n0825.html
(鷹取敏昭)
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