高年齢者を再雇用する際の処遇は、どう考えればいいの?
前回、高年齢者の雇用継続制度について検討を実施したが、その会話の中で大熊は、服部社長の社員に対する真剣な想いを強く感じたのであった。さて、今回はそれに引き続き、再雇用時の処遇について検討を進めることとなった。
大熊社労士:
高年齢者の雇用継続制度に関する規程類や協定書などは問題はないようです。そこで次に進みたいと思いますが、寺田部長と60歳以降の雇用について面談を行うに際して、給与などの処遇面はどのようにお話されるお考えでしょうか?
服部社長:
はい、その点が課題として残っているのです。宮田部長が参加したセミナーの資料を参考に検討してみたのですが、それがわが社として適当なのかどうかが分からないので大熊さんのご意見をお聞きしたいと思っていたところなのです。
大熊社労士:
承知しました。その前に「再雇用制度」というのは定年時点で一旦、雇用契約を終了させ、雇用条件を改めて契約し直すということはご存知でしょうか?
宮田部長:
はい、理解しています。定年延長制度とは、その点が大きく違っていますよね。給与などの処遇の引き下げが可能というのは分かっているのですが、現実的にどのような条件を提示したら良いか決めかねているところです。
大熊社労士:
そうですか。処遇を検討する前提としては、再雇用後の職務内容をどのようにするかがポイントとなりますが、この点については御社としてどのように考えていらっしゃいますか?
服部社長:
後任者の育成がまだ十分ではありませんので、ここ1~2年間は現在の仕事をある程度は担ってもらおうと考えています。それと平行して後任者の育成をしてもらい、次第に業務そのものや責任を後任者に引き継いでもらうという計画です。また、平行して社内にあるいろいろな書類やマニュアルの整備を行ってもらいたいとも考えています。
大熊社労士:
なるほど、よく分かりました。現在の仕事を当面は担ってもらうということですね。ただ、現在の延長線上で仕事をしてもらうと後任者の育成がなかなか進まないということも危惧されますが、その点はいかがでしょうか?
服部社長:
そうですねぇ。一定の歯止めが必要だということですね。例えば、勤務時間については非常事態でも起こらない限りは定時で退社してもらい、休日出勤もさせないということではいかがでしょうか?
大熊社労士:
結構だと思います。加えて引き継ぎ計画書を作成してもらい、進捗状況を報告させることも必要でしょう。ところで、給料水準としてはどのように考えておられますか?
宮田部長:
当面現在の仕事はそのままですが、定時退社をしてもらうことで勤務時間は2割程度減り、責任も半分程度は少なくできるのではないかと考えています。そうすると、給料は現在の70%ぐらいが妥当ではないかと考えているのですが、いかがでしょうか?
大熊社労士:
60歳を超えた方の処遇を考えるときに、ポイントの一つとして厚生年金の給付や雇用保険の高年齢者雇用継続給付金があることはご存知でしょうか?
宮田部長:
はい、セミナーでもそのことが強調されていましたので、私自身も少し勉強してみました。給料の額によって年金や給付金が調整されるというものですね。しかし、私の給料を例にして年金相談センターやハローワークでいろいろシミュレーションをやってもらったのですが、調べれば調べるほど分からなくなってしまったのです。
服部社長:
その報告は宮田部長から受けていました。私の結論としては、そうした給付金等を活用して、最適給与を逆算するのではなく、働きに応じた給料を支給しようということにしたいと思っています。その上で、年金や給付金が受給できるのでしたら、別途個人として受けてもらおうという考え方です。もちろん、本人との面接で勤務時間や給料の希望が出てきたときには、十分希望を踏まえて検討するつもりです。
大熊社労士:
よく分かりました。本来、そうあるべきだと私も思います。支給額が決まりましたら、念のためご連絡を頂けませんか?私の事務所に60歳以降の賃金シミュレーションソフトがありますので、それで最終的な手取りを確認してみようと思います。なお、シミュレーションするためには寺田部長の給与、賞与データの他、受給できる年金額も必要です。寺田部長が事前に年金相談センターや社会保険事務所で年金がいくらもらえるか既に計算してもらっていれば、それをご提示いただけるとすぐに計算することができます。一度ご確認いただけないでしょうか。
宮田部長:
わかりました、寺田部長に聞いてみます。手に入れば是非シミュレーションをお願いします。せっかく働いてもらうのでしたら、できるだけ不利にならないような給与設計をしたいと思います。
服部社長:
高年齢者といっても、現在の60歳台はバリバリ働ける方がたくさんいます。定年後はのんびりと暮らしたいという方は別として、働きたいという社員にはぜひ活躍し、やりがいのあることをしてもらいたいと思っており、その最初の対象者が寺田部長というわけです。彼は、責任感が強いですから、今後定年を迎える社員の良い見本となってくれるものと期待しています。
>>>to be continued
[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
こんにちは、大熊です。前回に引き続き「高年齢者の雇用継続制度」について取り上げてみました。高年齢者の再雇用時の処遇については、定年時に一旦雇用を終了させ、新たな雇用条件のもとで雇用契約を結び直しますので給料を改定することが可能です。しかし、雇用は働きたいという社員ニーズと、働いてもらいたいという会社ニーズが合致して成り立ちますので、高年齢者の能力を十分に発揮してもらうためには、職務にあった処遇をまずは基本とすべきでしょう。一方、厚生年金や雇用保険の高年齢者雇用継続給付金などを活用すると、給料を下げても一定の収入は確保できる仕組みがあります。この仕組みを上手く利用するには社員に制度を詳しく説明するとともに、60歳以降の年金見込額を事前に調べておいてもらうなど社員の理解と協力が必要です。60歳以降の処遇については、会社の方針を設定した上で社員と再雇用についての話し合いをする前に条件面について十分検討しておいてください。
[関連条文]
高年齢者等の雇用の安定等に関する法律 第9条(高年齢者雇用確保措置)
定年(六十五歳未満のものに限る。以下の条において同じ。)の定めをしている事業主は、その雇用する高年齢者の六十五歳までの安定した雇用を確保するため、次の各号に掲げる措置(以下「高年齢者雇用確保措置」という。)のいずれかを講じなければならない。
一 当該定年の引上げ
二 継続雇用制度(現に雇用している高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度をいう。以下同じ。)の導入
三 当該定年の定めの廃止
関連blog記事
2007年7月16日「わが社の「高年齢者継続雇用制度」はこれで良いのでしょうか?」
https://roumu.com/archives/64567296.html
2007年7月16日「多様な労働力を活用するダイバーシティマネジメントで組織を活性化」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51021392.html
2006年12月25日「継続雇用制度における選定基準等に関する協定書」
http://blog.livedoor.jp/shanaikitei/archives/51220945.html
2006年9月11日「改正高年齢法への対応は67.2%の企業が継続雇用制度を選択」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/50717803.html
参考リンク
厚生労働省「改正高齢法に基づく高年齢者雇用確保措置の実施状況について」
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2006/10/h1013-3.html
厚生労働省「高年齢者雇用対策」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/koureisha.html
(鷹取敏昭)
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