産前産後休暇は社員からの請求が必要なのですか?
服部社長は遅めの夏期休暇を10日間とり、奥様と東北地方へ旅行に行っている。社長は休暇前の事前準備を完璧に行っていったため、会社は普段以上に落ち着いた状態でみな各自の業務に淡々と進めている。本日は福島さんも不在のため、留守番役の宮田部長と2人での面談となった。
宮田部長:
妊娠をして現在5ヶ月目に入った女性社員がいるのですが、優秀な社員ですから出産後も引き続き勤めてもらいたいと考えています。そこで、産前産後休暇についてお尋ねしたいのです。初歩的な相談で恥ずかしいため、服部社長が夏期休暇、福島さんも不在のこの機会を利用して教えてください。
大熊社労士:
恥ずかしくなどありませんよ。人事労務の分野は広くて深いものですから、なかなか覚えきれないのは当然です。専門家である社労士であっても一人で全体を深く理解するのは困難なくらいです。ましてや総務部長としては、人事労務ばかりでなく他の様々なことに対応しなければならないのでしょうから、簡単なことであってもどうぞ遠慮なくお尋ねください。
宮田部長:
そう言っていただけると気が楽になります。産前産後は休暇を与えなければならないのは分かっているのですが、どのくらい与えれば良かったのでしたかね?
大熊社労士:
産前休暇は6週間(42日間)、ただし、双子以上の多胎妊娠の場合は産前14週間(98日間)となります。産後の休暇は8週間(56日間)です。
宮田部長:
この産前産後休暇を与えるには、医師等の診断書を提出させればよいのですか?
大熊社労士:
それで良いでしょう。同時に休暇の届出(請求)書を提出させておくようにしてください。
宮田部長:
請求が必要なのですか?産前産後休暇は当然与えなければならないものだと思っていましたので、診断書だけでよいと考えていました。
大熊社労士:
産前休暇の場合、本人の請求があって初めて休暇を与えることになります。逆に言えば、出産予定日を目前にしていても請求がなければ、引き続き働かせていても法律違反ではありません。ただその場合、実務上では母体や胎児のことを考え、本人や医師とよく相談して対応することが必要でしょう。なお、産後6週間は本人の請求がなくても必ず休ませなければならず、本人が働きたいといっても働かせてはいけません。しかし、産後6週間を経過した後は、本人から働きたいという請求と医師が支障ないと診断した場合には働かせることはできます。
宮田部長:
ところで、出産日は産前、産後のどちらに入れて考えればよいのでしょう?
大熊社労士:
これは実務的に迷うところですが、出産日は産前休暇に入れます。なお、産前6週間とは分娩予定日を基準として計算しますので、実際の分娩日が予定日からずれれば当然産前の期間も変ります。例えば、3日分娩が遅くなれば産前休暇は45日間(42日+3日)となり、反対に3日分娩が早くなれば39日間(42日-3日)となります。
宮田部長:
産後休暇の期間は産前休暇の日数が変ったことによって増えたり減ったりするのですか?
大熊社労士:
いいえ、産後休暇の期間は産前休暇日数の多い少ないに関わらず8週間で変わることはありません。多胎妊娠の場合でも8週間となります。
宮田部長:
今は病院などの医療機関が整って安心して出産できますが、私の若い頃などはまだ施設、設備や技術が整っておらず出産しても亡くなる赤ちゃんが今よりは多かったですね。また、反対に妊娠初期や中期に流産などで育たないこともあったようです。
大熊社労士:
昔は出産のときにたいへんなご苦労があったことはテレビのドキュメントなどで見たことがあります。今は少子化の時代ですから一人でも無事に育ってもらいたいものです。ところで、労働基準法でいう出産とは、妊娠4ヶ月以上の分娩のことをいいます。妊娠での1ヶ月は28日で計算するため4ヶ月以上というのは85日以上(28日×3ヶ月+1日)のことをさします。また、出産は胎児が生きて産まれて来るだけではなく死産も含まれ、さらに死産の中には人工妊娠中絶も入ります。例えば、産前休暇を取る前の妊娠初期に死産であった場合でも産後休暇は必要となりますので、注意しておいてください。
宮田部長:
へぇー、そうなのですか。それは意識していませんでした。教えていただきありがとうございました。
>>>to be continued
[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
こんにちは、大熊です。今回は産前産後休暇について取り上げてみました。産前産後休暇は女性を保護するための休業として、労働基準法第65条に規定されています。産前産後の請求手続きの方法や取扱い内容など改めて適法な対応になっているか、確認してみてください。また、同条第3項には妊娠中の女性が請求した場合においては、他の軽易な業務に転換させなければならないと規定しています。大きな企業なら配置転換も可能でしょうが、数人の小さな会社では実質的にそのような取扱いが難しい場合が多いでしょう。この場合、新たにそのような業務を創設してまで与える義務はありませんが、十分に妊婦さんと相談して安全配慮を怠らないようにしてください。
[関連条文等]
労働基準法 第65条(産前産後)
使用者は、六週間(多胎妊娠の場合にあつては、十四週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合においては、その者を就業させてはならない。
2 使用者は、産後八週間を経過しない女性を就業させてはならない。ただし、産後六週間を経過した女性が請求した場合において、その者について医師が支障がないと認めた業務に就かせることは、差し支えない。
3 使用者は、妊娠中の女性が請求した場合においては、他の軽易な業務に転換させなければならない。
S23基発1885号、S26婦発113号(出産の範囲)
・出産とは妊娠4か月以上(1か月は28日として計算し、4か月以上というのは、85日以上のことである。)の分娩とし、生産だけでなく死産(人工妊娠中絶も含まれる。)も含まれる。
S25基収4057号(出産の範囲)
・出産当日は産前6週間に含む。
S26婦発113号(産前産後の日数計算)
・産前6週間の期間とは自然の分娩予定日を基準として計算し、産後8週間の期間とは現実の出産日(又は人口流産を行った日)を基準として計算する。
S33婦発310号(産前産後の日数計算)
・産後の8週間は、産前休業の期間には関係なく、産後休業として取り扱われる。
S61基発151(軽易業務)
・労基法65条3項は原則として女性が請求した業務に転換させる趣旨であり、新たに軽易な業務を創設して与える義務はない。
関連blog記事
2007年6月25日「賞与査定で産前産後休業はどのように取り扱えばいいの?」
https://roumu.com/archives/64530902.html
2007年1月20日「休暇(欠勤)届」
http://blog.livedoor.jp/shanaikitei/archives/51723593.html
2007年8月9日「母性健康管理指導事項連絡カード」
http://blog.livedoor.jp/shanaikitei/archives/54764218.html
(鷹取敏昭)
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