病気が労災の対象になるかどうかの判断はどうすればよいのでしょうか?

 「労災かくしは犯罪です」というポスターをきっかけに、労働災害の取り扱いについて勉強している宮田部長が日頃から疑問に思っていた仕事中の病気について大熊社労士へ質問をした。



宮田部長:
 「労災かくし」のことはよくわかりました。ところで、仕事中でケガをしたときは労災だということはわかるのですが、病気の場合はどう考えたらよいでしょうか?
大熊社労士:
 そもそも労災保険の対象となるためには、「業務起因性」と「業務遂行性」というの2つの要件が必要です。
宮田部長:
 それは私も勉強しました。「業務遂行性」とは事業主の支配下にある状態で起きたかどうか、「業務起因性」とは業務と傷病等の間に一定の因果関係があるかどうかですよね。
大熊社労士:
 よく勉強されていますね、いつも本当に頭が下がります。病気が労災として認定されるためには、基本的に同様の要件の充足が求められます。しかし、病気の場合は通常、様々な要因や条件が絡んで影響しているため、業務に起因しているかすぐには判断がつかないことが多いのです。
服部社長服部社長:
 そうだよね。病気の場合、既に慢性的な疾患として持っていて、それがたまたま仕事中に発症したようなケースは労災にはならないよね。
大熊社労士:
 少し専門的になりますが、発症した疾病が業務に起因しているかを判断する要件としては、労働の場における有害因子の存在、有害因子へのばく露条件、発症の経過および病態の3要件が示されています。しかし、会社の方でこの基準にしたがって業務上かどうかを判断することは極めて難しいでしょう。
宮田部長:
 そうすると、ケガの場合と違って業務上の病気が労災となるかどうかの判断は会社ではできませんね。
大熊社労士大熊社労士:
 おっしゃる通りですが、中には労災認定が比較的容易なものもあります。例えば、災害により負傷し、その負傷が原因となって発症した疾病などや、一定条件の環境で従事した場合に発症の危険性が高まる、即ち業務が有力な原因となって発症するという疾病も知られています。これらは医学的評価が確立しているので一定の要件を満たせば認定されることになっています。
宮田部長:
 例えば、ニュースで時々聞くタンク内での作業中の酸素欠乏症だとか、最近問題になっているアスベストによる中皮種などのことでしょうか。
大熊社労士:
 そのとおりです。他には、脳内出血や脳梗塞、心筋梗塞という脳や心臓の疾患などが示されています。
服部社長:
 脳や心臓の疾患は、本人の食生活や喫煙、飲酒の量などが影響して長い年月の中で徐々に動脈硬化を起こし、悪化して発症する生活習慣病ではないのですか?
大熊社労士:
 基本的にはそのように考えますが、血管の病変を著しく悪化させた原因が業務にある場合には、労災補償の対象となります。そこで、どのような要因が脳や心臓の疾患を悪化させ、発症させるのか、負荷の程度はどのように評価すればよいのかなどの具体的な目安が必要となりますが、それを示しているのが認定基準といわれるものです。
宮田部長宮田部長:
 脳や心臓に元々病気を持っていても、その病気を著しく悪化させた場合には労災の対象になるのですか。ということは、社員の健康状態の把握が必要というわけですね。
大熊社労士:
 おっしゃるとおりです。これからは社員の健康管理は会社の大きな役割の一つだといえるでしょう。なお、脳や心臓疾患の労災判断については、前日から発症直前までの間の極度の緊張や恐怖など異常な出来事、発症前1週間以内における過重な労働、発症前6ヶ月以内における長時間労働等の過重労働の有無、加えて労働者がもっている基礎疾患の程度などを含め総合的に判断して、労災の対象かどうかが判断されます。このの過重労働の中には労働時間数のほか、不規則な勤務形態や温度環境、精神的な緊張の有無などを含めて検討することになっています。
服部社長:
 総合的に判断するということになれば、決定が下るまでかなりの時間がかかることになりますね。それまでの間は、どう対応すればよいのでしょうか?
大熊社労士:
 認定基準があるとはいっても、発症した一人ひとりの身体や精神、環境その他いろいろ条件が異なっているため、ケガに比べると判定がでるまでには時間かかるでしょう。労災となるかどうかわからない場合には、会社を管轄する労働基準監督署の労災担当者に問い合わせをし、相談しながら対応するとよいですね。


>>>to be continued


[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス こんにちは、大熊です。今回は病気に関する労災認定について取り上げてみました。病気の労災認定は非常に難しいものがありますが、一定範囲の病気については、業務上のものかどうかの判断基準が労働基準法施行規則別表1の2や認定基準等で示されています。中でも特に過重労働によって引き起こされる「脳・心臓疾患」や「精神障害」は、件数も増えていますので予防対策が必要です。過重労働の回避、健康診断の確実な実施、そして日々の健康チェックなどできるところから手を打っていきましょう。尚、労災か否かの判断は事業主に求められているわけではありません。労災認定の判断は労働基準監督署長が行うものですから、判断に迷う場合は労働基準監督署へ相談するようにしてください。



関連blog記事
2007年10月15日「「労災かくし」は、労災保険を使わないことではないのですか?」
https://roumu.com/archives/64683662.html
2007年9月23日「【実務家のための労務実務書紹介】労災保険情報センター「過労死(脳・心臓疾患)の労災認定のしくみ」」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51070152.html
2007年5月18日「過労死等の労災支給決定件数は過去最高を更新」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/50973025.html
2007年2月18日「健康診断は従業員とともに企業も守る」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/50889741.html
2007年9月11日「事故報告(労働安全衛生法)」
http://blog.livedoor.jp/shanaikitei/archives/54807654.html
2007年9月4日「労働者死傷病報告(休業4日未満)」
http://blog.livedoor.jp/shanaikitei/archives/54799415.html


参考リンク
福島労働局「業務災害とは」
http://www.fukushimaroudoukyoku.go.jp/rousai/hosyo_gyousai.html
厚生労働省「脳・心臓疾患及び精神障害等に係る労災補償状況(平成18年度)について」
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2007/05/h0516-2.html
中央労働災害防止協会「労働者の疲労蓄積度自己診断チェックリスト」
http://www.jisha.or.jp/web_ch/td_chk/index.html
厚生労働省「脳・心臓疾患の認定基準の改正について」
http://www.mhlw.go.jp/houdou/0112/h1212-1.html
厚生労働省「「労災かくし」は犯罪です」
http://www.mhlw.go.jp/general/seido/roudou/rousai/index.html


(鷹取敏昭)


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