中小企業に影響の大きいパートタイム労働法の改正 その3

 前回に引き続きパートタイム労働法の改正について大熊社労士から説明を受けている服部社長。当初はそれほど影響はないと考えていたが、義務化された直接的な事項への対応のほか、間接的な影響を考えると中小企業へ影響が大きいことが、次第に理解できてきた。



福島照美福島さん:
 パートタイム労働法改正への対応としては、「待遇についての説明義務」「均衡のとれた待遇の確保の推進(働き・貢献に見合った公正な待遇の決定ルールの整備)」の2点に注意しておけばよいのでしょうか?
大熊社労士:
 はい、まずはその2点が重要ですが、それ以外にも対応を検討しておくべきものがあります。それでは続いて、「労働条件の文書交付等による明示」について説明しましょう。次のの事項については、労働基準法において正社員・パートに限らず文書交付等により明示することが既に義務化されています。
労働契約の期間
就業の場所・従事すべき業務
始業・終業の時刻、所定労働時間を超える労働(早出・残業等)の有無、休憩時間、休日および労働者を2組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
賃金の決定、計算・支払いの方法および賃金の締め切り・支払いの時期
退職に関する事項(解雇の事由を含む)
福島さん:
 知っています。当社の労働条件通知書でも、その5つの事項については明示できるようになっています。
大熊社労士:
 これらに加え、改正パートタイム労働法では、昇給、退職手当、賞与の有無の3つの事項についても文書交付等による明示が義務化されることになりました。
服部社長:
 今回パートタイム労働法の改正ですよね。ということは、パートへの明示すべき内容が正社員よりも多いということですか?
大熊社労士:
 改正法施行時点では、そういうことになりますね。しかし、今後、正社員にもパート並みの明示義務が課されるのではないかと私は見ています。
福島さん:
 労働条件通知書を正社員とパートで別々にしておくと処理が複雑になって、間違いの元になりますので、これを機会に正社員もパートも同一の書式にしておきたいと思いますが、社長よろしいでしょうか?
服部社長:
 うん、それがいいだろう。をパートに明示して、正社員に隠しておくのも、おかしなものだからね。
大熊社労士:
 私も同じ考えです。是非そうしてください。また「通常の労働者への転換を推進するための措置」を講ずることも義務付けられました。具体的な対応例としては次のようなものが挙げられています。
当該事業所の外から正社員を募集する場合には、その雇用する短時間労働者に対して当該募集に関する情報の周知を行う
社内公募として、短時間労働者に対して、正社員のポストに応募する機会を与える
一定の資格を有する短時間労働者を対象として試験制度を設けるなど、転換制度を導入する
服部社長服部社長:
 そうですか、正社員を募集するときの社内的な対応も考えなければなりませんね。当社の場合、どのような方法がよいのか、宮田部長とまず検討してみることにします。しかし、こうやって見てくると今回の法改正では義務化される項目が本当に多いですね。
大熊社労士:
 そうですね。義務化への対応もたいへんですが、実はそれ以上に中小企業への影響は大きいものがあります。
服部社長:
 どういうことでしょうか?
大熊社労士:
 実は大企業においては、今回のパートタイム労働法の改正や、今年の最低賃金の大幅引き上げをきっかけとして、パートの待遇をアップさせていく動きが出始めています。さらに製造業の業績回復や流通業における大型店舗の出店増、営業時間の延長などによりパートの大量採用を行うなど、当面はパートの獲得・確保を狙っていくものと思われます。
福島さん:
 そうなると、当社もパートにおいても人手の確保が難しくなりますね。
服部社長:
 そうだね。中小企業が何も手を打たなければ、ますます状況が悪くなるのは間違いないね。
大熊社労士大熊社労士:
 その可能性は大いにあると思われます。ですから、パート労働法の改正を機に待遇面のほか、やる気のあるパートには能力を発揮させる機会を与えるなど、やりがいのある職場や働きやすい環境を整えるなどの工夫が必要でしょう。
服部社長:
 そうですね、検討してみることにします。ありがとうございました。


>>>to be continued


[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス こんにちは、大熊です。今回はパートタイム労働法の改正のうち「労働条件の文書交付等による明示」「通常の労働者への転換を推進するための措置」を中心に取り上げてみました。来年4月の施行までに対応方法を決めておく必要がありますので、そろそろ準備に取り掛かった方が良いでしょう。


 ところで、最近は就労意識の多様化を背景として、パートであっても非常に高い能力を持った優秀な人材も増加しているため、その者を有効に活用することで生産性や効率性を上げることは可能です。しかし、高い能力を持っているにもかかわらず、パートという名称だけで低い評価しかせず、定型的・雑用的な仕事しかさせていなければモチベーションは上がりません。そもそもパートというのは、労働時間が通常の労働者より短いという一つの勤務形態にある人のことをいいますので、労働時間以外の点では通常の労働者と本来は同じであるはずす。戦力としてパートを活用していくには、一律に低賃金で定型的な作業を担当させるのではなく、能力ややる気のあるパートには、適切な待遇と職場環境を整えることが必要でしょう。



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2007年11月5日中小企業に影響の大きいパートタイム労働法の改正 その2
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2007年10月29日中小企業に影響の大きいパートタイム労働法の改正 その1
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2007年11月5日「改正パートタイム労働法]労働条件の明示方法と違反時の罰則」
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2007年11月2日ダウンロード開始!平成20年4月改正パートタイム労働法対応モデル労働条件通知書
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2007年9月7日「平成20年4月改正 パートタイム労働法のポイント」
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2007年9月11日「平成20年4月改正 パートタイム労働法のポイント2 均衡のとれた待遇の確保の促進」
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2007年9月18日「平成20年4月改正 パートタイム労働法のポイント3 通常の労働者への転換の推進」
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2007年9月21日「平成20年4月改正 パートタイム労働法のポイント4 苦情処理・紛争解決援助」
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2006年12月31日「パートタイマーに関する再チャレンジ支援策の動向とパートタイム助成金」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/50840276.html


参考リンク
厚生労働省「改正パートタイム労働法関連資料」
http://www.mhlw.go.jp/topics/2007/06/tp0605-1.html
厚生労働省「パートタイム労働法の一部を改正する法律(平成19年法律第72号)の概要」
http://www.mhlw.go.jp/topics/2007/06/tp0605-1a.html
厚生労働省「パートタイム労働法が変わります(改正パートタイム労働法 広報用リーフレット)」
http://www.mhlw.go.jp/topics/2007/06/tp0605-1b.html
厚生労働省「雇用均等・両立支援・パート労働情報」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/index.html


(鷹取敏昭)


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