36協定の労働者代表はどのように選出すれば良いのですか?
前回、36協定の重要性を知った宮田部長であったが、今回はそれに引き続き、協定の当事者に関する説明を受けることとなった。
大熊社労士:
それでは早速、36協定の締結にあたり、使用者側と労働者側の要件を確認しておきましょう。
宮田部長:
はい、労働基準法第36条を確認してみましたが、使用者側は事業の代表者、つまり社長ということになりますね。
大熊社労士:
その通りです。通常は事業主である代表者、つまり社長が該当しますが、社長の他にも各事業場の長となる支店長や工場長も当事者となることができます。なぜなら、これらの者は会社から36協定の締結など労務管理の権限を委ねられているからです。
宮田部長:
なるほど。それぞれの事業場で締結する際に、社長でなくても構わないということですね。労働者側についても確認してみましたが、過半数で組織する労働組合があるときは労働組合、ないときは労働者の過半数を代表する者となっていました。当社の場合、労働組合がありませんので、労働者の代表者と締結することになります。
大熊社労士:
そうです。ここで重要になるのが、その労働者代表の選び方です。
宮田部長:
選び方!?えーっと、管理監督者が代表者になれないことは分かっていますが、他に何かありましたか?
大熊社労士:
はい。労働者代表の選出においては以下の2つの要件を満たす必要があります。
その者が労働者の過半数を代表して36協定を締結することの適否について判断する機会が、事業場の労働者に与えられていること
事業場の過半数の労働者がその者を支持していると認められる手続きがとられていること
この2点です。協定届に「協定の当事者の選出方法」を記載しますが、そこに記載する内容ですね。
宮田部長:
当社では親睦会の代表が労働者代表となっていますが、この場合も問題がありますか?
大熊社労士:
親睦会の代表がそのまま36協定の代表者となっている場合は、選出基準を満たしているとは言えませんね。判例でも、従業員の親睦団体の選挙で選出された代表を自動的に過半数代表者として締結された36協定を不適法で無効としたものがあります(トーコロ事件 東京高裁 平成9年11月17日判決)。
宮田部長:
そうなんですか、それでは具体的にどのように労働者代表を選出すれば良いのでしょうか?
大熊社労士:
はい、選出方法には、代表者を選ぶための投票や挙手などが一般的です。例えば、全社朝礼など社員が集まる機会を利用して、36協定の代表になることを信任する場合に挙手を求めるという形で、労働者の意思を確認するといった方法があります。労働者の団体意思を代表するものが選ばれていること、つまりその者が代表者となる信任を得ていること、これが重要なポイントになります。親睦会の代表者であっても、改めて36協定の代表者となることの信任を別途得ていれば問題ありません。
宮田部長:
ところで、労働者の過半数とありますが、この「労働者」とは誰のことを指しているのですか?
大熊社労士:
とても良い質問ですね。この「労働者」は労働基準法第9条に定められた者を指しています。36協定の締結当事者になれない管理監督者も労働者に含まれます(※ただし、事業場の使用者である支店長、工場長のような協定の適用事業の長となる者については、労働基準法第9条の労働者と労働基準法第10条の使用者の両方を兼ねることになるため、36協定の場合には労働者に含まれません)また、パートやアルバイトはもちろん、育児休業者や休職中の社員も労働者の中に含まれます。
宮田部長:
なるほど。これまで労働者代表の要件なんて考えずに親睦会の代表にお願いしていましたが。今後はもう少ししっかり対応する必要がありそうですね。
>>>to be continued
[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
こんにちは、大熊です。今回は36協定の当事者とその選出方法について取り上げてみました。服部印刷の場合は労働組合がありませんでしたので、以下では労働組合がある場合の注意点を少しお話しましょう。最近は労働組合の組織率が低下してきているため、組合が存在していても、それが労働者の過半数を占めていない場合があります。また複数の労働組合があり、そのいずれもが過半数に達していないときも、要件を満たす労働組合が存在しないということになり、改めて労働者の過半数を代表する者を選出することになります。ただし、2つの労働組合の組合員を合わせれば過半数となる場合に、それぞれの労働組合の代表者が連署した協定は、36協定として有効な協定とみることができるようとされています(厚生労働省労働基準局編 労働法コンメンタール「改訂新版 労働基準法(上)」)。
[関連条文]
労働基準法施行規則 第6条の2
法第十八条第二項 、法第二十四条第一項 ただし書、法第三十二条の二第一項 、法第三十二条の三 、法第三十二条の四第一項 及び第二項 、法第三十二条の五第一項 、法第三十四条第二項 ただし書、法第三十六条第一項 、第三項及び第四項、法第三十八条の二第二項 、法第三十八条の三第一項 、法第三十八条の四第二項第一号 、法第三十九条第五項 及び第六項 ただし書並びに法第九十条第一項 に規定する労働者の過半数を代表する者(以下この条において「過半数代表者」という。)は、次の各号のいずれにも該当する者とする。
一 法第四十一条第二号 に規定する監督又は管理の地位にある者でないこと。
二 法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続により選出された者であること。
[関連通達]
昭和63年1月1日基発1号
その者が労働者の過半数を代表して労使協定を締結することの適否について判断する機会が当該事業場の労働者に与えられており、すなわち、使用者の指名などその意向に沿って選出するようなものであってはならず、かつ、
当該事業場の過半数の労働者がその者を支持していると認められる民主的な手続きがとられていること、すなわち、労働者の投票、挙手等の方法により選出されること
昭和53年6月23日基発355号
次のような場合は、適格性を欠くものとして扱い、法第36条の趣旨に合致した選挙その他これに準ずる方法により真に労働者代表にふさわしいものが選出されるよう指導すること。
(イ)労働者を代表する者を使用者が一方的に指名している場合
(ロ)親睦会の代表者が労働者代表となっている場合
(ハ)一定の役職者が自動的に労働者代表となることとされている場合
(ニ)一定の範囲の役職者が互選により、労働者代表を選出することとしている場合
(ホ)上記(イ)~(ニ)に準ずる場合で、労働者代表の選出方法として適当ではないと労働基準監督署長が認めたもの
昭和46年1月18日基収6206号
労働基準法第36条の協定は、当該事業場において法律上又は事実上時間外労働又は休日労働の対象となる労働者の過半数の意思を問うためのものではなく、同法第18条、第24条、第39条及び第90条における同様当該事業場に使用されているすべての労働者の過半数の意思を問うためのものである。
[関連判例]
トーコロ事件 東京高裁平成9年11月17日判決 最高裁二小平成13年6月22日判決
友の会は、役員を含めた被告会社の全従業員によって構成され、『社員相互の親睦と生活の向上、福利の増進を計り、融和団結の実をあげる』ことを目的とする親睦団体であって、労働者の自主的団体とは認めがたく、その役員は会社の選挙によって選出されるが、右選挙をもって36協定を締結する労働者代表を選出する手続と認めることもできず、本件36協定は、親睦団体の代表者が自動的に労働者代表となって締結されたものというほかなく、作成手続きにおいて適法・有効なものとはいいがたい。
関連blog記事
2007年11月19日「本社で36協定を届け出るだけではダメなのですか?」
https://roumu.com/archives/64734929.html
2007年2月8日「時間外労働・休日労働に関する協定届(36協定)」
http://blog.livedoor.jp/shanaikitei/archives/52082070.html
(福間みゆき)
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