労働契約の5原則について説明しましょう

 2008年3月に施行された労働契約法について学び始めた服部社長と宮田部長。今回は、労働契約を考えるときのベースとなる5原則について大熊社労士から説明を受けることになった。



大熊社労士大熊社労士:
 それでは労働契約法の条文を実際に確認していきましょう。第3条から第5条にわたっては、労働契約の原則、いわゆる基本的な考え方が示されています。まずは労働契約の原則について規定された第3条です。



第3条(労働契約の原則)
1 労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする。



服部社長:
 第1条(目的)で教えていただいた労使の「合意」について、再度規定されていますね。ところで、この条項には「変更すべきもの」という表現も入っていますが、どういう意味でしょう。
大熊社労士:
 はい、労働契約の締結時だけではなく、契約内容を変更する際にも労使の合意が必要です。労働契約というと、どちらかといえば締結時を意識しがちですが、契約内容を変更する際にも合意に基づくものでなければなりません。したがって、一方的な契約内容の変更は無効とされますので、注意が必要です。それでは続いて第2項です。



2 労働契約は、労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。



 この項は、当初政府案では入っていませんでしたが、国会で修正追加されました。
宮田部長:
 具体的にはどのようなことでしょうか?
大熊社労士:
 例えば、契約社員やフルタイムパートなどの非正規社員の労働条件を定める際に、個別の条件や事情で判断するのではなく、その就業の実態を総合的に勘案し、正社員と比較したときにバランスのとれた処遇を考慮するよう示しています。
宮田部長:
 改正パートタイム労働法のところで教えていただいたことですね。
大熊社労士:
 はい、そのとおりです。なお、正社員間でも均衡のとれた処遇が必要であることはいうまでもありません。そして第3項。



3 労働契約は、労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。



服部社長服部社長:
 これは最近よくいわれるようになった「ワークライフバランス」を意識して、そのような配慮をしないさいよ、ということですね。
大熊社労士:
 そのとおりです。これも当初政府案では入っていませんでしたが、国会で修正追加されました。第2項の均衡考慮規定と第3項の仕事と生活の調和への配慮は、ともに訓示的な規定とされていますが、裁判所がこの条項を判決に利用することは考えられますので、無視することはできないでしょう。
服部社長:
 具体的には、どのようなことが考えられるでしょうか?
大熊社労士:
 子育て中の労働者を転勤させる場合が代表的な例として挙げられます。育児介護休業法にも第 26条(労働者の配置に関する配慮)「事業主は、その雇用する労働者の配置の変更で就業の場所の変更を伴うものをしようとする場合において、その就業の場所の変更により就業しつつその子の養育又は家族の介護を行うことが困難となることとなる労働者がいるときは、当該労働者の子の養育又は家族の介護の状況に配慮しなければならない。」と規定されていることからも明らかなように、仕事上の観点からだけではなく、生活上の観点にも配慮した対応が求められることになるでしょう。その他、時間外労働の業務命令についても、同様の配慮が必要とされるでしょう。
宮田部長宮田部長:
 当初政府案では入っていなかったが、国会で修正追加されたということは、何か特別な意味を持つのでしょうか?
大熊社労士:
 そうですね、審議の過程で紆余曲折があり、深く検討されたわけではないようですので何ともいえませんが、この第2項、第3項は労働関係において社会の流れを変えようとする意図が伺えるものと考える学者や弁護士もいます。確かに、そのような意味合いをもっていることは否めないでしょう。



4 労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない。
5 労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない。




 この第4項、第5項は、民法第1条(基本原則)第2項の信義則の規定「権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない」、第3項の権利濫用の禁止の規定「権利の濫用は、これを許さない」が、労働契約の場面においても重要な役割を果たすことを改めて、具体的に確認したものです。両条項において「労働者及び使用者は」となっていますので、使用者だけではなく労働者もこの原則を遵守する必要があります。


>>>to be continued


[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス こんにちは、大熊です。今回は労働契約法の第3条(労働契約の原則)について取り上げてみました。第3条は、労使対等合意の原則、均衡考慮義務の原則、ワークライフバランス配慮義務の原則、信義則・誠実義務の原則、権利濫用の禁止の原則の5つの原則をさだめたもので、訓示的規定とされていますが、労働契約を締結または変更したり、トラブルへの対応を検討したりする際においては指針的な意味をもっています。この原則は労働契約を考えるときに、非常に重要なものとなりますので、よく理解しておく必要があるでしょう。



関連blog記事
2008年4月7日「労働契約法というのはどのような法律ですか?」
https://roumu.com/archives/64868369.html
2008年03月12日「最近の労働法令改正から見る労務管理のトレンド」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51275190.html
2008年02月19日「厚労省よりダウンロードできる労働契約法のポイント資料」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51258163.html


参考リンク
厚生労働省「労働契約法がスタート!~平成20年3月1日施行」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudoukeiyaku01/index.html
厚生労働省「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律等の一部を改正する法律(平成17年4月1日施行)及び法改正に伴う施行規則、指針について」
http://www.mhlw.go.jp/general/seido/koyou/ryouritu/houritu/index.html
育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律
http://www.mhlw.go.jp/general/seido/koyou/ryouritu/houritu/2.html


(鷹取敏昭)


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