業務量の減少で一時帰休する場合の取扱いを教えてください

 前回、大熊社労士は、服部社長の友人である鳥谷工業(自動車部品製造業 社員数30名)の鳥谷社長から、雇用に関する相談を受け、整理解雇について説明した。今回は引き続き、整理解雇を行う前に対応として考えられる一時帰休について解説することとした。



大熊社労士大熊社労士:
 整理解雇は雇用調整における最終的な手段ですので、会社としてはそれを行う前に解雇を回避するためのあらゆる努力を尽くす必要があります。今回もなるべく雇用を維持していく形で、対策が打たれることを願っています。具体的には一時帰休を検討することはできませんか?
鳥谷社長:
 一時帰休ですか?
大熊社労士:
 はい。工場の生産をストップさせて、その間、従業員を休ませるという対応です。人手が余っているのであれば、雇用の確保を続けた上で、交替で休ませるなどの対応が考えられます。
鳥谷社長:
 なるほど。大手のメーカーで年末年始の休みを当初よりも長くする動きがありますが、一時帰休を実施しているということですね。
大熊社労士:
 そうです。ただし、この一時帰休を行う際には、賃金保障を行う必要があります。会社の都合で従業員を休業させるわけですから、労働基準法26条に定められる休業手当を支払う義務があります。
鳥谷社長:
 そうなんですね。具体的に休業手当はどのように計算すればよいのでしょうか。
大熊社労士:
 詳しく説明しましょう。まず、休業手当とは、平均賃金の6割以上を支払わなければならないことになっています。ここで出てくる平均賃金とは、算定事由の発生した日以前3ヶ月間にその労働者に支払われた賃金総額÷上記の3ヶ月間の総日数という計算式により算出します。
鳥谷社長:
 なるほど、文字通り「平均」の賃金なのですね。
大熊社労士:
 そのとおりです。算定事由の発生した日以前3ヶ月とは、今回であれば、休業日当日は含めず、その前日から3ヶ月間になります。ただし、賃金締切日がある場合は、直前の締切日から3ヶ月間です。また、算定期間に次のいずれかに該当する期間があれば、その日数を総日数から控除することになっています。
業務上負傷し、または疾病にかかり療養のために休業した期間
産前産後の休業した期間
使用者の責任によって休業した期間
育児・介護休業期間
試みの使用期間
 次に、賃金総額とは、算定期間中に支払われる賃金のすべてが含まれます。通勤手当、精皆勤手当、年次有給休暇の賃金、通勤定期券代も含まれます。ただし、次の賃金については賃金総額から控除します。
臨時に支払われた賃金(結婚手当、私傷病手当、加療見舞金、退職金等) 
3ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(四半期ごとに支払われる賞与など、賞与であっても3ヶ月ごとに支払われる場合は算入されます)
労働協約で定められていない現物給与
鳥谷社長鳥谷社長:
 なるほど。休業した日については、この計算式で算出した6割以上の支払いが必要ということですね。注文が激減して売上の予測も立たない中で、6割の賃金を保証しなければならないのは、正直言いまして苦しいところです。
大熊社労士:
 そうですね。確かに厳しい状況ではないかと思います。そこで助成金の活用を検討してみましょう。一時帰休を行う際には雇用調整助成金という助成金が活用できます。特に中小企業については、12月から「中小企業緊急雇用安定助成金」という助成金が創設されています。パンフレットをお持ちしていますので、ご覧下さい。
鳥谷社長:
 ありがとうございます。当社は資本金・従業員数からすれば中小企業の定義に該当しますので、「中小企業緊急雇用安定助成金」の対象となりそうです。休業手当の5分の4が支給されるのですか!これが受給できれば、負担が少なくて済みそうです。
大熊社労士:
 そうですね。この助成金を受給するには、まず事前の届出が必要になります。休業を行った後に、助成金を申請しても対象とはなりませんので注意して下さい。このほかにも細かな注意点がたくさんあり、結果的に受給要件を満たさないために助成金が支給されないというにもなりかねませんので、労働局で確認してくださいね。
鳥谷社長:
 わかりました。事前に計画を立てた上で労働局の方へ相談に行き、注意点をよく聞いてきます。
大熊社労士:
 初回の申請については、原則として休業する日の2週間前までに行うことになっていまして、労働局の方も、後でトラブルにならないように計画書をしっかり確認したいという意向があるようです。早めに相談に行かれることをお薦めします。


>>>to be continued


[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス こんにちは、大熊です。休業手当を計算する際の平均賃金については、上記とおりとなりますが、賃金の支払形態を考慮して最低保障額というものがあり、その額を下回ってはならないことになっています(労働基準法第12条第1項但し書)。
①賃金が労働した日もしくは時間によって算定され、または出来高払制その他の請負制によって定められた場合
 賃金の総額/その期間中に労働した日数×100/60
②賃金の一部が月、週その他一定の期間によって定められた場合
 その部分の総額/その期間中の総日数+①の金額の合算額


 そのため、最低保障額の方が高い場合は、こちらを採用すること注意が必要です。


[関連法規]
労働基準法 第12条
 この法律で平均賃金とは、これを算定すべき事由の発生した日以前3箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいう。ただし、その金額は、次の各号の一によって計算した金額を下ってはならない。
1.賃金が、労働した日若しくは時間によって算定され、又は出来高払制その他の請負制によって定められた場合においては、賃金の総額をその期間中に労働した日数で除した金額の100分の60
2.賃金の一部が、月、週その他一定の期間によって定められた場合においては、その部分の総額をその期間の総日数で除した金額と前号の金額の合算額
2 前項の期間は、賃金締切日がある場合においては、直前の賃金締切日から起算する。3 前2項に規定する期間中に、次の各号の一に該当する期間がある場合においては、その日数及びその期間中の賃金は、前2項の期間及び賃金の総額から控除する。
1.業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業した期間
2.産前産後の女性が第65条の規定によって休業した期間
3.使用者の責めに帰すべき事由によって休業した期間
4.育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成3年法律第76号)第2条第1号に規定する育児休業又は同条第2号に規定する介護休業(同法第61条第3項(同条第6項及び第7項において準用する場合を含む。)に規定する介護をするための休業を含む。第39条第7項において同じ。)をした期間
5.試みの使用期間
4 第1項の賃金の総額には、臨時に支払われた賃金及び3箇月を超える期間ごとに支払われる賃金並びに通貨以外のもので支払われた賃金で一定の範囲に属しないものは算入しない。
5 賃金が通貨以外のもので支払われる場合、第1項の賃金の総額に算入すべきものの範囲及び評価に関し必要な事項は、厚生労働省令で定める。
6 雇入後3箇月に満たない者については、第1項の期間は、雇入後の期間とする。
7 日日雇い入れられる者については、その従事する事業又は職業について、厚生労働大臣の定める金額を平均賃金とする。
8 第1項乃至第6項によって算定し得ない場合の平均賃金は、厚生労働大臣の定めるところによる。


労働基準法 第26条(休業手当)
 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない。



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参考リンク
東京労働局「中小企業緊急雇用安定助成金」
http://www.roudoukyoku.go.jp/topics/2008/20081204-jyoseikin/pdf/01-chyusyou.pdf


(福間みゆき)


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