フレックスタイム制での時間外手当の支払について教えてください

 服部印刷では前回、製造部制作課のDTPオペレーターへのフレックスタイム制導入に向け、大熊よりこの制度の基本的なレクチャーを受けた。依頼者である製造部長との社内打ち合わせの結果、運用面において疑問点が出てきたため、引続き相談することとなった。



宮田部長:
 大熊先生、こんにちは。例のフレックスタイム制に関して製造部長と打ち合わせを行ったところ、実際の運用面においてどのようになるのか疑問が出てきたため、確認させてください。
大熊社労士:
 分かりました。いろいろ検討されたようですね。
宮田部長:
 はい。まず最初の疑問点ですが、フレックスタイム制と通常の勤務時間をミックスさせることはできないのでしょうか。具体的には、1週間のうち1回ほど、会議や部内ミーティングを開く必要があるため、その日だけフレックスタイム制を適用せず、これまでどおりの勤務時間で行うといった取り扱いができないのかという意見が出てきたのですが。
大熊社労士:
 うーん、これは難しいですね。フレックスタイム制をこのような変則的な形で行うことは、制度そのものの趣旨に反しますね。なぜならフレックスタイム制においては、清算期間のすべての日において、始業・終業の時刻が従業員の決定にゆだねられている必要があるからです。
宮田部長:
 それでは、一時的に適用しないといったこともできないのでしょうか。
大熊社労士:
 そうですね。例えば会議の日は従業員の個別同意を得た上で会議の時間に出社してもらうのであれば問題ないでしょう。組織を運営する中では今回のように、一定の時間に勤務してもらう必要が出て来ることは避けられません。そうした場合に事情を従業員に説明して勤務を要請すること自体は、業務運営上認められる範囲と考えられます。もっともあまり乱発すると問題ではありますが。
福島さん:
 別の方法として週に1日だけ、コアタイムを前に繰り上げることはできないのでしょうか。
大熊社労士:
 それは可能ですね。例えば通常のコアタイムが「午前10時から午後3時」の場合で、会議を行う日だけ「午前9時30分から午後2時30分」としてコアタイムの開始時刻を繰り上げておくことが考えられます。ただし、午前中のフレキシブルタイムが極端に短くならないように注意が必要ですね。
宮田部長:
 なるほど。次に、時間外や休日労働の割増について教えてください。DTPのオペレーターはお客様のご要望に対応するために短納期の仕事を避けることができず、やはり残業が多いものですからフレックスタイム制を導入することでどのようになるのか気になります。
大熊社労士:
 はい、まず時間外についてお話します。フレックスタイム制の場合、通常、1ヶ月間を清算期間として、この1ヶ月の単位で労働時間を把握します。そのため、1日8時間や1週間40時間ではなく、清算期間の総労働時間と実際の労働時間との間で、過不足分を清算します。
福島さん:
 例えば、実際に働いた時間が200時間で、もともと設定した時間が1日8時間×20日で160時間だったときは、差の40時間が時間外労働になるということですね。
大熊社労士:
 考え方としてはその通りです。ただし細かなことを言いますと、法定内残業と法定残業とに分けることになります。
宮田部長:
 この話は、以前お聞きした「パートに残業をさせた際の時間外手当」と同じ考え方ですね。
大熊社労士:
 はい。法定内残業については割増部分を払う必要はなく(法定内残業についても割増の対象とする定めをしている場合は除く)、通常の賃金相当額を支払うことで足ります。具体的に説明しましょう。清算期間が1ヶ月の場合(法定労働時間が40時間の事業場)、法定労働時間の総枠としては30日の月では171時間25分(40時間×30日÷7日)、31日の月では177時間8分(40時間×31日÷7日)となります。もともと設定した時間が160時間、実際の労働時間が200時間であっても、例えば30日の場合であれば、171時間25分までは割増賃金を支給する必要はなく、通常の賃金相当額を支払えば問題ありません。そして、171時間25分を超えた部分(28時間35分)については、時間外割増が必要で、通常の賃金相当額に1.25を乗じて計算した金額を支払うことになります。
宮田部長:
 分けて考える必要があるということですね。
大熊社労士:
 厳密に管理する場合にはそのとおりです。次に休日労働についてですが、フレックスタイム制は始業・終業時刻を従業員に委ねるもので、休日については自由に選択できる制度ではありません。そのため、労働基準法第35条が適用され、少なくとも毎週1日もしくは4週につき4日の休日を与える必要があり、法定休日に勤務させた場合は休日労働割増の支払が必要です。また、深夜労働についても同じ考えとなり深夜割増の支払が必要となります。
宮田部長:
 なるほど。従業員に始業・終業時刻を任せるだけであって、会社は勤務時間を把握してきちんと清算しなければならないということですね。


>>>to be continued


[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス こんにちは、大熊です。今回は、労働時間の清算方法についてお話しましょう。原則としては、該当する清算期間内で労働時間と賃金を清算していきますが、通達(昭和63年1月1日 基発第1号・婦発代1号)において次のような取り扱いが認められています。
実際の労働時間が総労働時間を超えた場合
 この場合、総労働時間を超えた部分については、次の清算期間の総労働時間に繰り越すことはできません。時間外労働として清算期間内で賃金の清算を行います。
実際の労働時間に不足があった場合
 この場合、定められた時間分の賃金を全額支払った上で、総労働時間に達しなかった時間分を次の清算期間の総労働時間に上積みすることは、法定労働時間の枠内の範囲内であれば問題ありません。ただし、次の清算期間の総労働時間が法定労働時間の総枠を超えた場合は、超過した時間については時間外労働となり、割増賃金を支払う必要が出てきますので、この点に注意が必要です。



関連blog記事
2009年4月20日「フレックスタイム制というのはどのような制度なのですか?」
https://roumu.com/archives/65082983.html
2007年1月21日「フレックスタイム制に関する労使協定」
http://blog.livedoor.jp/shanaikitei/archives/51767511.html


参考リンク
厚生労働省「効率的な働き方に向けてフレックスタイム制の導入」
http://www2.mhlw.go.jp/topics/seido/kijunkyoku/flextime/index.htm


(福間みゆき)


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