通勤災害の要件について教えて下さい

 服部印刷では、先日、営業部の社員が通勤の途中で地下鉄の階段を踏み外し、足を骨折するという事故が発生した。そこで宮田部長はどのような場合に通勤災害になるのか大熊社労士に尋ねることにした。



宮田部長宮田部長:
 大熊先生、こんにちは。先日ご相談した通勤途中に足を骨折した社員ですが、明日、退院することになりました。しばらくはリハビリが必要ですので、出勤できるのはもう少し後になりそうです。
大熊社労士:
 そうですか、特に営業部の方でしたから、すぐにいままで通り勤務することは難しそうですね。
宮田部長:
 はい。そのため、当面は社内で営業事務の仕事をしてもらうことを検討しています。
大熊社労士:
 それがよいでしょうね。
宮田部長:
 今回初めて社員が通勤災害に遭ったのですが、具体的にどのような場合に通勤災害となるのか教えてもらえませんか?
大熊社労士大熊社労士:
 わかりました。それではまずは通勤災害の基本を押さえましょう。先日お話したとおり、通勤災害における通勤とは、就業に関し、住居と就業の場所との間の往復、就業の場所から他の就業の場所への移動、単身赴任先住居と帰省先住居との間の移動を、合理的な経路および方法により行うことでしたね。そしてその通勤に際して、移動の経路を逸脱し、または移動を中断した場合においては、当該逸脱または中断の間およびその後の移動は、通勤としないとされています。つまり、例えば仕事を終わった後に映画館に寄りその帰宅途中に事故にあった場合は、通勤災害としては認められないということです。
宮田部長:
 なるほど。通勤の経路を離れた場合は、通勤災害の対象とはならないということか。
大熊社労士:
 ただし、この逸脱または中断が、日常生活上必要な行為でやむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合は、当該逸脱または中断の間を除いて通勤に含まれることになっています。
福島さん:
 「日常生活上必要な行為」とは、どのようなものを指すのでしょうか?
大熊社労士:
 はい、労災保険法施行規則第8条において、次のように範囲が示されています。
日用品の購入その他これに準ずる行為
職業訓練、学校教育法第1条に規定する学校において行われる教育その他これらに準ずる教育訓練であって職業能力の開発向上に資するものを受ける行為
選挙権の行使その他これに準ずる行為
病院又は診療所において診察又は治療を受けることその他これに準ずる行為
要介護状態にある配偶者、子、父母、配偶者の父母並びに同居し、かつ、扶養している孫、祖父母及び兄弟姉妹の介護(継続的に又は反復して行われるものに限る。)
福島さん:
 いろいろあるのですね。
大熊社労士:
 例えば、日用品の購入その他これに準ずる行為 の場合については、日常の家庭生活において必要な行為であって、所要時間も短時間で済み、本人や家族の衣、食、保健、衛生など家庭生活を営む上で必要な行為のことをいいます。具体例を挙げると、帰宅途中に惣菜を購入する場合やクリーニング店に立ち寄るような場合ですね。
福島照美福島さん:
 それでは、自宅とは反対方向にあるスーパーに日用品を買いに立ち寄った場合はどのようになるのでしょうか?
大熊社労士:
 この場合、日用品を購入すること自体は、先ほどの「日常生活上必要な行為」に該当します。その店が会社の近くにあり、そこに要した時間が短時間で済むようなものあれば、帰り道に事故にあったとしても通勤災害として認められると考えられますが、会社から離れておりわざわざ寄っているような場合については難しいでしょう。日用品を購入する場合であっても、購入するためにあくまで必要な最小限度の距離と時間でなければ、「日常生活上必要な行為」の範囲に含まれないということを押さえておく必要があります。
宮田部長:
 通勤災害については、設定された様々な条件を満たしていなければ認められないということですね。


>>>to be continued


[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス こんにちは、大熊です。今回は通勤災害として認められる具体例について取り上げてみましたが、ここでは2ヵ所勤務している場合で次の勤務先に行く途中に事故にあった場合の取扱いについてお話しましょう。平成18年4月1日より労災保険の通勤災害保護制度が拡大されたことにより、以下の2つの移動についても通勤災害の対象となりました。
就業の場所から他の就業の場所への移動
住居と就業の場所との間の往復に先行し、または後続する住居間の移動


 そのため、2ヵ所勤務しており、A会社から次のB会社へ行くような場合についても、通勤災害として認められます。なお、この場合、B会社で仕事をするために必要な移動において発生した災害であることから、手続きはB会社の方で行うことになります。



関連blog記事
2009年5月11日「社員が通勤途中の事故でケガをしてしまいました」
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2009年2月28日「[ワンポイント講座]出向先で役員となった従業員の労災保険・雇用保険の取扱い」
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2009年2月21日「[ワンポイント講座]小規模事業所の法人代表者が業務上で怪我をした場合の給付の特例」
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2008年11月21日「11月に変更された労災保険から支給される通院費の範囲」
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2008年3月24日「通勤災害の保険給付における「日常生活上必要な行為」の範囲拡大」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51283411.html
2007年11月26日「複数就業者の事業場間移動中の通勤災害」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51175059.html


参考リンク
福島労働局「労災保険の通勤災害保護制度が拡大されます」
http://www.fukushimaroudoukyoku.go.jp/rousai/hosyo_tuukinsaigai.html


(福間みゆき)


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