管理監督者にも医師による面接指導は必要ですか?

 服部印刷では、どうしても年度末に受注が集中し、労働時間が長くなる傾向が見られる。現在は比較的業務に余裕がある時期ということもあり、過重労働対策を進めようということになったことから、本日はその具体的な内容について、大熊社労士に相談することにした。



宮田部長:
 大熊先生、こんにちは。今日は過重労働のことで相談させてください。
大熊社労士:
 何か問題でも起きたのですか?
宮田部長宮田部長:
 いえいえ、そうではありません。以前、過重労働対策の基本ポイントについてお聞きし、次の3点を教えてもらいました。
時間外・休日労働時間の把握と削減
健康管理体制の整備・健康診断の実施
長時間労働者に対する面接指導
大熊社労士:
 そうでしたね。
宮田部長:
 今日はこのうち、の面接指導について質問したいのですが、管理監督者である部長についても面接指導を行う必要があるのでしょうか?部長についてはタイムカードの打刻をしなくて良いとしていますので、労働時間が分かるものがなく、会社の基準に該当するか否かの判断がつかず対応に困っています。
大熊社労士:
 なるほど、確かに厚生労働省が策定している「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」は次の者は適用除外とされています。
経営者と一体の立場にある管理監督者(労働基準法第41条の2)
事業場外労働で労働時間算定が困難な労働者(ただし、みなし労働時間が適用される時間に限る)(労働基準法第38条の2)
裁量労働制が適用される労働者(労働基準法第38条の3、第38の4)
 これは、労働時間の使い方について本人に裁量を与えられているなどの理由で、労働時間を管理することが馴染まないことから外れているだけで、健康管理の面から考えると、会社には労働時間管理を行う責務があります。
福島照美福島さん:
 本当にそうですね。当社では一般社員よりもむしろ管理職が過重労働になっている心配がありますので、会社は健康管理という観点から一定の労働時間を管理していくことが必要ではないかと思います。
大熊社労士:
 そうですね。医師の面接指導については、次のように通達(平成18年2月24日 基発第0224003号)で示されています。
「脳血管疾患及び虚血性心疾患等の発症が長時間労働との関連性が強いとする医学的知見を踏まえ、これら疾病の発症を予防するため、医師による面接指導を実施すべきこととしたものであること。また、労災認定された自殺事案をみると長時間労働であった者が多いことから、面接指導の実施の際には、うつ病等のストレスが関係する精神疾患等の発症を予防するためにメンタルヘルス面にも配慮すること」この内容はすべての労働者に関わるもので、つまり部長(管理監督者)であっても、当然、医師の面接指導の対象になるということです。過重労働にならないように、部長に対して注意喚起するなどの対応が求められます。
福島さん:
 それでは、会社として時間を把握していこうとする場合、どのように管理していけばよいのでしょうか。
大熊社労士大熊社労士:
 例えばタイムシートを用意して、会社を出る時刻を記載してもらうことが考えられるのではないでしょうか。まずタイムシートを導入する際には、そもそもの趣旨を部長に理解してもらうことが不可欠で、健康管理の面から会社としては労働時間を把握したい旨を伝えておく必要がありますね。
福島さん:
 なるほど、分かりました。また運用方法については相談させてください。


>>>to be continued


[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス こんにちは、大熊です。今回は管理監督者の医師の面接指導について取り上げてみましたが、通常、社員が自らの時間外労働の時間数を把握していることは少ないのではないでしょうか。そのため、給与明細をもらって初めて、先月に何時間の時間外労働時間があったのか知り、医師の面接指導についても総務から連絡があったから受けるという事後的な対応になっていることが多いのではないかと思います。本来の姿としては、月の途中にいま現在の状況を確認でき、このままだと月45時間を超えることになるので、効率よく仕事をしなければならないなど、本人に注意喚起していくことが重要です。そのため会社としては、例えば長時間労働となっている社員に対してメールを通知するなど、社員が自分の労働時間数を確認できるような仕組みを作っていくことが望まれます。



関連blog記事
2009年7月6日「過重労働対策の基本ポイントについて教えて下さい」
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2009年6月13日「高水準で推移する過重労働に基づく過労死・精神障害の労災認定件数
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2009年4月7日「パワハラの追加など、改正が行われた精神障害等に係る労災認定の判断指針」
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2009年3月6日「厚生労働省から公開されたセクシュアルハラスメントアンケート」
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2008年12月16日「管理職研修に最適!ネットで見られるメンタルヘルス啓発ビデオ」
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2008年10月25日「メンタルヘルス不全防止に向けた「セルフケア」のポイントをまとめた小冊子」
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2008年9月2日「長時間労働者への医師による面接指導の記録保存」
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2008年8月30日「メンタル・ヘルス研究所から発表された2008年版「産業人メンタルヘルス白書」」
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2008年8月18日「メンタルヘルスケアに活用できる「職場環境改善のためのヒント集」ダウンロード開始」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51393225.html


参考リンク
厚生労働省「「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」の策定について」
http://www.mhlw.go.jp/houdou/0104/h0406-6.html
厚生労働省「平成20年度における脳・心臓疾患及び精神障害等に係る労災補償状況について」
http://www-bm.mhlw.go.jp/houdou/2009/06/h0608-1.html
厚生労働省「職場におけるメンタルヘルス対策・過重労働対策・心身両面にわたる健康づくり(THP)」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/index.html


(福間みゆき)


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