過重労働対策の基本ポイントについて教えて下さい

 服部印刷では、年度末が繁忙期。1月から3月までは時間外労働時間が45時間を超えることがあったため、宮田部長は過重労働となっている状況を心配していた。そこで、宮田部長は会社としてすべきことについて、大熊社労士に相談することにした。



宮田部長:
 大熊先生、こんにちは。ジメジメとした日が続きいていますね。
大熊社労士:
 そうですね。体調管理に気をつけなければならない時季になりました。
宮田部長宮田部長:
 当社では繁忙期を越え、ようやく落ち着いて仕事を進められるようになってきました。年度末はどうしても残業で乗り切るという状態になってしまうため、過重労働が心配です。そこで今日は来年に向け、過重労働防止のために会社としてすべきことを教えてもらい、いまから改善できることはしていきたいと考えています。
大熊社労士:
 分かりました。それでは基本的な内容も含まれますが、解説していきましょう。過重労働への基本的な対策を大きく分けると次の三点があります。
時間外・休日労働時間の把握と削減
健康管理体制の整備・健康診断の実施
長時間労働者に対する面接指導
 まず時間外・休日労働時間の把握・削減とは、基本的には36協定で定める限度基準内に収めるということです。一般的(1年単位の変形労働時間制を除く)には1ヶ月であれば月の時間外労働時間が45時間、1年であれば360時間までとされています。また御社の場合には繁忙期については特別条項で月80時間までの時間外を行うことができるようにしてありますが、80時間まではOKということではなく、少しでも時間を短くするような取り組みが必要です。
宮田部長:
 そうですね。
大熊社労士:
 この前提として重要になってくることが、労働時間の把握です。労働時間の把握については、厚生労働省より通達(「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準について」平成13年4月5日 基発第339号)が出されており、その中で、企業には労働時間を適正に把握する責務があり、始業・終業時刻を確認してこれを記録することとされています。
福島照美福島さん:
 当社ではタイムカードを打刻するようにしています。でも、営業社員で直接営業先から帰る場合に、ちゃんと時間を書いてくれない人がいるので、翌日に必ず書いてもらうように徹底する必要があると思っています。
大熊社労士:
 そうですね。こういった日ごろの細かな管理が重要ですね。次に健康管理体制の整備・健康診断の実施については、以前にもお話したことがありますが、産業医や衛生管理者等の選任、衛生委員会の設置・開催、それと健康診断の実施のことを指しています。
宮田部長:
 健康診断については、受けていない社員が一人いる状態で、私が何度言っても「わかりました」と言っている者がいます。
大熊社労士:
 一人くらいはそういった方がいらっしゃいますね。健康診断の実施については労働安全衛生法によって会社に義務付けられているものである以上、社員もその受診義務を負います。よってその社員に対しては宮田部長より改めて受診するように指導をお願いします。
宮田部長:
 分かりました。
大熊社労士大熊社労士:
 なお、健康管理に関してですが、社員にも賃金をもらう前提として、社員として期待されるレベルの仕事をするだけの健康管理をする義務があります。自己保健義務などと呼ばれますが、体調が悪く、会社として仕事をさせる訳にはいかないと判断したときは、医師の診断を受診させ、健康であることが分かるまでは、社員から労務の提供を受けないといった対応も取ることも必要です。次に労時間労働者への面接指導の実施については、時間外・休日労働時間が1月当たり100時間を超え、かつ疲労の蓄積が認められる者で、本人から申出があった場合は、面接指導を受けさせる必要があります。しかし、なかなか社員本人から申出がなされないことが多いため、会社としての基準を設けておかれるほうが望ましいですね。
宮田部長:
 面接制度については当社でも、まだ該当者がいません。やはり私も、会社としての基準が必要だと考えますが、過去の時間外労働時間の実績等を踏まえて、時間外労働時間が月100時間を超えた者、3ヶ月平均して80時間を超えた者は面接の指導対象にすると決めてよいのでしょうか?
大熊社労士:
 問題ありません。何よりも医師の面接指導を確実に実施し、過重労働を防止していくことが重要ですので、徹底をお願いします。


>>>to be continued


[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス こんにちは、大熊です。今回は過重労働による健康障害を防ぐためのポイントについて取り上げてみましたが、ここでタイムカードの保存期間について補足しておきましょう。労働時間に関する記録については労働基準法第109条により、3年間保存する必要があります。この労働時間に関する記録とはタイムカード以外にも、労働者が自分で始業・終業時刻を記入している場合はその書類、残業申請書等が含まれます。なお、保存期間については書類ごとに最後の記載がなされた日から3年間となっていますので、最低限この期間は保存を行い、古くなったものについては直ぐに処分せず、念のため倉庫等で保管しておくことが望まれます。



関連blog記事
2009年6月13日「高水準で推移する過重労働に基づく過労死・精神障害の労災認定件数」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51569629.html
2008年3月24日「衛生委員会ではどのようなことを行えば良いのでしょうか?」
https://roumu.com/archives/64852423.html
2008年3月17日「産業医にはどのような役割があるのですか?」
https://roumu.com/archives/64852408.html
2008年3月10日「衛生管理者が長期で休んでしまったら、どうすれば良いのでしょうか?」
https://roumu.com/archives/64834167.html
2008年3月3日「従業員50名以上になったときに求められる安全衛生管理体制とは?」
https://roumu.com/archives/64834156.html


参考リンク
厚生労働省「平成20年度における脳・心臓疾患及び精神障害等に係る労災補償状況について」
http://www-bm.mhlw.go.jp/houdou/2009/06/h0608-1.html
厚生労働省「職場におけるメンタルヘルス対策・過重労働対策・心身両面にわたる健康づくり(THP)」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/index.html


(福間みゆき)


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