在宅勤務を導入する際にどのような点に注意すればよいですか?

 服部印刷では育児休業者の復帰にあたり、在宅勤務制度の導入を検討している。そこで本日は前回のブログ記事「在宅勤務者の労働者性はどのように判断するのですか?」に引き続き、その導入における注意点について大熊に相談することとした。



宮田部長:
 大熊先生、こんにちは。
大熊社労士:
 早いもので、今年もあと3日となりましたね。
宮田部長宮田部長:
 そうですね。当社も明日が大掃除です。今年は売上が減少し、大変な1年でした。来年はもしばらくは厳しさが続きそうですが、少しでも早く回復して欲しいものです。さて来年といえば育児休業から復帰する社員がいますが、パソコンを使って自宅でできる仕事があるので、復帰にあたっては在宅勤務制度を導入しようと考えています。そこで、この制度を導入する際のポイントについて教えてください。
大熊社労士:
 はい。在宅勤務制度は働き方の選択肢の一つとして導入する企業が少しずつ増えていますね。在宅勤務を行う方がSOHOのような業務委託ではなく雇用契約に基づく労働者であれば、労働基準法関係の法令が適用されます。
宮田部長:
 最低賃金法や労働安全衛生法なども適用されるということですね。
大熊社労士:
 そのとおりです。在宅勤務は、その名のとおり自宅で仕事を行うため、実際に働く時間と日常生活とが混在してしまいますので、労働時間をどのように扱うのかなどの事項について決めておく必要があります。
宮田部長:
 在宅勤務を始める前に、社員に説明しておくことが重要ですね。それでは自宅で勤務する時間については、どのように考えればよいのでしょうか?
大熊社労士大熊社労士:
 労働時間の考え方については、在宅勤務者の労働時間を算定することができる場合にはその時間が労働時間になりますが、算定が難しい場合は事業場外みなし労働時間制を適用することが可能となります。この事業場外みなし労働時間制が適用するためには、以下の3点の要件を満たしている必要があります。
当該業務が、起居寝食等私生活を営む自宅で行われること
当該情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと
当該業務が、随時使用者の具体的な指示に基づいて行われていないこと
宮田部長:
 の「通信可能な状態」とはどのような状態を指すのでしょうか?
大熊社労士:
 これは具体的な指示があれば直ぐに対応できるようにパソコンの前で待機しているようなケースを指しています。そのような場合は事業場外みなしを適用できないということです。
宮田部長:
 事実上拘束しているような状態では、事業場外みなしを適用できないということですね。上記の条件を満たし、事業場外みなし労働時間制を導入した場合、仕事の時間の設定は本人に委ねるということになると思いますが、深夜に仕事を行うと会社は深夜割増賃金を支払う必要があるのでしょうか?
大熊社労士:
 原則としては、深夜割増賃金の支払いが必要となります。ただし、就業規則の中で深夜に業務を行う場合で事前に使用者の許可を得なければならず、併せて報告が義務づけられているケースにおいて、深夜勤務の事前申請がなかった、あるいは会社が申請を認めず、そして社員から事後の報告がなかったものについては、労働基準法上の労働時間に該当しないとされています。併せて、以下の3点についても満たしている必要があります。
深夜・休日労働について使用者側からの強制や義務づけがなかったこと
深夜・休日労働を行わなければならないような過大な業務量や納期が迫っている等の事情がないこと
深夜・休日に電子メールでの報告や、客観的にみて深夜・休日労働を行わなければ成し遂げることが不可能な成果物が提供される等の事情がなく、使用者が深夜・休日の労働を知りえなかったこと
宮田部長:
 会社のルールとして、深夜・休日労働は原則禁止した方が良さそうですね。
大熊社労士:
 そうですね。在宅勤務者から仕事の進捗状況や作業時間について、メール等で報告してもらうなどの具体的な運用方法についても検討する必要がありますね。


>>>to be continued


[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス こんにちは、大熊です。今回は在宅勤務制度を導入する際のポイントについて取り上げてみましたが、ここで通信費の費用負担について補足しておきましょう。自宅でパソコン等を使って仕事をする場合、通信費や機器の費用負担の問題が出てきます。これについては法的な取り決めがないため、どちらが負担するのか、負担上限を設けるのかといった事項について決めておく必要があります。なお、在宅勤務者に通信費等の費用負担をさせる場合は、労働基準法第89条第5号により就業規則に規定する必要がありますので、注意が必要です。



関連blog記事
2009年12月21日「在宅勤務者の労働者性はどのように判断するのですか?」
https://roumu.com/archives/65172594.html
2007年10月2日「在宅勤務制度規程」
http://blog.livedoor.jp/shanaikitei/archives/54832015.html


(福間みゆき)


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