部下を育成するためには部下の抱える問題の本質を見る

 今日は先週に引き続き、部下育成の2つ目のポイントを大熊社労士が説明することとなった。



宮田部長宮田部長:
 大熊先生、こんにちは。今日は部下育成のポイントの2つ目について教えてください。先週お伺いした部下に「ありがとう」と伝えるということを、早速当社の管理職に話をしてみたところ大変好評で、「ありがとう」の一言で、お互いに気持ちよく仕事に集中できるようになったという声を聞くことができました。
大熊社労士:
 なるほど、先週の方法はとてもシンプルな方法でしたので実践も簡単で、すぐ効果が出るというものでしたからね。早速効果があって何よりです。それでは今日は部下を育成する際に上司に最低限実施してほしいもう一つの方法についてお伝えしましょう。
宮田部長:
 はい。よろしくお願いします。
大熊社労士:
 次の方法は、すぐに効果が出るかというと先回の方法と比べると少しハードルは高いかも知れません。でもこの考え方は、部下の育成の場面だけでなく、その上司自身の仕事を進める上でも是非身に付けておいて欲しい考え方です。
宮田部長:
 はい。次は管理職の考え方についてですね。
大熊社労士:
 そのとおりです。2つ目のポイントは「部下の抱える問題を見る」ということです。
宮田部長:
 はあ、「部下の抱える問題を見る」ですか…。
大熊社労士:
 ははは、予想外の答でしたかね(笑)。はい、「部下の抱える問題を見る」です。御社の上司の方たちは「部下の抱える問題」を見ていますか?
宮田部長:
 ええ、当社では、全従業員に毎日日報を付けさせていますので、管理職であれば必ず「部下の抱える問題」は把握しているはずです。例えば、新規の営業先の開拓件数が目標に足していないだとか。
大熊社労士:
 なるほど、それでは「新規の営業先の開拓件数が目標に達していない」という問題を上司がどのように指導していますか?
宮田部長:
 確か、営業に回る件数自体が少なかったそうなので、回る件数を増やすように指導していました。
大熊社労士:
 なるほど、回る件数を増やした結果はどうなったのでしょうか?
宮田部長:
 それが回る件数を増やしてもそれほど効果はなかったんです。
大熊社労士大熊社労士:
 そうですか、実はこれは非常によくあるケースで上司が本当の意味で「部下の抱える問題を見る」ことができていなかったケースです。上司が見なければいけないのは「部下の抱える問題の本質」です。たとえば、いまの営業の新規開拓がうまくいかないといったケースでは、「部下の抱える本当の問題」を営業のプロセスに分解して調べるというのが、上司に期待される行動です。
宮田部長:
 プロセスに分解する。ですか?
大熊社労士:
 ええ、新規営業先開拓であれば、確かに回った企業の一定の割合で新規の案件が取れるので、回る企業の数を増やすというのは解決策の一つであることは事実です。しかし、解決策は一つではありませんよね。例えば、企業を回る件数を増やしたものの、実はキーマンには接触ができていないというのであれば、上司はキーマンの見つけ方や、キーマンへの到達の仕方を教える必要があります。キーマンと面談できて、一所懸命商品の説明をするものの、実はお客様のニーズとずれた商品の説明をしているのであれば、お客様とのロールプレイ研修などを実施して、ニーズを聞き出す話し方の教育をする必要があります。
宮田部長:
 なるほど、「部下の抱える問題を見る」というのは、部下の抱える問題の真の原因を把握するということなのですね。確かにこれはすぐにできるような改善ではないかも知れませんね。
大熊社労士:
 ええ、少しハードルは高いと思います。上司になる方は、やはり自分自身はできる方達ですから自分なりの教育論というのを持ちがちです。「自分はこれをやったらできるようになった」という成功体験も持っていますから、ついつい自分のうまくいった方法でやってみろと言ってしまうんです。しかし、部下は一人一人違うわけで、表面に現れる問題は同じでも、その原因は100人いれば100の原因がありますからね。
宮田部長:
 なるほど、「部下の抱える問題」の解決法を上司が決めつけて指導しているケースはわが社でも多いかもしれません。「部下の抱える問題の本質を見る」「原因や解決法を決めつけない」これはしっかり当社の上司たちに伝えたいと思います。
大熊社労士:
 発破をかけるだけでは、部下は成長しません。もっと怖いのは、部下自身も上司が決めつけてしまったその方法を唯一の方法だと思い込んで、「せっかく上司が教えてくれた方法なのに自分はできない」と精神的に追い詰められてしまうことです。そういう意味でも「部下の問題を見る」はしっかり実践していただきたいと思います。
宮田部長:
 そうですね。よくわかりました。ありがとうございます。


>>>to be continued


[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス 
こんにちは、大熊です。部下の問題をプロセスに分解するためには、フレームワーク思考を身に付けておくことが重要です。フレームワーク思考とは、ものごとを枠組みの中に「モレなく、ダブりなく」あてはめて、全体を整理し結論を出すために用いられる思考法で、分析のフレームワークと表現のフレームワークに分解できます。部下育成の場面では、分析のフレームワークが役に立ちます。例えば順序のフレームワークとは物事がどのような流れで進んでいくかを見るためのもので、例えばメーカーの仕事は、研究→開発→調達→生産→販売→物流という順序であるため、もしクレームが発生した場合などはどの段階に原因があったかを段階毎にさかのぼって検証することができます。分析のフレームワークには、大きく分類すると、要素のフレームワーク、構造のフレームワーク、抽象レベルのフレームワーク、順序のフレームワーク、位置づけのフレームワーク、などの5つに分類されます。こういったフレームワーク思考を身に付け、分析力を高めれば、部下育成の場面のみならず、仕事上のどのような問題解決でも役立つことになるでしょう。



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(中島敏雄)


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