定年退職者の年次有給休暇の取扱いについて教えてください
服部印刷では3月末で定年を迎える従業員の継続雇用後の年次有給休暇の取扱いについて、宮田部長が悩んでいた。
宮田部長:
大熊先生、こんにちは。3月末で定年を迎える従業員がいます。4月からは嘱託として継続雇用することになっているのですが、この従業員について年次有給休暇(以下「年休」という)が15日ほど残っています。この未取得の年休はどのように取り扱えばよいのでしょうか?
大熊社労士:
定年退職者の年休の取扱いということですね。わかりました。それでは今日は、定年退職者を継続雇用する場合の年休の取り扱いについてお話しすることにしましょう。
宮田部長:
よろしくお願いします。
大熊社労士:
定年退職者を継続雇用する場合の年休については押さえておくべきポイントが2点あります。1つは残っている年休を継続雇用後も使用することができるのかという点と、もう一つはその後の年休付与時の勤続年数をどう数えるかという点です。それではまずは残っている年休を使用できるかどうかについてからご説明しましょう。まず原則ですが、退職者の未消化分の年休は原則として退職によって消滅します。
宮田部長:
はい、わかります。ということは正社員として退職する定年時に残っていた年休についてはその時点で消滅ということになるのでしょうか。
大熊社労士:
いえ、それが違うのです。通常の退職の場合はそれで問題ないのですが、定年からそのまま引き続き嘱託として再雇用される場合、確かに正社員としての契約はそこで終了となりますが、雇用関係そのものは消滅せず、労働契約は実質的に継続していますよね。
宮田部長:
なるほど、実態として労働契約が継続しているならば、未消化分の年休の権利も継続するということすね。
大熊社労士:
ええ、そのとおりです。原則としては、退職時に年休は消滅しますが、労働契約が実質的に継続している場合は年休は消滅しないと理解しておいてください。それでは引き続き、定年再雇用時の勤続年数の数え方についてです。
宮田部長:
それについてもやはり実態として雇用関係が継続しているという点がポイントになるわけですね。
大熊社労士:
さすが、宮田部長。そのとおりです。こちらも実質的に労働契約が継続していれば、再雇用日からではなく、当初の入社日から勤務が継続しているものとして付与日数を計算します。
宮田部長:
つまり定年時に6年6か月以上継続勤務している者については、20日の年休を付与するということですね。
大熊社労士:
そのとおりです。定年退職者の継続雇用時の年休の取り扱いについては、もう完璧ですね。
>>>to be continued
[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
こんにちは、大熊です。今回は実務上よく取扱いに迷う、定年退職者の継続雇用時の年次有給休暇の取り扱いについてお伝えしましたが、次いで質問を受けることの多い、出向者の年次有給休暇の取扱いについてもお伝えしておきましょう。出向には「在籍出向」と「転籍(移籍出向)」がありますが、「在籍出向」の場合は、出向元との労働契約が継続していることから、出向先での年次有給休暇の付与については出向元での勤続年数を通算する必要があります。一方「転籍(移籍出向)」の場合は、出向元との雇用関係を解消した上で、新たに出向先との労働契約が締結されるため、出向元の勤務期間を通算する必要はありません。定年についても出向についても継続勤務については「雇用関係が実態として継続しているか」で判断することになります。
[関連法規]
労働基準法第39条第1項(年次有給休暇)
使用者は、その雇入れの日から起算して6箇月間継続勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した10労働日の有給休暇を与えなければならない。
労働基準法第115条(時効)
この法律の規定による賃金(退職手当を除く。)、災害補償その他の請求権は2年間、この法律の規定による退職手当の請求権は5年間行わない場合においては、時効によつて消滅する。
[関連通達]
昭和63年3月14日 基発150号
継続勤務とは、労働契約の存続期間、すなわち在籍期間をいう。継続勤務か否かについては、勤務の実態に即し実質的に判断すべきものであり、次に掲げるような場合を含むこと。この場合、実質的に労働関係が継続している限り勤務年数を通算する。
イ 定年退職による退職者を引き続き嘱託等として再採用している場合(退職手当規程に基づき、所定の退職手当を支給した場合を含む。)。ただし、退職と再採用との間に相当期間が存し、客観的に労働関係が断続していると認められる場合はこの限りでない。
関連blog記事
2011年1月3日「当日の朝に申請された年次有給休暇は認めなければなりませんか?」
https://roumu.com/archives/65440983.html
2009年7月20日「年次有給休暇の出勤率はどのように計算すればよいのですか」
https://roumu.com/archives/65119248.html
(中島敏雄)
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