退職金規程では、その適用範囲と勤続年数の計算方法を明確に規定しましょう

 退職金についてはその支給額が高額になる場合が少なくないことなどから、トラブルが発生しやすい制度であると言われている。そこで今回、大熊はそうしたトラブルを防止するための退職金規程整備のポイントについて解説することとした。


大熊社労士:
 先週は退職金の現状把握の重要性についてお話しましたが、本日はそれに引き続き、退職金規程作成の際に注意すべきいくつかのポイントについてお話したいと思います。
服部社長:
 分かりました。よろしくお願いします。
大熊社労士:
 退職金規程を整備する際に注意すべきポイントはいくつもあるのですが、中でも以下の5つは必ず確認しておくべき重要なポイントとなります。
規程の適用範囲を明確に定める。
勤続年数の計算方法および除外する期間を明確に定める。
退職金の支払時期を明確に定める。
懲戒解雇時の退職金の不支給・減額規定を明確に定める。
外部積立との支給調整の取り扱いを明確に定める。
服部社長:
 なるほど、退職金規程というのは単に退職金の支給基準を定めておけばよいというものではないのですね。
大熊社労士:
 そのとおりです。無用なトラブルを防止するためには、ポイントを押さえたルール整備が重要となりますが、中でもトラブルになりやすいのが、の規程の適用範囲です。ほとんどの企業ではパートタイマーや嘱託社員などについては退職金制度の適用を除外し、正社員のみを制度の対象としていると思いますが、そのような場合には退職金規程の適用範囲を明確に定めておくことが重要です。具体的には「この規程による退職金制度は、会社に雇用され勤務する正社員にのみ適用する。パートタイマー、嘱託など正社員以外の区分にて雇用される従業員については退職金を支給しない」といった規定を置いておくことが求められます。
服部社長服部社長:
 なるほど。経営者としては退職金制度の適用があるのは正社員のみと頭から考えていますが、こうした適用範囲に関する定めがなく、支給基準だけがあるとしたら、パートタイマーなどから退職金を請求される可能性があるかも知れませんね。
大熊社労士:
 はい、実際にそういったトラブルは少なくありません。また適用範囲の記載はあるものの、その内容が曖昧で問題になることもあります。実際にあった例ですが「この規程は、臨時に雇用される者については適用しない」という規定をしている会社がありました。会社としては「臨時に雇用される者」の中にパートタイマーや嘱託社員が含まれると解釈していたのですが、多くのパートタイマーは契約を何度も反復更新しており、あるとき退職したパートタイマーから、「私は臨時に雇用される者には当たらない」として退職金を請求されてしまったのです。
服部社長:
 そんなことがあるのですね!
大熊社労士:
 はい、それだけにパートタイマーなどに退職金を支給しないという場合には、できるだけ具体的にその適用除外の範囲を明示することが重要です。
服部社長:
 なるほど、よく分かりました。
大熊社労士:
 次にの「勤続年数の計算方法および除外する期間を明確に定める」という点ですが、これを更に分解すると以下の4点について明確に規定しておくことが望まれます。

  1. 試用期間の取り扱い
  2. 正社員に登用される前のパートタイマー等として契約していた期間の取り扱い
  3. 休職期間や育児休業、介護休業などの取得期間の取り扱い
  4. 1年未満の端数期間の取り扱い

服部社長:
 これはかなり実務的な内容ですね。
大熊社労士大熊社労士:
 そうですね。まず1.の試用期間ですが、多くの企業では入社後3ヶ月~6ヶ月程度を試用期間としていることが通常です。この試用期間を退職金算定における勤続年数に含めるかどうかを明確にしておくことが必要です。ほとんどの企業では試用期間も勤続年数に含めるとしているかと思いますが、もし勤続年数には含めないとするのであれば、その旨を明確に規定しておくことが重要です。次に2.の「正社員に登用される前のパートタイマー等として契約していた期間の取り扱い」ですが、これは意外にノーマークになっていることがあります。一般的な退職金規程においては「退職金計算の対象となる勤続年数は、入社日から起算し、退職の日までとする」というように規定されていることが多いのですが、パートタイマーから正社員登用された場合には、この入社日が「パートタイマーとして入社した日」なのか「正社員に登用された日」のいずれなのかがはっきりしないという問題が発生することがあります。結果、パートタイマーで10年勤務し、その後、正社員に転換して5年後に退職する場合、勤続15年の退職金を請求されることがあるのです。
宮田部長宮田部長:
 そんな事例があるのですか!会社としては当然、正社員に登用されてからの5年間が退職金の対象となる勤続年数と考えますが、確かに請求する側から見ればそのように解釈できないこともないのかも知れませんね。確かにこれはノーマークでした。
大熊社労士:
 ですよね。ですからそうしたトラブルを想定するのであれば、「正社員に登用された者の退職金計算における入社日は正社員登用日とする」であるとか、「正社員以外の雇用区分での勤続年数は含めない」といったルールを明確にしておいた方がよいでしょう。
服部社長:
 なるほど、よく分かりました。
大熊社労士:
 次に3.の「休職期間や育児休業、介護休業などの取得期間の取り扱い」ですが、こうした休業期間については退職金計算における勤続年数から除外する例がほとんどです。よって「就業規則に定める休職期間および育児・介護休業期間については勤続年数より除外して計算する」といった規定が必要となります。特に最近は育児休業の制度が拡充されており、またその取得率も高まっていることから、トータルの勤続年数は5年ながら、その内、3年間は育児休業を取得していたというような例も見られます。それだけに退職金に明確なルールを置いておくことが重要です。
服部社長:
 確かにそうですね。
大熊社労士:
 そして最後の「4.1年未満の端数期間の取り扱い」ですが、これが曖昧になっているケースも少なくありません。1年未満の端数期間については切り捨てにするのか、月数按分にするのか。月数按分にする場合には、1ヶ月未満の端数日数をどのように取り扱うのかといった細かいルールが必要になります。
宮田部長:
 なるほど。退職金計算における勤続年数だけでもこれだけ細かい問題があるのですね。どれも言われなければ気付かないようなものばかりです。
大熊社労士:
 そうですね。我々社労士はいろいろな企業で多くのトラブルに遭遇していますから、こうした規定の重要性をいつも感じています。お話したいポイントはあと3つありますが、今日はそろそろ時間のようですから、それらはまた次回お話したいと思います。
服部社長:
 了解しました。それではまた次回、よろしくお願いします。

>>>to be continued

[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス 
こんにちは、大熊です。本日は退職金規程を整備する際に注意すべき5つのポイントのうち、2つを取り上げました。非常に細かい内容が多かったと思いますが、いずれも非常にトラブルになりやすい点ですので、確実に対応しておくことが求められます。中でも①の「規程の適用範囲を明確に定める」にあったように、正社員以外の従業員については規程整備を行う上では、特に注意が必要です。通常、パートタイマーや嘱託社員は正社員と比較して労働条件に不利な点があることがほとんどです。今回の退職金が典型ですが、それ以外にも賞与や特別休暇、休職制度、慶弔見舞金制度など、正社員に用意されている制度が適用除外とされていることが多くあります。よってパートタイマーなどの就業規則を整備する際には、そうした正社員との労働条件の差について明確に規定することが求められます。まずは両者の労働条件で差異がある部分を抽出し、それが規程に明示されているかどうかの確認を進めて頂ければと思います。


関連blog記事
2011年5月23日「退職金は企業にとって中長期的なリスクであると認識する必要があります」
https://roumu.com/archives/65485100.html

参考リンク
大津章敬著「日本一わかりやすい退職金・適年制度改革実践マニュアル」
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4539720732/roumucom-22
大津章敬著「中小企業の退職金・適年制度改革実践マニュアル」
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4539719599/roumucom-22

(大津章敬)

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