1年単位の変形労働時間制とはどのような制度なのですか?

 前回、土曜日に開催される全社イベントに対応するため、1ヵ月単位の変形労働時間制の活用が有効であるということを知った宮田部長。今回はそれに引き続き、1年単位の変形労働時間制についてレクチャーを受けることになった。
※今回のエピソードは実際のカレンダーに基づいて作成されていますので、2012年のカレンダーを手元に置き、お読みいただければ幸いです。


 宮田部長宮田部長
 大熊先生、こんにちは。前回は1ヵ月単位の変形労働時間制の活用について教えていただきましてありがとうございました。現在、来年の会社カレンダーの案を作成しているところですので、完成しましたらまた相談に乗ってください。
大熊社労士:
 はい、もちろんです。さて前回お話させて頂いた変形労働時間制にはいくつかの種類があります。もっとも多くの企業で採用されているのが前回お話させて頂いた1ヵ月単位の変形労働時間制なのですが、今回はそれと並んで採用企業が多い1年単位の変形労働時間制についてお話しようと思います。
宮田部長
 そうでしたか、よろしくお願いします。
大熊社労士:
 はい、前回お話した1ヵ月単位の変形労働時間制は、「1ヵ月以内」の一定期間を平均し、1週間当たりの労働時間が法定労働時間(40時間)を超えない範囲内において、特定の日または週に法定労働時間を超えて労働させることができる制度でしたが、1年単位の変形労働時間制はこれが「1ヶ月を越え1年以内」の一定の期間を平均し、ということになる制度です。
宮田部長
 なるほど、その変形期間が最大1年ということになる訳ですね。
大熊社労士:
 そのとおりです。その結果、企業にとってはもっとも有効な労働時間制度となるのです。
宮田部長
 そうなんですか?どうしてだろう?
大熊社労士:
 はい、理由は比較的簡単で、企業のお休みというのは一般的に特定の月に偏っていることが多いからです。例えば年末年始休暇や夏季休暇、春にはゴールデンウィークがあり、最近は秋にシルバーウィークもあります。このように特定の月にはかなりの休日があることから、所定労働時間が短くなっています。その一方で祝日がない6月などは休日数が少なくなっています。1年単位の変形労働時間制はこれらをすべて平均して所定労働時間を計算することができるので、企業にとっては非常に使い勝手が良い制度になっているのです。
宮田部長
 なるほど、イメージは分かりますが、具体的にはまだ十分理解できていないような気がします。
大熊社労士大熊社労士:
 そうですか。それでは具体的な数字を出して解説しましょう。1日の所定労働時間が8時間の会社の場合、1ヵ月単位の変形労働時間制で週40時間をクリアするためには、2月以外の通常の月は9日の休日が、2月は8日の休日が確保されなければなりません。よって結論としては年間107日の所定休日が必要となります。これに対し、1年単位の変形労働時間制の場合の必要年間休日は105日になります。これだけ見ても、理論上有利ということが分かります。
宮田部長
 なるほど。これは1ヵ月単位の場合の端数が影響してそうですね。
大熊社労士:
 鋭い!その通りです。いまのは理論上の話で、企業の実際のカレンダーに当てはめると更にメリットが見えてきます。先ほど企業の休日は偏っているという話をしました。例えば2012年1月のカレンダーを見てみましょう。1ヵ月単位の変形労働時間制の変形期間が1日から末日までとした場合、その期間の休日は完全週休2日で、更に1月5日までを年末年始休暇とすると、1月の所定休日日数は14日(1日~5日、7日~9日、14日、15日、21日、22日、28日、29日)となります。とするとこの月の所定労働日数は17日しかないことになりますので、平均所定労働時間は17日×8時間÷31日×7日=30.7時間しかないことになります。
宮田部長
 1月の週平均所定労働時間が30.7時間しかないということですね。確かに週40時間を大幅に下回っていますね。
大熊社労士:
 その通りです。一方で例えば6月が繁忙期だとしましょう。6月は土日が計9日ありますが、繁忙期のため、うち3回の土曜日出勤を行うとします。するとこの月の所定労働日数は24日。結果、週平均所定労働時間は24日×8時間÷30日×7日=44.8時間と、大幅に40時間を上回ってしまうのです。このように月単位で見ると、特定の月は大幅に週40時間を下回る一方で、休みが少ない月には40時間を超えてしまうということが起こるのです。そこでこの変形期間を最大1年間に延ばし、その期間で平均することで、休日の偏りを吸収することができるというのが1年単位の変形労働時間制の最大のメリットなのです。
宮田部長
 なるほど、よく分かりました。いまの例ですと6月については1ヵ月単位の変形労働時間制では週40時間をクリアできないので、休日を増やすか、1日の所定労働時間を短くするしかありません。しかし、そもそも繁忙期なのでそのようなことは現実的ではなく、単純に残業や休日出勤が増えるということになってしまいます。そこで1年単位の変形労働時間制を採用することで、労働時間を平準化し、週40時間をクリアできるということなんですね。
大熊社労士:
 はい、完璧です!
宮田部長
 それは便利な制度ですね。もう少し具体的な内容を教えていただけますか?
大熊社労士:
 はい、1年単位の変形労働時間制には1ヵ月単位と比較した場合にデメリットもありますし、導入には労使協定の締結なども必要ですので、詳しい内容についてはまた次回、お話したいと思います。
宮田部長
 了解しました。それではまた改めてよろしくお願いします。

>>>to be continued

[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス 
こんにちは、大熊です。今回は変形労働時間制の一つである1年単位の変形労働時間制の基本について取り上げました。この制度はあまり年間休日を多くすることが難しい中小企業にとっては非常に有効な制度と言われています。実際、平成9年4月に中小企業にも40時間制が適用された際に多くの事業所でこの1年単位の変形労働時間制を採用し、休日増をできるだけ抑制した上で、週40時間制に移行するという例が見られました。実務的には36協定の限度時間が厳しくなったり、労使協定の締結・届出が必要になるなどのポイントがありますので、そうした詳細についてはまた次回、取り上げたいと思います。

[関連法規]
労働基準法 第32条の4
 使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、次に掲げる事項を定めたときは、第32条の規定にかかわらず、その協定で第2号の対象期間として定められた期間を平均し1週間当たりの労働時間が40時間を超えない範囲内において、当該協定(次項の規定による定めをした場合においては、その定めを含む。)で定めるところにより、特定された週において同条第1項の労働時間又は特定された日において同条第2項の労働時間を超えて、労働させることができる。
1.この条の規定による労働時間により労働させることができることとされる労働者の範囲
2.対象期間(その期間を平均し1週間当たりの労働時間が40時間を超えない範囲内において労働させる期間をいい、1箇月を超え1年以内の期間に限るものとする。以下この条及び次条において同じ。)
3.特定期間(対象期間中の特に業務が繁忙な期間をいう。第3項において同じ。)
4.対象期間における労働日及び当該労働日ごとの労働時間(対象期間を1箇月以上の期間ごとに区分することとした場合においては、当該区分による各期間のうち当該対象期間の初日の属する期間(以下この条において「最初の期間」という。)における労働日及び当該労働日ごとの労働時間並びに当該最初の期間を除く各期間における労働日数及び総労働時間)
5.その他厚生労働省令で定める事項
2 使用者は、前項の協定で同項第4号の区分をし当該区分による各期間のうち最初の期間を除く各期間における労働日数及び総労働時間を定めたときは、当該各期間の初日の少なくとも30日前に、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の同意を得て、厚生労働省令で定めるところにより、当該労働日数を超えない範囲内において当該各期間における労働日及び当該総労働時間を超えない範囲内において当該各期間における労働日ごとの労働時間を定めなければならない。
3 厚生労働大臣は、労働政策審議会の意見を聴いて、厚生労働省令で、対象期間における労働日数の限度並びに1日及び1週間の労働時間の限度並びに対象期間(第1項の協定で特定期間として定められた期間を除く。)及び同項の協定で特定期間として定められた期間における連続して労働させる日数の限度を定めることができる。
4 第32条の2第2項の規定は、第1項の協定について準用する。


関連blog記事
2011年10月10日「土曜日に全社イベントを行うのですが、やはり休日出勤扱いになるのでしょうか?」
https://roumu.com/archives/65518999.html
2006年12月31日「1年単位の変形労働時間制に関する協定書(区分期間あり)」
http://blog.livedoor.jp/shanaikitei/archives/51323918.html
2007年1月2日「1年単位の変形労働時間制に関する協定書(区分期間なし)」
http://blog.livedoor.jp/shanaikitei/archives/51323961.html
2007年1月3日「1年単位の変形労働時間制に関する協定届」
http://blog.livedoor.jp/shanaikitei/archives/51324308.html

参考リンク
厚生労働省「1ヵ月又は1年単位の変形労働時間制」
http://www2.mhlw.go.jp/topics/seido/kijunkyoku/week/970415-3.htm

(大津章敬)

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