労働保険の概算保険料と納付額の計算をしてみましょう

 6月に入り、顧問先から労働保険の年度更新に関する相談が多くなる時期となった。服部印刷でもそろそろ納付書の作成を完了することができそうである。
[労働保険年度更新特集全4回:前回の記事はこちら]
https://roumu.com/archives/65562311.html


宮田部長:
 大熊先生、おはようございます。今日はいよいよ労働保険の年度更新で納付書を作成するのでしたよね?
大熊社労士:
 そうですね。前回までで確定保険料と一般拠出金の計算まで終わっていましたので、今日は(1)概算保険料の計算、(2)納付額の計算、(3)実際の納付まで進めていきましょう。
lb06016宮田部長:
 はい、先生、これ先日預かったリーフレットです。
[これ以降は以下のパンフレットをお手元に印刷して読み進めると分かりやすいです]
http://blog.livedoor.jp/leafletbank/archives/51191185.html
大熊社労士:
 ありがとうございます。それでは10ページ・11ページを開いていただけますか。上から3分の1は前回、計算しましたね。次は(1)概算保険料の計算をする欄です。いきなりですが、今年度、大幅に従業員が増えたり、減ったりする人員計画はありますか?
宮田部長:
 う~ん、若干名、必要に応じて中途社員を採用したり、パートさんが入ったり辞めたりということはあると思いますが、微増・微減だと思いますよ。
大熊社労士:
 そうですか、ありがとうございます。それでは従業員に払う賃金もそう大きくは変わらないと予想されますね。
宮田部長:
 そうですね。まぁ、昇給や賞与の額で多少ぶれるとは思いますが、概ね昨年度と同じくらいになるでしょうね。
大熊社労士:
 ありがとうございます。それであれば、概算保険料はすぐに計算できますね。
宮田部長:
 ???。というとどういうことですか?
大熊社労士:
 実は概算保険料を計算する元となる賃金は、今年度中に支払う予定の賃金額の見込み額によって計算します。通常は大幅に賃金額の見込み額が増減することはあまりないかと思いますので、その場合には前回計算した前年度の確定賃金の総額と同じ額を概算賃金の総額とすることになっています。
宮田部長宮田部長:
 そっか、確かに今年度の細かな賃金予想額を計算しても残業が多かったりすればすぐに予想額がずれてしまいますよね。ところで、先生の言っていた「大幅に」ってどれくらいですか?参考までに教えてください。
大熊社労士:
 お、いい質問ですね。今年度の賃金総額と今年度の賃金総額を比較するわけですが、2倍を超える場合もしくは半分より少なくなる場合には大幅に変更することとなります。
宮田部長:
 そっかぁ、10ページ・11ページでは同じ賃金総額になっているのはそのような理由からだったのですね。ん?でも、同じ賃金総額なのに、概算保険料額の方が少ないじゃないですか!?同じ賃金でも保険料が安くなることがあるんですか!?
大熊社労士:
 あはは。それはこれまでにも説明したじゃないですか(笑)。今年度から保険料率が変更になると。料率が変更になっているので、当然ながら保険料額も変更になりますよね。
宮田部長:
 あ、そうでした、失礼しました。なにせいろいろ覚えることが多くて、1つ覚えると2つ忘れていくようですよ。
大熊社労士:
 いやいや、それじゃマイナスで、覚えていることをどんどん忘れていってますよ(笑)。ま、概算保険料額はこのような計算方法で計算できますので、次は(2)納付額の計算を行いましょう。リーフレットは12ページ・13ページです。そして電卓を用意しておいてくださいね。
宮田部長:
 電卓…電卓っと。はい、OKです。
大熊社労士:
 まず、労働保険料は7月10日までに1回で全額納付するというのが原則となります。ただし、その額が大きくなった場合には、分割で納付できるという延納という制度があります。
宮田部長:
 そうなのですね。そういえば、これまでも3回に分けて納付していたような気がしますね。
大熊社労士:
 延納するためには条件が決まっていて、これが13ページの下の方に書いてあります。概算保険料額が40万円以上(労災保険か雇用保険のどちらか一方の保険関係のみ成立している場合は20万円)の場合には、3回に分けて納付することができます。原則は金額にかかわらず1回で納付することになりますので、分納を希望するときには、申告書の下から3分の1(右側)にある延納の申請の欄に「3」と記入してくださいね。
※労働保険事務組合に労働保険事務を委託している場合は概算保険料額に関わらず延納が可能です。
宮田部長:
 なるほど、ここはきちんと記入しなくてはいけませんね。マーカーしておきます。
大熊社労士:
 はい、そうですね。ではこれからは延納を行う前提でお話を続けますね。納付額
の計算ですが、まずは昨年度の年度更新で今年度の概算保険料としていくら納付したかをまずは確認する必要があります。それが、申告書の下から3分の1(中央)の「申告済概算保険料額」の欄に印字されている数字です。
宮田部長:
 おぉ、これですね。なるほど。前回計算した確定保険料額の欄を確認すると…、おっ、このリーフレットの会社は保険料額が増えているということですね!
大熊社労士:
 はい、おっしゃる通りです。電卓で、申告済概算保険料額と確定保険料額の差額を出していただけますか?そして、その額、差引額を申告済概算保険料額の下の欄に記入します。ここでは、3つ欄があるので注意してくださいね。
宮田部長:
 ん?どこに書けばいいのですか?
大熊社労士大熊社労士:
 はい、リーフレットの事例では確定保険料額の方が高くなっています。ですので、納付額が不足していたということで、「不足額」という右の欄に記入されていますよね。仮に申告済概算保険料額の方が確定保険料額より大きい場合には、今年度に納付するべき保険料に充てる「充当額」か、納付しすぎていた保険料の払い戻しを受ける「還付額」に記入することになります。
宮田部長:
 なるほど、なので、欄が3つあるんですね。
大熊社労士:
 はい、そうです。各々の場合は14ページ以降に書いてあるので、御社でも計算して申告済概算保険料額の方が多い場合には、リーフレットを参考にしてくださいね。それでは続きを進めますね。次に行うことは、今年度の概算保険料額を記入することです。先ほど延納のお話をしましたが、3回で納付する場合には、今年度の概算保険料額を3で除す必要がありますよね。
宮田部長:
 そうですね。ん、もしかして、13ページの今年度の概算保険料額から斜め左下に線が引っ張ってあるのはそれですか?
大熊社労士:
 はい、するどいですね!まさにその部分です。3回の納付ですので、同じ額が第1期・第2期・第3期に分けて書いてありますよね。ちなみに、端数が出た場合には、第1期に入れることになっていますよ。
宮田部長:
 了解しました。ん、その横は先ほど記入した不足額と同じ額が書いてありますね。
大熊社労士:
 そうですね。納付しなければならない額として、第1期の欄に転記されている状態です。この欄は横に見ていきますからね。で、今年度の概算保険料額(3分割)とこの不足額を足してその横にある今期労働保険料の額が計算されました。
宮田部長:
 ん、その横は一般拠出金の額ですね。そっか、一般拠出金は概算保険料として納付しないから、こうなっているのですね。
大熊社労士:
 おっしゃる通りです。ただ、今期の納付額としては足しておく必要があるので、先ほどの今期労働保険料と一般拠出金の額を足した額を記入するようになっているのですね。ちなみに、2期・3期はそのまま数字をスライドすることになっていますが、仮に充当額が多いような場合には、ちょっと書き方が異なりますので、15ページを参考にしてくださいね。
宮田部長:
 はい、了解しました。
大熊社労士:
 それでは最後に、(3)実際の納付を確認しておきましょう。10ページ・11ページに戻ってください。ここは3か所の転記だけですよ。下の方に納付書の例が載っていますが、先ほど計算した第1期の労働保険料の額、一般拠出金の額、そしてこれらの合計額を転記してくださいね。そして転記した上で、¥の横棒が1本ないマークをそれぞれの頭につけておいてくださいね。ここは訂正ができないので、間違えないように注意してくださいよ~。
宮田部長:
 は…はい、いつものオッチョコチョイをしないように、慎重にやりますね。
大熊社労士:
 さて、あとは申告書と納付書を労働局や金融機関の窓口に持っていくことになりますが、少しだけ補足させてください。まず、申告書の一番上の部分、被保険者数を記入する欄があります。ここは記入漏れが多い部分ですので、きちんと記入してくださいね。次に、申告書の上の部分ですね。会社名や所在地等を記入し、押印する欄があります。ここもお忘れなく!
宮田部長:
 はい、ここもマーカーしておきますね。ところで、これらの書類を持参すると、何かもらえるんですか。
大熊社労士:
 はい、申告書の控と領収済み通知書をもらえますので、必ず控を残すようにしておいてくださいね。
宮田部長:
 はい、わかりました。ふぅ、これで何とか労働保険の年度更新は乗り越えられそうな気がしてきました。大熊先生、ありがとうございました。これでまずは肩の荷がおりました~。
大熊社労士:
 お疲れ様でした。ただ来週からは社会保険の算定基礎を説明する時期になりますね。それまでに申告書の作成と納付をお願いしますね(笑)。
宮田部長:
 ひぇ~、大熊先生はスパルタすぎます(>_<)。でも、がんばりますね。

>>>to be continued


[大熊社労士のワンポイントアドバイス]

大熊社労士のワンポイントアドバイス こんにちは、大熊です。。労働保険の年度更新作業は理解できたでしょうか?説明が不足した部分もあるかと思いますが、リーフレットには詳細な内容が記載されていますので、不明点はこちらで確認し
てくださいね。なお、労働保険料の納付について、口座振替ができるようになっています。リーフレットの最終ページ、40ページにありますが、事前に手続きを行う必要があります。口座振替日は納付書の納付日より遅く設定されています。必要に応じ、手続きを行っておきましょう。なお、この口座振替手続きを行った場合には、納付書に「口座振替」と印字されることになっています。


関連blog記事
2012年6月4日「労働保険の確定保険料と一般拠出金はどのように計算されているのですか?」
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2012年5月28日「労働保険年度更新にあたって賃金集計の注意点について教えてください」
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2012年5月21日「労働保険年度更新の全体像についてお話しします」
https://roumu.com/archives/65559715.html
2012年5月22日「EXCELで使える「労働保険年度更新支援システムv3.02」ダウンロード開始」
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2012年5月7日「平成24年度版にリニューアルされた年度更新申告書計算支援ツール」
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2012年4月27日「平成24年度の労働保険年度更新にかかるパンフレットが公開に」
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2012年3月30日「4月から変更となる労災保険給付の様式と厚労省サイトからのダウンロード」
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2012年3月27日「平成24年度 年度更新用資料(事務組合用) 早くも新潟労働局から公開」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51920261.html
2012年3月12日「平成24年度より大きく変更される社会保険料率」
https://roumu.com/archives/65548827.html

(宮武貴美)

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