パワハラ防止指針素案にみるパワハラに該当する例・該当しない例

 2019年9月20日のブログ記事「パワハラ防止指針の骨子案が公表されました」でパワーハラスメント対策の法制化に伴い、今後、指針が示される予定であり、その骨子案が提示されたことをご紹介しました。
 これに関連し、今週の月曜日、厚生労働省で「第20回労働政策審議会雇用環境・均等分科会」が開催され、示される予定の指針(職場におけるパワーハラスメントに関して雇用管理上講ずべき措置等に関する指針)に関する素案が公表されました。
 現段階では資料として公開された素案ではありますが、以下のような「該当すると考えられる例」、「該当しないと考えられる例」が示されることとなっています。
 職場におけるパワーハラスメントの状況は多様であるが、言動の類型ごとに、典型的に職場におけるパワーハラスメントに該当し、または該当しないと考えられる例としては、次のようなものがある。ただし、個別の事案の状況等によって判断が異なる場合もあり得ること、また、次の例は限定列挙ではないことに留意が必要。
 なお、職場におけるパワーハラスメントに該当すると考えられる以下の例については、行為者と当該言動を受ける労働者の関係性を個別に記載していないが、優越的な関係を背景として行われたものであることが前提である。

■暴行・傷害(身体的な攻撃)
(該当すると考えられる例)
・殴打、足蹴りを行うこと。
・怪我をしかねない物を投げつけること。

(該当しないと考えられる例)
 ・誤ってぶつかる、物をぶつけてしまう等により怪我をさせること。

■脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)
(該当すると考えられる例)
・人格を否定するような発言をすること。(例えば、相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な発言をすることを含む。)
・業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行うこと。
・他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行うこと。
・相手の能力を否定し、罵倒するような内容の電子メール等を当該相手を含む複数の労働者宛てに送信すること。

(該当しないと考えられる例)
・遅刻や服装の乱れなど社会的ルールやマナーを欠いた言動・行動が見られ、再三注意してもそれが改善されない労働者に対して強く注意をすること。
・その企業の業務の内容や性質等に照らして重大な問題行動を行った労働者に対して、強く注意をすること。

■隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)
(該当すると考えられる例)
・自身の意に沿わない労働者に対して、仕事を外し、長期間にわたり、別室に隔離したり、自宅研修させたりすること。
・一人の労働者に対して同僚が集団で無視をし、職場で孤立させること。

(該当しないと考えられる例)
・新規に採用した労働者を育成するために短期間集中的に個室で研修等の教育を実施すること。
・処分を受けた労働者に対し、通常の業務に復帰させる前に、個室で必要な研修を受けさせること。

■業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)
(該当すると考えられる例)
・長期間にわたる、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下での勤務に直接関係のない作業を命ずること。
・新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責すること。
・労働者に業務とは関係のない私的な雑用の処理を強制的に行わせること。

(該当しないと考えられる例)
・労働者を育成するために現状よりも少し高いレベルの業務を任せること。
・業務の繁忙期に、業務上の必要性から、当該業務の担当者に通常時よりも一定程度多い業務の処理を任せること。

■業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)
(該当すると考えられる例)
・管理職である労働者を退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行
わせること。
・気にいらない労働者に対して嫌がらせのために仕事を与えないこと。
(該当しないと考えられる例)
・経営上の理由により、一時的に、能力に見合わない簡易な業務に就かせること。
・労働者の能力に応じて、業務内容や業務量を軽減すること。

■私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)
(該当すると考えられる例)
・労働者を職場外でも継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりすること。
・労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露すること。
(該当しないと考えられる例)
・労働者への配慮を目的として、労働者の家族の状況等についてヒアリングを行うこと。
・労働者の了解を得て、当該労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、必要な範囲で人事労務部門の担当者に伝達し、配慮を促すこと。

 なお、個の侵害に該当すると考えられる例の2つ目のような事例が生じることのないよう、こうした機微な個人情報に関してはその取扱いに十分留意をするよう労働者に周知・啓発することが重要である。


 パワハラは上司が部下の成長を願い、熱心に指導したために発生することもあり、悩ましく感じる事例も多くあります。正式に指針が出たときには、その内容を確認し、管理職を中心に自分の言動を確認する機会にする必要があるのかもしれません。


関連blog記事
2019年9月20日ブログ記事「パワハラ防止指針の骨子案が公表されました」
https://roumu.com/archives/97673.html

参考リンク
厚生労働省「第20回労働政策審議会雇用環境・均等分科会」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_07350.html

(宮武貴美)
http://blog.livedoor.jp/miyataketakami/