退職金規程では、支払時期や懲戒解雇時の取扱いなども明確に規定する必要があります

 先週は退職金規程を整備する際に注意すべき5つのポイントのうち、まず「規程の適用範囲を明確に定める」と「勤続年数の計算方法および除外する期間を明確に定める」の2つを解説した。そこで本日は残りの3つについて説明することとした。
※今回の記事は先週からの続きの内容になりますので、事前に以下をお読みください。
2011年5月23日「退職金は企業にとって中長期的なリスクであると認識する必要があります」
https://roumu.com/archives/65485100.html


大熊社労士:
 前回は退職金規程を整備する際の重点ポイントとして、以下の5つを挙げ、このうち最初の2つについて解説しました。本日は残りの3つについてお話したいと思います。
規程の適用範囲を明確に定める。
勤続年数の計算方法および除外する期間を明確に定める。
退職金の支払時期を明確に定める。
懲戒解雇時の退職金の不支給・減額規定を明確に定める。
外部積立との支給調整の取り扱いを明確に定める。
服部社長:
 よろしくお願いします。
大熊社労士:
 まず「退職金の支払時期を明確に定める」ですが、退職金の支払時期については労働基準法第23条に定めがあり、原則として退職した従業員などから請求があれば、7日以内に支払わなければならないとされています。
宮田部長:
 7日以内ですか?!退職金は支払額が数百万になることも多いので、それって現実的には難しいのではないですか?
大熊社労士大熊社労士:
 そうですよね。そこで退職金については、「通常の賃金の場合とは異なり、あらかじめ就業規則等で定められた支払時期に支払えば足りる」という通達(昭和26年12月27日基収5483号、昭和63年3月14日 基発150号)が出されているのです。よって退職金規程においては、その支給時期を明確に規定しておくことが必要なのです。
服部社長:
 なるほど、相場はどの程度の期間になるのでしょうか。
大熊社労士:
 そうですね。退職から1ヶ月から3ヶ月程度としていることが多いように思います。あまり長すぎるのも問題ですから、この程度が妥当ではないでしょうか。さて、次に「懲戒解雇時の退職金の不支給・減額規定を明確に定める」ですが、何か問題などを発生させ、懲戒解雇になった社員については退職金ゼロが当たり前と考えている経営者がほとんどと思いますが、そのように退職金を不支給にしたり、減額するような場合にはあらかじめその旨の規定が必要となります。
宮田部長宮田部長:
 そうなんですか?懲戒解雇ということは会社に損害を与えたり、重大な違反をしたということですよね?そのような社員であれば、当然に退職金の支給は必要ないと思っていました。
大熊社労士:
 事実、ほとんどの企業ではそのような取扱いがされていますが、その場合には根拠となる規定が必要となるのです。更に、そうした不支給の規定があったとしても、裁判などになった場合には、退職金の一部を支払わなければならないようなこともあります。
服部社長:
 そうですか、それは驚いた…。
大熊社労士:
 懲戒解雇時の退職金の取扱いについてはいくつも裁判例がありますが、その中の代表的なケースである小田急電鉄事件(東京高判 平成15年12月11日)では、この問題について以下のように述べ、結果的に本来の退職金の3割の支払を認めています。


  本件懲戒解雇は有効であるが、このような賃金の後払い的要素の強い退職金について、その退職金全額を不支給とするには、それが当該労働者の永年の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為があることが必要である。ことに、それが、業務上の横領や背任など、会社に対する直接の背信行為とはいえない職務外の非違行為である場合には、それが会社の名誉信用を著しく害し、会社に無視しえないような現実的損害を生じさせるなど、上記のような犯罪行為に匹敵するような強度な背信性を有することが必要であると解される。


  実際の判断は個別事情を勘案し、行う必要がありますが、懲戒解雇=退職金不支給ということではないことは押さえておいてください。
服部社長:
 なるほど、分かりました。
大熊社労士:
 もっとも退職金規程上は懲戒解雇に該当するような問題行動を抑止するためにも、懲戒解雇時は原則として退職金は支給しないという規定をしておけばよいと思います。そして最後が「外部積立との支給調整の取り扱いを明確に定める」ですね。
宮田部長:
 外部積立というのは、中退共や確定給付企業年金といった制度を指しているのですか?
大熊社労士:
 さすがですね、宮田部長。そのとおりです。退職金制度を安定的に運営するためにそうした外部積立を行っている企業は多いですが、そうした外部積立からの退職金は会社を通さず、直接退職者本人に支払われることがよくあります。中退共や確定給付企業年金はその典型ですが、そうした外部積立から支払われた退職金は、退職金規程で計算される退職金の内払いであるということを明確にしておく必要があるのです。規定としては以下のような感じですね。
第○条(外部積立による退職金の支給)
 会社が、中小企業退職金共済制度など外部機関において積み立てを行っている場合は、当該外部機関から支給される退職金は、会社が直接本人に支給したものとみなし、第3条に規定する算定方法により会社から直接支給する退職金は、当該外部機関から支給される退職金の額を控除した額とする。
服部社長服部社長:
 なるほど、この規定がないと中退共など外部積立からの支払は退職金規程とは関係がないので、別途、退職金規程で計算される退職金全額を支払えという主張に繋がる危険性がありますね。
大熊社労士:
 その通りです。よってこうした内払い規定が必要となるのです。
服部社長:
 なるほど、よく分かりました。
大熊社労士:
 御社の退職金規程は数年前に私が整備していますからこの辺りのポイントはすべて盛り込んでありますが、もしお知り合いの企業でこうした問題があるようでしたら、是非アドバイスしてあげてくださいね。

>>>to be continued

[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス 
こんにちは、大熊です。今回は先週に引き続き、退職金規程を整備する際の重要ポイントについて取り上げました。このように見ていくと、様々な点にまで配慮して規程整備を行う必要があることをご理解いただけるのではないでしょうか。今回取り上げた5点は退職金に関するトラブルを防止するためには最優先で押さえておくべきポイントとなりますので、是非自社の退職金規程のチェックをしてみてください。

[関連法規]
労働基準法 第23条(金品の返還)
 使用者は、労働者の死亡又は退職の場合において、権利者の請求があつた場合においては、7日以内に賃金を支払い、積立金、保証金、貯蓄金その他名称の如何を問わず、労働者の権利に属する金品を返還しなければならない。
2 前項の賃金又は金品に関して争がある場合においては、使用者は、異議のない部分を、同項の期間中に支払い、又は返還しなければならない。


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2011年5月30日「退職金規程では、その適用範囲と勤続年数の計算方法を明確に規定しましょう」
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2011年5月23日「退職金は企業にとって中長期的なリスクであると認識する必要があります」
https://roumu.com/archives/65485100.html
2009年11月2日「退職金は請求後7日以内に支給しなければならないのですか?」
https://roumu.com/archives/65156149.html

参考リンク
大津章敬著「日本一わかりやすい退職金・適年制度改革実践マニュアル」
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大津章敬著「中小企業の退職金・適年制度改革実践マニュアル」
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(大津章敬)

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