パワハラ研修ではリスクを強調するだけでは不十分です

 最近は暖かい日々が続いていたが、今週はまた冬の気候に戻るということで、再び冬用のコートで出掛けた大熊であった。


大熊社労士
 おはようございます。最近は暖かい日が続いていましたが、今週はまた寒くなるようですね。西日本で大雪だとか。
福島照美福島さん
 そうなのですね。今年は本当に暖冬でしたからね。年末に北陸に旅行に行ったとき、全然雪がなくってびっくりしましたから。雪が前提の観光地は大変ですね。それに加えて新型肺炎の問題が出てますからね。
大熊社労士
 本当にそうですね。さてさて、今日は宮田部長からご相談があると伺っていますが。
宮田部長
 はいはい、そうなのです。早速いいですか?
大熊社労士
 もちろんどうぞ。
宮田部長宮田部長
 実はパワハラ研修を行おうと考えているのです。ちょうど法改正もあるじゃないですか。その対応としても必要でしょうし、そもそもたまに社員から上司の当たりがきつくて、パワハラではないかといった話もたまにあるものですから。
大熊社労士
 なるほど。まあ、そうでしょうね。最近はそのような話はどこの会社でも多いですから。
宮田部長
 そこで研修の内容をどのようにしたらよいかと考えていまして。
大熊社労士大熊社労士
 なるほど。まずパワハラの研修資料については厚生労働省の「明るい職場応援団」でもダウンロードできますので、それを見ていただければと思いまますが、定番の内容としては、パワハラの定義と6つの行為類型を確認した上で、そうした問題が起きた場合の影響、そして各種裁判例で問題になっている点などを伝えるといったところになるのでしょう。あとは時間に余裕があればケーススタディに基づいて、適正な指導の仕方などをディスカッションするといったところでしょうか。
宮田部長
 そのような感じなのですね。当社の過去の事例では、本人が自分の行為をパワハラだと認識していないということが大きな問題だなと感じました。
大熊社労士
 それは他社でも同様ですね。基本的にはプレイヤーとしての実績も豊富で、自信のある方が加害者になることが多いですからね。良かれと思って部下に要求をしたり、指導をすることが行き過ぎてしまうということが多いのではないかと思います。ですから、私が研修を行う際には、その点を伝え、まずは自らの言動がパワハラに当たらないかを振り返る癖付けをして欲しいとお話しています。また管理者同士で注意しあうような関係も重要になりますね。
服部社長
 本当にそうですよね。宮田部長は覚えていると思いますが、私の部下への指導がパワハラだとして、当時の総務部長に相談が入ったことがあるのです。ただ私としてはそんな意識はまったくなく、純粋にその社員に成長して欲しいと思っていただけでした。
大熊社労士
 服部社長でもそのようなことがおありだったのですね。でもそれが本質だと思うのです。もちろん一部には人間性に問題があってハラスメントを行うような者もいるかも知れませんが、多くの場合はいまの社長のケースのような感じではないかと思っています。
服部社長服部社長
 そうかも知れないですね。ハラスメントは上司が部下に行うものだけではないので、いろいろなパターンがあると思いますが、いずれにしても安心して働けないような職場にはしたくないので、しっかりと対応したいと思っています。
大熊社労士
 そうですね。その方針を明確に社員に伝えていただくことは社長の大きな仕事の一つです。あと研修でもう一つ社員のみなさんに伝えていただきたいことがあります。パワハラが難しいのは、適正な指導との線引きが難しいことです。その基本的な考えは伝えるとしても、管理職からすれば下手なことを言って、パワハラであるとして問題になったらかなわないと思う可能性があります。もしパワハラの指摘をうけないようにしようとすれば管理職はどうすればよいと思いますか?
福島さん
 部下に問題行動があったとしても指摘しなければ、少なくともパワハラとは言われませんよね。
大熊社労士
 そうなのです。パワハラとの指摘を受けないようにしようとして、本来行うべき指導を放棄してしまったら、組織としての統制は失われてしまいます。それだけは絶対に避けなければなりません。
服部社長
 確かに。
大熊社労士
 ですから社長にお願いしたいのは、研修の中で説明する適正な指導を守っていながらも、ハラスメントの指摘を受けた場合には、事実確認を行い、問題がなければ、会社として管理職を守ると宣言していただきたいのです。だから、自信をもって部下と向き合って欲しいと伝えて頂きたいのです。
服部社長
 そうですね。分かりました。今年度中には一度研修を行おうと考えているので、内容等についてはまた相談に乗ってください。
大熊社労士
 承知しました。

>>>to be continued

大熊社労士のワンポイントアドバイス[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
 おはようございます。大熊です。労働施策総合推進法の改正により、事業主は、職場におけるパワーハラスメント防止のために、相談体制の整備などの雇用管理上必要な措置を講ずることが、2020年6月1日から義務になります(中小企業は2022年3月31日までは努力義務)。事業業の責務として、職場におけるパワハラを行ってはならないこと、その他職場におけるパワハラ問題に対する従業員の関心と理解を深め、当該従業員Bが他の従業員等に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他必要な配慮をするよう努めなければならないとされています。それもあって今後、管理者等を対象とした研修を実施する企業も多いのではないかと思います。その際、リスクを話すだけの研修では、副作用を生み出す恐れがあります。法的な問題については当然に伝えながらも、前向きに部下と向き合うことができるような内容を工夫していきましょう。


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2020年1月27日「パワハラ防止措置義務化 改正法対応のパンフレット・規定例」
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2020年1月24日「事業主の皆様へ「職場におけるハラスメント防止対策について」」
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2020年1月24日「妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント、セクシュアルハラスメント及びパワーハラスメントの防止に関する規定」
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参考リンク
厚生労働省「明るい職場応援団」
https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/

(大津章敬)