年収の壁対応策の「社会保険適用促進手当」ってなんですか?

年収の壁の対応策について服部印刷で説明中の大熊。福島さんから質問があった。


福島さん
 大熊先生、助成金の説明いただいたところで「社会保険適用促進手当」って出てきたのですが、助成金を使うときには、社会保険適用促進手当をパートさんに払う必要があるということでしょうか?
大熊社労士大熊社労士
 説明が不足していましたね。社会保険適用促進手当は「払わなければならない」ではなく、「払うことで社会保険上の優遇が受けられる」という特例です。
服部社長
 優遇・・・ですか?
大熊社労士
 毎月払う給与は、原則、そのすべてが社会保険料の対象になりますよね。ですので、パートさんの社会保険の加入促進のために、社会保険料負担分を会社が補助してあげようと、新たに手当を作って支給したとしても、それは社会保険料の対象になる。助成金の申請を念頭において、給与の15%の手当を払うとなると、その手当が支給されることで標準報酬月額が上がり、社会保険料の負担が増えるかもしれないということです。
福島さん
 社会保険料が負担が増えるということは、社会保険料の分を手当として払うと言っているのに、実は手取りが減ることになるということでしょうか。
大熊社労士
 はい、その通りです。そのようなことにならないように優遇する制度が作られたのです。それが社会保険適用促進手当であり、この手当については、標準報酬月額のもととなる報酬月額に含めなくてもよいとされました。
福島さん
 たとえば、給与が10万円のパートさんが社会保険に加入することで、1万5千円の社会保険料の負担が増えるので、この分を手当として支給するとなると、本来は11万5千円で標準報酬月額を考えるところ、社会保険適用促進手当として支給すれば10万円で考えるいうことでしょうか。
大熊社労士
 はい、その通りです。ただし、新たに発生する従業員本人負担分の社会保険料
相当額が上限になっています。
服部社長
 そうなると、給与20万円の正社員にも社会保険適用促進手当を3万円払ってあげることで社会保険料の負担軽減ということもできますね。
大熊社労士
 確かにそのような制度であれば、かなりの人が負担軽減になるのですが、今回の年収の壁対応策は、あくまでも壁を超えようとする人の支援ですので、実は優遇を受けられる人は、標準報酬月額が10万4千円以下の人に限られています。
服部社長
 そうですよね、そんなに甘くはないですね(苦笑)。
大熊社労士
 御社はまだ特定適用事業所ではないので、おそらく標準報酬月額が10万4千円以下の方はいないのではないかと想像していますし、社会保険に加入するパートさんの標準報酬月額は10万4千円を超えると思うので、活用方法はなかなかないのかなと思っています。
福島照美福島さん
 大きな会社さんは、活用されているのでしょうか?
大熊社労士
 どれくらい活用がされているかはわからないのですが、活用をしようとすると、社会保険適用促進手当をどの程度の期間について支給するのか、すでに社会保険に加入しているパートさんとのバランスはどうするのか、といった課題が出てきます。
福島さん
 支給する期間ですか?
大熊社労士
 はい。この社会保険適用促進手当の優遇は2年間に限定されています。いつまでも優遇がされるわけではないのです。
服部社長
 支給を始めるのはよいとしても、2年後も支給を継続しようとすると社会保険料の負担が増えるというわけですね。とはいえ、2年後に支給をやめますというのも言いづらい。
大熊社労士
 そうですね。もちろん、あらかじめ2年間のみの支給ですよとしておくことはできるのですが、2年後のことを想像すると、いろいろ考えますね。
福島さん
 パートさんとのバランスとはどういうことですか?
大熊社労士
 はい。社会保険適用促進手当が社会保険に加入することでの負担軽減の優遇ということであれば、以前から社会保険に加入していたパートさんに社会保険適用促進手当の優遇を当てはめるのはおかしいですよね。
福島さん
 確かに。
大熊社労士
 ただ、以前から社会保険に加入しているパートさんで、標準報酬月額10万4千円以下の人もいるかもしれない。ですので、社内での手当支給のバランスを取るために、以前から社会保険に加入しているパートさんにも社会保険適用促進手当を支給したときは、報酬月額に含めない優遇をしてもよいですということにしたのです。
服部社長服部社長
 なるほど。ただ手当の負担もあるので、特にパートさんが多い会社は悩みどころですね。 
大熊社労士
 そうですね。今回の優遇は社会保険(健康保険・厚生年金保険)に対するもので、所得税や労働保険料の計算には給与や賃金として含めるといった対応になります。このようなことも確認の上、支給するかを決断する必要がありますね。検討の際には厚生労働省が公開しているQ&Aをご確認ください。

>>>to be continued

大熊社労士のワンポイントアドバイス[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
 社会保険料の負担を軽減する目的の手当であれば、本来は賃金台帳や給与明細に載せる手当の名称は任意ですが、今回の特例を適用するときには、報酬月額から算定除外となることについて事後的な確認が可能となるよう、「社会保険適用促進手当」の名称を使用するように政府は案内をしています。


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2023年12月25日「年収の壁の対応策の助成金ってどういうものですか?」
https://roumu.com/archives/120310.html
2023年12月18日「年収の壁の対応策(130万円の壁)ってなんですか?」
https://roumu.com/archives/120186.html

参考リンク
厚生労働省「年収の壁・支援強化パッケージ」
https://www.mhlw.go.jp/stf/taiou_001_00002.html
(宮武貴美)