対応が遅れる労働時間の適正な把握と懸念される調査の増加

対応が遅れる労働時間の適正な把握と懸念される調査の増加 厚生労働省が11月23日に「過重労働・賃金不払残業解消キャンペーン月間」の一環として行った無料相談ダイヤルの相談受理の結果について、先日発表が行われました。全国の相談ダイヤルに寄せられた相談件数は818件、そのうち労働者本人からの相談が539件と、65%超を占めていました。この調査では、賃金不払残業の状況や一ヶ月の総残業時間など、様々な項目が調査されていますが、私がこれらの項目の中でもっとも注目したのが、労働時間の把握方法に関する相談結果です、


 労働時間の把握方法については、厚生労働省より「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」という指針が発表されており、使用者が講ずべき措置が明確化されています。この内容を簡単に復習してみると、始業・終業時刻の確認および記録の原則的な方法は、使用者が自ら現認することにより確認し、記録すること、もしくはタイムカード、ICカード等の客観的な記録を基礎として確認し、記録することであるとされています。その上で、自己申告制により始業・終業時刻の確認および記録を行う場合は以下の措置を講じなければならないとしています。



自己申告制を導入する前に、その対象となる労働者に対して、労働時間の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明を行うこと。
自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施すること。
労働者の労働時間の適正な申告を阻害する目的で時間外労働時間数の上限を設定するなどの措置を講じないこと。また、時間外労働時間の削減のための社内通達や時間外労働手当の定額払等労働時間に係る事業場の措置が、労働者の労働時間の適正な申告を阻害する要因となっていないかについて確認するとともに、当該要因となっている場合においては、改善のための措置を講ずること。


 今回発表された結果では、このような指針があるにも関わらず、タイムカード等客観的記録が204件(47%)、管理者による管理が27件(6%)となり、指針が定める原則的な方法での労働時間把握が実施されている割合はやっと半分を超える水準に止まっていることが分かります。また自己申告制によるものが87件(20%)ありますが、一方では把握していないという回答も88件(20%)となっており、過重労働対策やサービス残業対策の前提となる労働時間把握が十分に実施されていないことが明らかとなっています。実務家として見れば、この結果はそう驚くものではないかも知れませんが、こうした結果が厚生労働省から公式に出たということは、今後、この結果を踏まえた労働時間に関する調査が強化されることが懸念されるのではないでしょうか。



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参考リンク
厚生労働省「「過重労働・賃金不払残業解消キャンペーン月間」における無料相談ダイヤル(11月23日)の相談受理結果」
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2007/11/h1130-1.html
厚生労働省「「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」の策定について」
http://www.mhlw.go.jp/houdou/0104/h0406-6.html


(宮武貴美)


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