年金騒動を斬る(6)記録消失問題
[記録消失問題]
記録確認作業が進む中、平成19年9月末時点で12万7千人分の記録が消失していることが判明した。消失の原因はさまざまではあるが、気になるのは、事業所が社会保険料(厚生年金保険料)を滞納した分は個人も未納扱いになるのかどうか、という問題である(滞納率は厚生年金保険料徴収全体からいえばそれほど大きな数値ではないが、放置できない問題である)。周知のとおり、社会保険料は原則として労使折半なので、従業員からの預かり金がある。通常、保険料の滞納というとこの預かり金も含まれるため、これは事業所の保険料の横領である。しかしこの期間の個人の年金記録の取り扱いは昔からあやふやであった。かつて一部の社会保険事務所では、事業所の滞納は個人の年金記録には影響しない、という見解を示していたし、実際に保険料を滞納した事業所でもその期間が個人の年金支給に反映されているケースを見てきている。しかし、今回の騒動でこれが反映されていない事実が表に出て、その補償のための特別立法までなされるという大問題に発展した。つまり事業所の保険料未納時の取り扱いがまちまちであったのだ。特別立法は、一定の証拠があれば事業所未納の期間も本人が納付したとみなし、その立替分を当該事業主へ求償するというもので、これは年金制度の本筋からいえば当然といえる。しかし、保険料を滞納する(した)事業所はほとんどが経営難、資金繰り難、もしくはすでに廃業しているため、この回収は相当困難であろう。となるとこの分は税金もしくは年金資産から充当することになり、事業主のモラルハザードが懸念される。いずれにせよ、「保険料徴収」という問題は様々な歪を起こしている。
[基礎年金の税方式]
これは現在、年金目的税を財源とした新たな国民年金のプランである。最大のメリットは、年金受給が保険料納付に左右されず、徴収問題を根本から解決できることにある。副次効果として保険料徴収コストが大幅に下がることがある。年金不信世論の根は、保険料徴収と記録問題にあるため、まずはここから改革を図るのは順当といえよう。また、公的年金の本質からいえば、無年金者をなくし、社会の安定性を目指す政策は非常に望ましい。税方式でも、賦課方式の最大のメリットであるインフレヘッジは可能であるため、このプランを推す意見は多い。最大の課題は財源確保と現行制度からの移行であるが、これも長期の移行措置を設定すればソフトランディングが可能である。この新国民年金プランを土台に、いわゆる厚生年金のような2階部分の報酬比例などは長期的には企業や個人が自由設計できる方向が主流になるだろう。DC(確定拠出型年金制度)はこの典型だ。まだまだ多くの課題を残す年金制度であるが、皆の英知で乗り切り、少なくとも制度の不備で要らぬ混乱が生ずることのない社会を期待したい。
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(小山邦彦)
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