注目の「名ばかり管理職」新通達のポイント

注目の「名ばかり管理職」新通達のポイント 日本マクドナルド裁判により、労働者の管理監督者性の問題(いわゆる「名ばかり管理職問題」)が非常に大きなトピックになり、流通業や小売業においては、店長の法的取り扱いを見直すなど、混乱が見られています。こうした状況を背景に9月9日、厚生労働省労働基準局長は「多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について(基発第0909001号)」という通達を都道府県労働局長宛てに発信しました。


 今回の通達はタイトルにもあるように、多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗の店長等の管理監督者性の判断に当たっての特徴的な要素について、店舗における実態を踏まえ、最近の裁判例も参考としてまとめたものとなっています。以下、今回の通達で示されている「職務内容、責任と権限」、「勤務態様」、「賃金等の待遇」についての各判断要素について見ていくことにしましょう(画像はクリックして拡大)。



「職務内容、責任と権限」についての判断要素
 店舗に所属する労働者に係る採用、解雇、人事考課及び労働時間の管理は、店舗における労務管理に関する重要な職務であることから、これらの「職務内容、責任と権限」については、次のように判断されるものであること。
(1) 採用
 店舗に所属するアルバイト・パート等の採用(人選のみを行う場合も含む。)に関する責任と権限が実質的にない場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となる。
(2) 解雇
 店舗に所属するアルバイト・パート等の解雇に関する事項が職務内容に含まれておらず、実質的にもこれに関与しない場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となる。
(3) 人事考課
 人事考課(昇給、昇格、賞与等を決定するため労働者の業務遂行能力、業務成績等を評価することをいう。以下同じ。)の制度がある企業において、その対象となっている部下の人事考課に関する事項が職務内容に含まれておらず、実質的にもこれに関与しない場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となる。
(4) 労働時間の管理
 店舗における勤務割表の作成又は所定時間外労働の命令を行う責任と権限が実質的にない場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となる。


「勤務態様」についての判断要素
 管理監督者は「現実の勤務態様も、労働時間の規制になじまないような立場にある者」であることから、「勤務態様」については、遅刻、早退等に関する取扱い、労働時間に関する裁量及び部下の勤務態様との相違により、次のように判断されるものであること。
(1) 遅刻、早退等に関する取扱い
 遅刻、早退等により減給の制裁、人事考課での負の評価など不利益な取扱いがされる場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となる。ただし、管理監督者であっても過重労働による健康障害防止や深夜業に対する割増賃金の支払の観点から労働時間の把握や管理が行われることから、これらの観点から労働時間の把握や管理を受けている場合については管理監督者性を否定する要素とはならない。
(2) 労働時間に関する裁量
 営業時間中は店舗に常駐しなければならない、あるいはアルバイト・パート等の人員が不足する場合にそれらの者の業務に自ら従事しなければならないなどにより長時間労働を余儀なくされている場合のように、実際には労働時間に関する裁量がほとんどないと認められる場合には、管理監督者性を否定する補強要素となる。
(3) 部下の勤務態様との相違
 管理監督者としての職務も行うが、会社から配布されたマニュアルに従った業務に従事しているなど労働時間の規制を受ける部下と同様の勤務態様が労働時間の大半を占めている場合には、管理監督者性を否定する補強要素となる。


「賃金等の待遇」についての判断要素
 管理監督者の判断に当たっては「一般労働者に比し優遇措置が講じられている」などの賃金等の待遇面に留意すべきものであるが、「賃金等の待遇」については、基本給、役職手当等の優遇措置、支払われた賃金の総額及び時間単価により、次のように判断されるものであること。
(1) 基本給、役職手当等の優遇措置
 基本給、役職手当等の優遇措置が、実際の労働時間数を勘案した場合に、割増賃金の規定が適用除外となることを考慮すると十分でなく、当該労働者の保護に欠けるおそれがあると認められるときは、管理監督者性を否定する補強要素となる。
(2) 支払われた賃金の総額
 一年間に支払われた賃金の総額が、勤続年数、業績、専門職種等の特別の事情がないにもかかわらず、他店舗を含めた当該企業の一般労働者の賃金総額と同程度以下である場合には、管理監督者性を否定する補強要素となる。
(3) 時間単価
 実態として長時間労働を余儀なくされた結果、時間単価に換算した賃金額において、店舗に所属するアルバイト・パート等の賃金額に満たない場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となる。特に、当該時間単価に換算した賃金額が最低賃金額に満たない場合は、管理監督者性を否定する極めて重要な要素となる。


 「職務内容、責任と権限」、「勤務態様」、「賃金等の待遇」という各判断要素は過去の通達で示されているものですので、今回はそれを更に具体化した内容になっています。全体としては1月の日本マクドナルド東京地裁判決に比べ、現場の実態に配慮した、ある意味、経営者よりの内容になっているだけに、今後、労働組合などからの反発は必至でしょう。またそもそも本通達は「多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲」を示しただけのものですので、今後、本格的な管理監督者議論が活性化していくものと予想されます。



関連blog記事
2008年5月26日「「名ばかり管理職」問題のその後」
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2008年2月8日「大手ハンバーガーチェーン店長の残業手当支払判決が与える影響」
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2007年12月7日「対応が遅れる労働時間の適正な把握と懸念される調査の増加」
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2007年10月31日「明日から賃金不払残業解消キャンペーンがスタート~今年は過重労働解消も目的に追加」
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2007年10月7日「平成18年度のサービス残業是正支払額は1,679社で227億円」
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参考リンク
厚生労働省「多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について(基発第0909001号 平成20年9月9日)」
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/09/h0909-2.html


(大津章敬)


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