[ワンポイント講座]昇給が遅れた際の平均賃金の計算方法

 大手企業の春闘回答は先週一段落しましたが、今年の交渉は昨年以降の経営環境の悪化を繁栄し、非常に難航した形となりました。また、生産調整により休業実施が長期化する企業も少なくないことから、今回のワンポイント講座では、昇給が遅れた際の平均賃金の計算について解説しましょう。


 組合等との賃上げ交渉が4月の昇給に間に合わず、4月に遡って昇給を実施する(昇給差額を直近の賃金支払日に精算する)という取扱いをすることがありますが、このようなケースで例えば4月に休業を行い、昇給額が決まっていない状況で社員に対して休業手当を支払うことになったとき、どのようにすればよいかが問題となります。


 平均賃金の取り扱いについて定めた労働基準法第12条は、「この法律で平均賃金とは、これを算定すべき事由の発生した日以前3箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいう。ただし、その金額は、次の各号の一によって計算した金額を下ってはならない」と規定しています。ここに出てくる「その労働者に対し支払われた賃金の総額」とは、実際に支払われた賃金だけでなく、支払われていないものであっても算定事由発生日において、すでに債権として確定している賃金をも含むものと解釈されています。その上で、平均賃金の算定期間中に賃金のベースが変更された場合の取扱いについては、通達(昭和22年11月5日 基発第233号)が出されており、その3ヶ月中における新旧ベースによって支払われた「賃金の合計額」が賃金の総額であるとされています。つまり、4月に遡って賃金額が昇給し、差額が7月に支払われたような場合には、その差額分は「賃金の総額」に含めなければならないということになります。


 しかし、先ほどの4月に休業を実施した例においては休業手当は昇給額が確定する前の4月の時点で計算し支払わなければならないものであり、また、そもそも平均賃金は「算定事由発生時において、労働者が現実に受け、または受け取ることが確定した賃金」によってこれを算定すべきもの(昭和23年8月2日 基収第2934号)とされています。よって、賃金額が遡及して改定されたとしても、今回のケースについては、昇給前の賃金額にもとづいて平均賃金を計算して問題ないということになります。


 なお、平均賃金の算定事由発生日が、遡って昇給が行われた後である場合には、「賃金の総額」にその差額分を含めて計算することになります。つまり、4月に遡って賃金額が昇給し、差額が7月に確定し昇給差額を清算する場合には、確定後に算定事由日がある場合には昇給差額を加味して平均賃金の算出を行うことになります。


[関連通達]
昭和23年8月11日 基収第2934号
一 災害補償においては、死傷の原因たる事故発生の日または診断によって疾病の発生が確定した日を基準として労働者がこうむった損失を補償するものでありかつその額はあくまで事故発生時において労働者が現実に受けまたは受けることが確定した賃金の範囲内で補償を行うべきであるから本年の場合差額追給は行わない。
二 前項の趣旨により現在賃金増額要求中であり、しかも協定が成立する見込みがある場合といえども、補償費の算出基礎となるべき平均賃金の計算は事由発生時において確定している賃金について行うものであるから請求が新賃金決定後においてなされると否とはなんら問題とするところではない。



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2009年1月21日「 [ワンポイント講座]採用内定者を自宅待機させた場合の休業手当はどのように計算すればよいのか」
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参考リンク
茨城労働局「会社都合による休業中は休業手当の支払が必要」
http://www.ibarakiroudoukyoku.go.jp/soumu/qa/chingin/chingin02.html


(福間みゆき)


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