[ワンポイント講座]採用内定者を自宅待機させた場合の休業手当はどのように計算すればよいのか

 世界規模の金融危機と景気減速の影響を受けた企業の業績の悪化により、新卒学生の採用内定が社会問題となっています。厚生労働省ではこうした問題に対応するため、一昨日の19日に採用内定を取り消した企業名の公表基準を定めた省令を公布しましたが、やはり安易に採用内定を行うことは極力避けるべきであり、今春については採用内定者を自宅待機させ採用日を遅らせるといった対応なども見られるのではないかと予想しています。そこで今回のワンポイント講座では、採用内定者を自宅待機させた場合の休業手当の計算方法について取り上げてみましょう。


 2008年12月3日のブログ記事「[ワンポイント講座]業績悪化を理由とする新卒の内定取消を行う際の留意点」でも述べたように、内定の法的取り扱いについては、会社が新卒学生に対して採用する旨の通知を行い、それに対して内定者が誓約書等を提出した時点で労働契約は成立すると考えられています。ただし、新卒学生については学校を卒業するという条件や入社日の到来という始期が付いていることから、最高裁は採用内定の法的性格について、就労の始期付解約権留保付労働契約が成立したものと判断しています(大日本印刷事件 昭和54年7月20日 最高裁二小判決)。また、採用内定に関する通達(昭和63年3月14日 基発第150号、婦発第47号)が出されており、「遅くとも、企業が採用内定通知を発し、学生から入社誓約書又はこれに類するものを受領した時点において、過去の慣行上、定期採用の新規学卒者の入社時期が一定の時期に固定していない場合等の例外的場合を除いて、一般には、当該企業の例年の入社時期を就労の始期をし、一定の事由による解約権の留保した労働契約が成立したとみられる場合が多い」としれています。これらのことから、新卒社員を入社日である4月1日移行に会社都合によって自宅待機をさせる場合については、一般の従業員同様、労働基準法第26条に基づく休業手当を支払う必要があります。ここで問題となるのが、その休業手当の算定方法です。


 今回の場合、新規学卒者には実際に賃金を支払っていないため、労働基準法第12条第1項から第6項によって支払うべき平均賃金を算定することができません。このような場合における平均賃金については、労働基準法施行規則第4条により労働基準局長がこれを決定することとされていますが、自宅待機の開始日を労働基準法施行規則第4条の「雇入れ日」に該当するものとして取り扱います。そして、具体的な計算方法については、通達(昭和22年9月13日 発基第17号)が出されており、「当該労働者に対し一定額の賃金が予め定められている場合には、その額により推算し、しからざる場合には、その日に当該事業場において、同一の業務に従事した労働者の一人平均賃金額による推算」して平均賃金を求めることになります。つまり、具体的に賃金額が明確になっている場合については、その額基づいて平均賃金額を計算することになります。


 なお、この取扱いは、雇入れの日に自宅待機させる場合に限定されることに注意が必要です。例えば雇入れ後2,3日しか過ぎていないケースで休業させる場合は、労働基準法第12条第6項に定める方法で平均賃金を計算することになり(昭和23年4月22日 基収第1065号)、休業する時点によって平均賃金額が変わることになります。


[関連法規]
労働基準法 第12条
 この法律で平均賃金とは、これを算定すべき事由の発生した日以前3箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいう。ただし、その金額は、次の各号の一によって計算した金額を下つてはならない。
1.賃金が、労働した日若しくは時間によって算定され、又は出来高払制その他の請負制によって定められた場合においては、賃金の総額をその期間中に労働した日数で除した金額の100分の60
2.賃金の一部が、月、週その他一定の期間によって定められた場合においては、その部分の総額をその期間の総日数で除した金額と前号の金額の合算額
2 前項の期間は、賃金締切日がある場合においては、直前の賃金締切日から起算する。3 前2項に規定する期間中に、次の各号の一に該当する期間がある場合においては、その日数及びその期間中の賃金は、前2項の期間及び賃金の総額から控除する。
1.業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業した期間
2.産前産後の女性が第65条の規定によって休業した期間
3.使用者の責めに帰すべき事由によって休業した期間
4.育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成3年法律第76号)第2条第1号に規定する育児休業又は同条第2号に規定する介護休業(同法第61条第3項(同条第6項及び第7項において準用する場合を含む。)に規定する介護をするための休業を含む。第39条第7項において同じ。)をした期間
5.試みの使用期間
4 第1項の賃金の総額には、臨時に支払われた賃金及び3箇月を超える期間ごとに支払われる賃金並びに通貨以外のもので支払われた賃金で一定の範囲に属しないものは算入しない。
5 賃金が通貨以外のもので支払われる場合、第1項の賃金の総額に算入すべきものの範囲及び評価に関し必要な事項は、厚生労働省令で定める。
6 雇入後3箇月に満たない者については、第1項の期間は、雇入後の期間とする。
7 日日雇い入れられる者については、その従事する事業又は職業について、厚生労働大臣の定める金額を平均賃金とする。
8 第1項乃至第6項によって算定し得ない場合の平均賃金は、厚生労働大臣の定めるところによる


労働基準法 第26条(休業手当)
 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない。


労働基準法施行規則 第4条
 法第十二条第三項第一号 から第四号 までの期間が平均賃金を算定すべき事由の発生した日以前三箇月以上にわたる場合又は雇入れの日に平均賃金を算定すべき事由の発生した場合の平均賃金は、都道府県労働局長の定めるところによる。



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参考リンク
厚生労働省「新規学校卒業者の採用内定取消しへの対応について」
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/11/h1128-2.html


(福間みゆき)


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