[ワンポイント講座]年俸制適用者の割増賃金を計算する際の賞与の取扱い

 今回のワンポイント講座では、2009年10月4日のブログ記事「年俸額に時間外手当を含める場合の注意点」に関連して、年俸制適用者に係る割増賃金を計算するにあたっての賞与の取扱いについて取り上げます。


 そもそも割増賃金を計算する際の算定基礎となる賃金について、労働基準法第37条および労働基準法施行規則第21条では、以下の賃金は算入しないと規定されています。
家族手当
通勤手当
別居手当
子女教育手当
臨時に支払われた賃金
一箇月を超える期間ごとに支払われる賃金


 年俸制適用者についてここで問題になるのが、賞与が上記除外賃金である一箇月を超える期間ごとに支払われる賃金に該当するか否かです。通達によると、「賞与」とは、支給額があらかじめ確定されていないものをいい、支給額が確定しているものは「賞与」とみなさないとしています。したがって、年俸制で毎月支払われる部分と賞与として支払われる部分を合計してあらかじめ年俸額が確定している場合の賞与部分については、この除外賃金には該当せず、割増賃金を計算する際の基礎に算入する必要があるとされています。具体例を挙げてみましょう。年俸額が600万円で基本給450万円(年俸の1/16を毎月)、賞与150万円(年俸の2/16ずつ年2回)と、あらかじめ支給額が確定しているケースを想定してみます。この場合、年俸額を16分割して毎月支払われる賃金を計算すると375,000円になります。一方、割増賃金を計算する際の算定基礎となる賃金は、この375,000円ではなく、年俸額を12分割した500,000円となるのです。


 なお、上記の例で賞与150万円の支給を予定はするが、会社や個人の業績に応じて変動することがあるという契約の場合、支給額があらかじめ確定していないことになります。この場合には賞与は割増賃金の基礎額から除外され、その算定基礎となる賃金は375,000円となります。このように、年俸制適用者の割増賃金を計算する際には、支給額があらかじめ確定されているかがポイントになるため、それぞれの契約を確認することが求められます。


[関連法規]
労働基準法 第37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
 使用者が、第33条又は前条第1項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働 については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の2割5分以上5割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
2 前項の政令は、労働者の福祉、時間外又は休日の労働の動向その他の事情を考慮して定めるものとする。
3 使用者が、午後10時から午前5時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域又は期間については午後11時から午前6時まで)の間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の2割5分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
4 第1項及び前項の割増賃金の基礎となる賃金には、家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は算入しない。


労働基準法施行規則 第21条
 法第三十七条第四項 の規定によって、家族手当及び通勤手当のほか、次に掲げる賃金は、同条第一項 及び第三項 の割増賃金の基礎となる賃金には算入しない。
一  別居手当
二  子女教育手当
三  住宅手当
四  臨時に支払われた賃金
五  一箇月を超える期間ごとに支払われる賃金


[関連通達]
昭和22年9月13日発基17号
 定期又は臨時に、原則として労働者の勤務成績に応じて支給されるものであって、その支給額が予め確定されていないものをいうこと。定期的に支給されかつその支給額が確定しているものは、名称の如何にかかわらず、これを賞与とみなさないこと



関連blog記事
2009年10月9日「[改正労基法]割増賃金率引上げに伴う労働条件通知書見直しの必要性」
https://roumu.com
/archives/51633798.html

2009年10月4日「[ワンポイント講座]年俸額に時間外手当を含める場合の注意点」
https://roumu.com
/archives/51630464.html


(佐藤浩子)


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