飲食店店長労務管理超基礎【第3回】飲食店店長ならば、年次有給休暇制度の内容を理解する

 飲食店といえば、一般的に人員が常に不足気味で、年次有給休暇(以下「年休」)が取れないということが実情ではないでしょうか。しかし従業員の権利意識が高まる中、忙しい時季に年休の申請をしてきたり、もしくは退職時にすべての年休を消化して辞めていくといったケースが増えてきています。今後、こうしたトラブルが増加することは確実な情勢にありますので、今回は年次有給休暇制度の基本についてお伝えします。


 年休を理解するために押さえておくべきポイントは年休の付与要件、時季指定権、そして時季変更権の3つがあります。
年次有給休暇の付与要件を理解する
 年休の付与要件は以下の2つとなっています。
(1)労働者が雇い入れられた日から起算して6ヶ月以上、その後は1年以上継続勤務したこと
(2)最初は前6ヶ月、その後は前1年間において全労働日(所定労働日)の8割以上出勤したこと


 ここでいう労働者には、正規の従業員(いわゆる社員)のほか、パートタイマーやアルバイトなどの労働者も含みます。時々「アルバイトだから年休を与えなくてもよいのでは?」という店長もいらっしゃいますが、雇用形態は一切関係ありません。


 さて、パート・アルバイトにも年休を付与する必要がありますが、正社員と同じ日数の年休を与えなければならないわけではありません。与える年休の日数は、勤務しなければならない日数、いわゆる所定労働日数によって下記のように決まっています。
年休


 なお、パートやアルバイトの場合、社員同様8時間の年休を付与するということではありません。1日の所定労働時間が4時間であれば、4時間の年休を与えればよいことになりますので、パート・アルバイトに与える年休は、日数も時間も正社員に比べ負担は少ないのです。なお、与える年休の日数は年休付与日時点での所定労働日数によってが決まりますので、ご注意ください。


時季指定権を理解する
 年休は、継続勤務と8割以上の出勤を条件に法律上当然に労働者に与えられる権利ですが、使用者は年休を労働者の請求する時季に与えなければならないとされています。これを労働者の時季指定権といいます。この年休の時季指定については、労働者による請求や使用者による承認などといった手続きをいれる余地はなく、労働者が「この日に年次有給休暇をとりたい」と時季を指定すれば当然に取得することができてしまうというものです。よく労働者に申請書を書かせて上司が承認するという手続きがありますが、年休は原則として申請や承認を要しない、労働者に法律上与えられる当然の権利であることは、理解しておく必要があるでしょう。


時季変更権を理解する
 しかし、労働者の時季指定権を無制限に認めてしまうと、店舗の運営に重大な支障を来たす恐れがあります。そこで事業主は、請求された時季に年休を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季に与えることができるとされています。これを使用者の時季変更権といいます。ただし、恒常的に人員不足である部署において、代替要員を確保することが困難である場合については、「事業の正常な運営を妨げる場合にはあたらない」(西日本ジェイアールバス事件 金沢地裁 平成8年4月18日判決)とした裁判例もあるため、単に人員が不足していることを理由に時季を変更させることは難しく、例えば事業場で同時に複数の従業員が年休を請求した場合のみ時季変更権が使えると理解しておくとよいと思います。


 なお、退職時に退職願と一緒に有給を請求してきた場合には、店長はこれを拒否することはできません。「年休の権利が労基法に基づくものである限り、その労働者の解雇予定日を超えての時季変更権行使は行えない」(昭和49年1月11日 基収5554)という通達があり、これは自己都合退職の場合も同様であると解されています。冒頭のケースのように退職時に、退職日まで年休を使いたいといわれてしまえば、その時季を変更するよう命令することはできないのです。よって具体的な対策としては本人との話し合いを通じて、退職日を調整するといった対応を取ることが通常です。


 年次有給休暇は慢性的な人員不足を抱える多くの飲食店にとっては悩みの種ではないかと思いますが、労働基準法上は雇用形態に関わらず付与されるものであるという認識を持ち、シフトを工夫するといった具体的な対応が求められています。



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(中島敏雄)


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