精神障害にかかる労災支給決定件数 前年比1.3倍の308件と急増 意外と低い長時間労働との相関関係

精神障害にかかる労災支給決定件数 過重労働による脳・心臓疾患やメンタルヘルス不全の問題が深刻化していますが、厚生労働省は先日、平成22年度の「脳・心臓疾患および精神障害などの労災補償状況」を取りまとめ、公表しました。本日はその中から、精神障害などに関する事案の状況について取り上げることとしましょう。

 今回の発表のポイントをまとめると以下のとおりとなりますが、労災補償の請求件数、支給決定件数共に過去最高を記録しています。中でも支給決定件数の伸びは平成21年度の234件から308件へと1.3倍もの大幅な伸びを見せています。

  • 労災補償の「請求件数」は1,181件(同45件の増)となり、2年連続で過去最高。
  • 労災補償の「支給決定件数」は308件(同74件の増)で過去最高。
  • 業種別では、請求件数、支給決定件数ともに、「製造業」(207件、50件)、「卸売・小売業」(198件、46件)、「医療、福祉」(170件、41件)の順に多い。
  • 職種別では、請求件数は「事務従事者」(329件)、「専門的・技術的職業従事者」(273件)、「販売従事者」(148件)の順で多く、支給決定件数は「専門的・技術的職業従事者」(73件)、「事務従事者」(61件)、「販売従事者」(44件)の順に多い。
  • 年齢別では、請求件数、支給決定件数ともに「30~39歳」(390件、88件)、「40~49歳」(326件、76件)、「20~29歳」(225件、74件)の順に多い。

 このように30代、40代の働き盛り世代がメンタルヘルス不全で倒れていっている現状を見ることができます。なお、こうした問題が発生した際、労務管理者としてはまずは過重労働の有無を確認するのではないかと思われますが、この支給決定の事案を1ヶ月平均の時間外労働時間数でグラフ化したものが左上の図表(画像はクリックして拡大)となります。これを見ると、平成22年度の308件のうち、80時間以上の時間外労働の状態にあったのは全体の4割の127件に止まっており、長時間労働と同等かそれ以上に職場内での人間関係を初めとした心理的負荷が極度であると認められる事案が多いことが分かります。

 社員の健康管理を進めるためには長時間労働の防止も当然必要ですが、それだけでなく社内におけるハラスメントやいじめの防止、そして風通しの良いコミュニケーションの確保などの対策を進めて行きたいものです。なお、この統計では他にも注目すべきポイントがありますので、改めて詳細について取り上げたいと思います。


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参考リンク
厚生労働省「平成22年度 脳・心臓疾患および精神障害などの労災補償状況まとめ」
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001f1k7.html

(大津章敬)

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