[医療福祉労務管理連載(3)]労働契約法とはどのような法律か?

医療福祉労務管理連載 医療機関・福祉施設においては、人材確保難を背景に多様な働き方を受け入れるためにパートタイマー等の有期雇用契約者が多く見られますが、有期雇用契約の適切な管理を行うためには、関係法令の内容を十分に把握し、そのルールに沿った運用をすることが必要となります。有期雇用契約に関わりが深い法律として挙げられるのが、平成20年に施行された労働契約法ですが、近年、有期雇用契約に関する事項の法改正が相次ぎました。今回はその労働契約法が制定された背景と、その内容を中心に解説します。
なぜ労働契約法が制定されたのか
 定年までの終身雇用が一般的だった時代から、有期雇用契約の就業形態が広まるにつれて、契約打切り等による労働トラブルが増加してきました。事業主が守るべき労働条件の最低基準については労働基準法で規定されてはいましたが、個別の労働トラブルを予防、解決するための体系的な法律は存在していませんでした。このため長らくの間、解雇等をめぐり労働トラブルが生じた場合には、過去の裁判例における判断基準が頼りにされてきましたが、一般の事業主や職員にとっては判りにくいものでした。こうした中、個別の労働トラブルを解決する手段として、平成13年から個別労働関係紛争解決制度が、平成18年からは労働審判制度が始まるなど、トラブル発生後の対応面の制度整備が進むと同時に、そもそもトラブル発生を予防するため、労働契約に関するルール整備の必要性が高まり、労働契約法が制定されることとなりました。
労働契約法の内容
 労働契約法は、条文数がたった22条と短い法律です。しかし、労働契約の基本的原則や過去の判例に沿った契約内容の決定・変更に関する非常に重要なルールがまとめられたものとなっています。主な内容は以下のとおりです。
①労働契約の基本ルール
 労使は対等であるという原則のもと、労働契約の締結やその変更は、事業主と職員の双方が合意することによって成立することが定められています。また、事業主が就業規則の内容を変更する場合において、一方的に労働条件を不利益に変更することはできないことが明確化されています。
②判例による判断基準の明文化
 懲戒や解雇等を行うにあたっては、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合」は、その権利を濫用したものとして無効となるという、これまでの裁判での判例基準が条文として明確にされています。解雇や懲戒処分は、職員にとって影響が大きいもののため、事業主としては、職員の配置転換や再教育等の選択肢を最大限考慮したけれども、解雇等を選択せざるを得なかったことを説明できるようにしておかなければなりません。
③有期雇用契約に関する定め
 有期雇用契約については、契約期間中の解雇はやむを得ない場合に限られるとともに、契約期間を必要以上に短くして更新を繰り返すことは避けるよう配慮が必要であるとされています。また、賃金や労働時間をはじめ、研修の機会や福利厚生等を含めた労働条件について、有期雇用契約であることのみを理由として異なる取り扱いをすることは、基本的に認められていません。差異を設ける場合には、無期雇用契約者と比べ、職務内容や人材活用の仕方が異なり、それに基づく合理的な差異であるかを考慮した上で労働条件を決定しなければなりません。
④雇止めルールと5年ルール
 雇用契約が反復継続されており、無期雇用と同様であるような実態がある場合には、期間満了による雇止めが認められないことがあります。また、平成25年4月1日以後に開始した有期雇用の契約期間が通算5年を超える時点で、職員から無期雇用契約への転換の申込みがあったときは、無期雇用契約に転換させなければならないこととされています(一部例外あり)。
改めて求められる法令遵守
 労働契約法には、労働基準法にあるような労働基準監督官による監督指導や罰則の定めはありません。労働契約法は民法の特別法としての位置付けのため、罰則によって法律の遵守を求めるという発想ではなく、労使双方が契約上のルール基づいて行動することが期待されています。このため、職員との間で契約内容をめぐりトラブルが発生したときは、あくまで当事者間で自主的に解決を図ることが求められますが、いったんトラブルが発生すれば少なからず本来の業務にも影響を及ぼすとともに、場合によっては訴訟にまで発展してしまい、解決までに膨大な時間と労力がかかってしまうことも想定されます。医療機関・福祉施設としてこうした事態になることを避けるためにも、改めて上記の労働契約法の内容を確認し、それを踏まえた上で雇用管理を行っていくことが求められます。


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2014年4月12日「[医療福祉労務管理連載(2)]有期雇用契約を結ぶ際の注意点」
https://roumu.com
/archives/52030644.html

2014年3月21日「[医療福祉労務管理連載(1)]医療機関・福祉施設における有期雇用契約の現状と抱える課題」
https://roumu.com
/archives/52030275.html

(小堀賢司

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