高年齢社員の雇用継続を考える際に注意すべきことは何でしょうか?

 今回も前回に引き続き、服部印刷での高年齢者の雇用継続制度についての打ち合わせ。対象となる者が今年の秋にはじめて出るということで、服部社長も宮田部長もかなり慎重になっていることが分かった。



宮田部長:
 高年齢者の雇用継続制度での給与の考え方はこれまでの説明でわかりました。高年齢者の雇用継続を行う上で、その他注意すべきことはありますか?
大熊社労士大熊社労士:
 はい。これは一般論になりますが60歳以降の方は、能力や体力に大きな個人差があるといわれています。能力面では60歳までに培われてきた経験の差が大きく反映されることはお分かりのことと思いますが、体力面では無理をすると疲れやすい、疲れが取れないなどを訴える回数が次第に増えてくる方もいます。また、視力についての個人差は非常に大きいともいわれています。さらに、一見健康そうであっても次第に慢性的な疾患を持つようになってきますので、健康管理には十分注意が必要です。
服部社長:
 そうだなぁ。60歳台の知り合いでも、若者以上に元気な人がいる一方、ほんの数年の間に衰えてきて、それまでがっちりした体格だったのに体重が急に落ちて足腰の筋肉がそぎ落とされたように痩せてしまった人もいるねぇ。
大熊社労士:
 定年時点では、それまでと変わりなくても60歳以降は特に体力や健康に注意をしておくことが必要でしょう。また、これらを考慮して、新たな勤務シフトを作ることも工夫の一つでしょう。
宮田部長:
 例えば、勤務時間を短くするといったことでしょうか?
大熊社労士:
 そうです。8時間勤務のフルタイムよりも勤務時間を短くするというシフトです。または勤務日数を少なくすることや、フレックスタイム制の導入なども考えられますが、新たな勤務シフトについては、他の社員さんとのバランスを考えながら設計する必要があります。再雇用とはいえ会社の生産性に影響を与え、風土を壊すような好き勝手な働き方をしてもらっては困ります。また、設備面で安全対策をより講じるということも必要かもしれません。
服部社長服部社長:
 そうですね。ところで、わが社の雇用継続の対象者を見ると、この前お話しましたように当分は役職者が続きます。それらの者はみな元気で優秀な社員なのですが、全員が雇用継続を希望した場合にどのような職務で働かせたら良いでしょうか、実は賃金の決め方よりも、そのあたりが気になっているのです。
大熊社労士:
 そうですね。実際に多くの企業でお話をお聞きしていると、「高年齢者の担当する仕事を自社内に確保するのが難しい」であるとか、「管理職社員の扱いが難しい」という課題が浮かび上がってきます。いま社長が気になっているとおっしゃったこと、そのものですね。この点については十分検討する必要があるでしょう。今年は寺田部長お一人ですが、やはり今後のことを考えておくべきで、中期的にどのような役割を担ってもらうかを検討しておくことは必要不可欠でしょう。また管理職社員の扱いに苦労するという点ですが、それまで上司であった社員を、定年を超えたからといってすぐに部下として扱うのは現実的に難しいですし、部下として扱われる高年齢の方も抵抗感があるでしょう。特に、上司と部下との関係がよくない場合にはトラブルになる可能性もありますので、人事担当者はそのあたりのことに配慮しておく必要があります。管理職であった者を雇用継続で再雇用する場合、まずは「職務や職場を変える」ことを考えますが、現実的に中小企業では難しいですね。ですから、現実的には「新たな仕事や役割を創設する」こと、もしくは「担当すべき仕事と目的を明確にする(社員の業務フォローや技能継承、教育など)」ことが必要です。
服部社長:
 そうですね。についてはいいかも知れません。当社の業務はここ10年で大きな技術革新が進んでいますが、そうはいっても暗黙知の部分を中心に、まだまだ若手に引き継がなければならない技術や能力がたくさんあります。ベテラン社員には当社の継続的な発展のためにも、そうしたノウハウを積極的に引き継いでもらわなければなりません。
大熊社労士:
 それでは次に、賞与はどのように考えていますか?
宮田部長宮田部長:
 賞与ですか?これは考えていませんでしたね。一般の社員と同じように扱うものと思っていましたので、大熊先生に質問されるまで意識していませんでした。
大熊社労士:
 一般社員と別にしなければならないということではありません。再雇用ということを考えれば、一般社員より低い率で支給したり、一律定額を支給することは可能ですし、また支給しない会社もあるなど取り扱いは様々です。どのような扱いにするのかは会社独自で設定できますが、高年齢者のモチベーションには配慮したいところです。もちろん、一般社員と同様の計算方法で支給するということも問題はありません。ただし1点注意をしておいて欲しいことがあります。それは、賞与が年金額に反映されることです。
宮田部長:
 月給だけではないのですか?
大熊社労士:
 はい、平成15年4月から賞与にも厚生年金保険料がかけられたことはご存知のことと思います。この総報酬制が導入されたことで、働きながらもらう年金にも影響してきています。具体的には過去1年間の賞与総額によってもらえる年金額が調整され、変わってくるのです。この点が非常に分かりにくくなっており、支給されると思っていた年金額が支給されない、または減額されるというトラブルになることもあります。
宮田部長:
 年金額を一人ひとり考えながら支給することは、難しいで
すね。
大熊社労士:
 この点は、再雇用の契約時によく説明しておくことが必要でしょう。特に60歳から61歳までの間は、定年前1年間の賞与総額が反映されることになりますので、年金額が少なかったり、支給されなかったりする可能性があります。ただ正確な年金額を知るためには、年金相談センターや社会保険事務所で詳しく調べてもらう必要がありますので、対象者の方にはそのように説明しておくとよいでしょう。
服部社長:
 大熊さん、いろいろ教えていただきありがとうございました。わが社でももう一度、定年後の雇用継続について現場の意見も含めて再度検討してみたいと思います。


>>>to be continued


[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス こんにちは、大熊です。前回に引き続き「高年齢者の雇用継続制度」について取り上げ、60歳以降の高年齢者を継続して雇用するときの注意点をみてみました。上記以外に退職金についても注意を払っておく必要があります。基本的には再雇用で60歳以降の勤務に対して退職金を支給しないのが一般的でしょう。そのためには再雇用就業規則や雇用契約書、退職金規程などで明確に規定しておくことが必要です。いろいろ注意点をあげてみましたが、そもそも高年齢者に働いてもらうための目的は何か?また高年齢者を受け入れるために許容できる範囲はどの程度かを第一に考えるべきでしょう。単に人件費を抑えられるからとか、他社が制度を取り入れているからという考えでは、生産性の向上には繋がりません。高年齢者は、高い技能・技術や豊富な知識を持っていますので、人材確保が難しくなってきている昨今、高年齢者の活用は経営上非常に重要なポイントとなりますので、モチベーションを高く持って生産性に寄与してもらうための雇用のあり方を独自で検討されることが必要でしょう。



関連blog記事
2007年7月23日高年齢者を再雇用する際の処遇は、どう考えればいいの?
https://roumu.com/archives/64576722.html
2007年7月16日「わが社の「高年齢者継続雇用制度」はこれで良いのでしょうか?」
https://roumu.com/archives/64567296.html
2007年7月16日「多様な労働力を活用するダイバーシティマネジメントで組織を活性化」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51021392.html
2006年12月25日「継続雇用制度における選定基準等に関する協定書」
http://blog.livedoor.jp/shanaikitei/archives/51220945.html
2006年9月11日「改正高年齢法への対応は67.2%の企業が継続雇用制度を選択」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/50717803.html


参考リンク
厚生労働省「改正高齢法に基づく高年齢者雇用確保措置の実施状況について」
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2006/10/h1013-3.html
厚生労働省「高年齢者雇用対策」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/koureisha.html


(鷹取敏昭)


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