地震で被災した社員が出た場合、どう対応すればいいの?

 前回、結婚のときに与える特別休暇の件で悩まされた大熊社労士だったが、更に話は広がり、地震被害を受けたときの対応についても検討することになった。



宮田部長宮田部長:
 先日、新潟・中越沖地震が発生しましたが、その被害を受けた知人がいるのです。家屋は一部損壊し、ケガをした家族もいたらしいのです。幸いにも被害はさほど大きくなく、ケガの程度も軽かったので良かったのですが、それでも家の片付けやケガをした家族を病院へ送り迎えしたりすることで3日間程度は会社を休んだということを聞きました。
服部社長:
 この中部地区は以前より東南海地震がいつ起きても不思議ではないと言われているので、本格的な震災対策に取り組まなければならないと考えていますが、本音のところなかなか検討が進んでいないのが実情なのです。宮田部長の知人の話のように、もし万一社員の自宅が地震で被害を受けた場合、休暇の取り扱いなど、どのように対応したら良いのでしょうか?
大熊社労士:
 先週末から千葉で比較的大きな地震が連続していますが、最近は全国各地で地震が発生していますから非常に不気味ですね。震災対策についてはその必要性は叫ばれているものの、本格的に取り組まれている会社は少ないのが現状です。防災規程やマニュアルさえないところも多いですし、あったとしても作っただけで訓練などは殆どしていない会社がたくさんあります。御社でもこれを機会に本格的に取り組まれるのが良いと思います。さて、ご質問の地震被害を受けた社員の休暇についてですが、就業規則の特別休暇の条文で、「天災事変のためのやむをえないとき:会社が必要と認めた暦日数」という規定が設けられていますので、まずはこれを用いればよいでしょう。
宮田部長:
 会社が必要と認めた日数は、一般的にはどの程度ですか?また、どのように決定していけばよいでしょうか?
大熊社労士:
 事情が事情だけに、予め日数を決めておくということもできませんので判断が難しいでしょうね。この判断をするためには、まず被害を受けたということとその程度を確認する必要があるでしょう。可能であれば総務関係の社員をお見舞いも兼ねて現地へ行かせ確認できれば判断しやすくなるでしょう。なお、特別休暇を与える場合、土日を含めて最長1週間程度の休暇を付与しているケースが多いようです。
宮田部長:
 被害を受けた社員が数名なら良いのですが、多数の社員が被害を受けた場合に現地へ確認に行くという対応は難しいと思います。そのときはどのようにすればよいでしょうか。
大熊社労士:
 まずは社員の安否確認と家族や自宅の被害状況を確認します。ただ、電話が繋がらない可能性もありますので、そのときの判断基準を事前に決めておくことも必要です。そして電話が使えるようになった時点においても出勤できない状況であれば、その後逐次状況を報告させ出勤したときに特別休暇の事後処理をすればよいでしょう。
服部社長:
 阪神淡路大震災のニュースで記憶にあるのですが、自宅に被害がなくても交通機関や道路に亀裂が入るなどで通行できず出社できない社員も出てくるとは思いますが、この場合はどうしたらよいでしょうか?
大熊社労士大熊社労士:
 このときも「天災事変のためやむを得ない」事由として取り扱えばよいでしょう。特に地震直後に無理して通勤させると、その途中でケガや事故にあったりする危険性が高くなり、被害を大きくさせることに繋がります。状況が落ち着いて、ある程度安全が確認された後に、安全なルートを示して出勤させるのが望ましいでしょう。しかし、そもそもそのような状況では会社自体操業を続けられるかどうかは怪しいでしょうね。被害の程度にもよりますが、社員の多くが出勤できないほどの状況であったり、建物や設備に影響があると当分の間、休業しなければならないということも考えざるをえないでしょう。
服部社長:
 わが社の建物も古くなってきたので大きな地震に耐えられるかどうか不安です。ところで、会社が地震で大被害を受けて休業せざるを得なくなった場合、その間の給与はどのようにすればよいのでしょうか?
大熊社労士:
 労働基準法の第26条に休業手当を支払わなければならない条件を規定していますが、天災事変など不可抗力によって休業せざるを得なくなった場合は、賃金の支払義務は免れます。その要件としては、原因が事業の外部より発生した事故であること、事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてなお避けることができなかった事故であること、が必要です。
服部社長服部社長:
 もし万一そのような事態になったとしても、社員を家族同様に考えろと先代社長からいわれてきたので、できるだけのことはしてあげたいと思っています。それにしても地震で被害を受けたときには、いろいろ考えないといけないのですね。それでなくても大混乱するでしょうから、事前の対策が必要なことがよく分かりました。
大熊社労士:
 防災対策はやろうと思えばキリがないほどたくさんありますが、とにかくできるところから検討を始め、訓練を繰り返すことが大切です。
服部社長:
 地震やその他の災害で特別休暇を利用することがないようにしたいのは言うまでもありませんが、わが社でも防災について宮田部長を筆頭に本格的に対策を考えてもらうことにします。ありがとうございました。


>>>to be continued


[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス こんにちは、大熊です。前回に引き続き「特別休暇」について取り上げましたが、今回は災害時の取扱いについて検討してみました。ある調査では、被災した社員の休業を認める何らかの制度がある企業は約7割という結果が出ています。内容としては、特別休暇制度や年休、また時効で権利を失う年休を積み立てておき被災時に利用する制度などの活用となっています。なお、被災した際の休暇日数を決めている企業は1割程度にしか過ぎず、日数を決めていない8割の企業の殆どは「必要日数」とし、本人が利用できる年休等の範囲内としています。給与については、年休等の扱いも含めると約7割の企業が実質的に全額を保証するとしています。


 地震対策については中小企業では十分な対策がされていないことが通常です。内閣府や中小企業庁では企業防災の考え方としてBCPの導入を勧めています。ぜひ参考にして、防災対策のレベルアップを図ってください。


[関連条文]
労働基準法第26条(休業手当)
 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない。



関連blog記事
2007年8月13日「挙式をしない社員の特別休暇はどのように与えればよいの?」
https://roumu.com/archives/64601650.html
2007年8月6日「配偶者の兄弟姉妹が亡くなったときの特別休暇はどのようにすればよいの?」
https://roumu.com/archives/64597536.html
2007年6月1日「慶弔見舞金規程」
http://blog.livedoor.jp/shanaikitei/archives/54367891.html
2007年1月20日「休暇(欠勤)届」
http://blog.livedoor.jp/shanaikitei/archives/51723593.html


参考リンク
名南経営セミナー「我が社の防災基礎対策(2007年09月07日開催)」
https://www.meinan.net/seminar/seminar_20070907risk.html
内閣府「企業防災のページ」
http://www.udri.net/portal/kigyoubousai/kigyoubousai.htm
内閣府「防災情報のページ」
http://www.bousai.go.jp/
新潟労働局「疑問?質問??Q&A~中越地震関連」
http://www.niigata-roudoukyoku.go.jp/kyoutuu/niigatakencyuetujisin/20041118jisingimonsitumon.pdf
中小企業庁「中小企業BCP策定運用指針」
http://www.chusho.meti.go.jp/bcp/index.html
労務行政研究所「慶弔休暇の日数に休日を含めて定めることは、法令上可能か」
http://www.rosei.or.jp/service/faq/faq0/faq0403_04.html


(鷹取敏昭)


当社ホームページ「労務ドットコム」および「労務ドットコムの名南経営による人事労務管理最新情報」「Wordで使える!就業規則・労務管理書式Blog」にもアクセスをお待ちしています。