出産に関する健康保険の給付について教えてください
産前産後の基本的な知識を改めて勉強している宮田部長。経理出身のため人事労務については知らないところが多くて当然といえば当然だが、何事にも基本を身に付けようとする心掛けには頭が下がる思いで面談している大熊であった。
宮田部長:
産前産後の休業のことは理解できました。休業以外に気をつけなければならないことといえば、健康保険の給付があると思いますが、出産……、なんという名称でしたかねぇ?
大熊社労士:
「出産育児一時金」と「出産手当金」です。まず「出産育児一時金」は出産に対しての給付で、胎児が生きて産まれてきたときはもちろん、死産、流産、人工流産、早産を問わず、一児に対して35万円が支給されます。ちなみに双子の場合は70万円、五つ子の場合は、なんと175万円(35万円×5児)にもなります。この「出産育児一時金」については、被保険者だけではなく被扶養者が出産したときにも支給されます。
宮田部長:
社員が扶養する奥さんが対象ということですね。
大熊社労士:
はい。それ以外でも被扶養者が出産したときにも支給されます。
宮田部長:
理解ができないのですが、どういうことでしょう?
大熊社労士:
親の被扶養者である子(娘)が出産した場合などです。例えば、若くして妊娠したが結婚せず、親に扶養されている状態のままで出産するケースをイメージしてもらえればわかりやすいでしょう。または、結婚していたが出産前に夫を亡くしてしまい、親の扶養家族に入った場合なども該当します。
宮田部長:
最近よく耳にするシングルマザーで、まだ経済的に独立していない娘さんのことですね。こういうことも考えないといけない時代になったわけですね。
大熊社労士:
この「出産育児一時金」は退職後、資格を喪失する日の前日までに継続して1年以上被保険者であった人が、資格喪失の日後6か月以内に出産をしたときに受給できます。ただし、これは被保険者のみが対象となります。
宮田部長:
なるほど、出産前に退職する場合での要件を満たせば受給できるというわけですね。
大熊社労士:
もう一つ「出産手当金」についてご説明しましょう。この手当金は被保険者が出産のため、産前および産後の期間で休んだ日に対し、標準報酬日額の3分の2の額が支給されるというものです。
宮田部長:
これは標準報酬の6割だと記憶しているのですが、違うのでしょうか?
大熊社労士:
平成19年4月から3分の2に替わり、60%から約66.7%へと若干ではありますが引き上げられました。支給日数は予定日にちょうど出産があれば、産前42日+産後56日の計98日間支給を受けることができます。予定日より出産が遅れれば実際の出産日との間の分についても支給され、反対に予定日よりも早まれば支給日数が少なくなります。
宮田部長:
そうですか、これも少子化対策の一つでしょうね。出産に関してはいろいろな対策が講じられており、手厚くなっているのですね。
大熊社労士:
出産・育児に関する対策は手厚くなってきていますが、この「出産手当金」では一部給付が廃止されましたので注意してください。それは退職後の給付に関することです。先ほど説明した「出産育児一時金」では資格喪失後6か月以内に出産をすれば支給を受けられました。「出産手当金」も以前は同様の扱いでしたが、この扱いが平成19年4月から廃止になっています。また、退職して任意継続被保険者になった方への出産手当金の支給も廃止されました。
宮田部長:
「出産手当金」に関しては、退職後の給付はまったく受けられないということですね。
大熊社労士:
いえ、次の場合には退職後であっても受給できることができます。その条件とは、継続して1年以上被保険者があり、産前休業に入った日後に退職日を迎え、退職日までに既に休業している場合は、産前産後の期間の「出産手当金」は通常どおり支給を受けることができます。具体例をあげて説明しましょう。
8月20日…産前休業開始
8月31日…退職日
9月30日…出産予定日
宮田部長:
この点はなかなか理解するのはたいへんですね。実務担当者の福島さんにも私から説明しておきます。
>>>to be continued
[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
こんにちは、大熊です。前回に引き続き産前産後休業に関することについて取り上げてみました。今回は、出産および産前産後における健康保険からの給付についてお話しました。申請手続が漏れると、もらえるべきものがもらえないということになり社員さんにとっては損をすることになります。現場にいる社員さんには保険給付の細かい点は覚えきれないところがありますから、会社側でできるだけフォローをしてあげましょう。そのためには、保険手続や給付内容の基本を知っておくことが大切です。全部を知る必要はありません。細かな点が分からなければ顧問の社会保険労務士や社会保険事務所に問い合わせれば、教えてもらえますのでそれらを上手く活用すればよいでしょう。もちろん私、大熊も対応しますよ!
関連blog記事
2007年8月27日「産前産後休暇は社員からの請求が必要なのですか?」
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2007年6月25日「賞与査定で産前産後休業はどのように取り扱えばいいの?」
https://roumu.com/archives/64530902.html
2007年1月20日「休暇(欠勤)届」
http://blog.livedoor.jp/shanaikitei/archives/51723593.html
2007年8月9日「母性健康管理指導事項連絡カード」
http://blog.livedoor.jp/shanaikitei/archives/54764218.html
参考リンク
社会保険庁「出産育児一時金等の医療機関等による受取代理について」
http://www.sia.go.jp/topics/2006/n0925_1.pdf
(鷹取敏昭)
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