医療機関に支払う分娩費が少なくなるのですか?

 宮田部長は自身の若い頃、子どもができた当時のことを振り返り、生活にあまり余裕がなかったことを思い出しながら大熊社労士との出産に関する面談を進めていた。



宮田部長宮田部長:
 「無事出産したのはいいが、病院への支払が大変だ」と社員が話しているのを聞いたことがあります。おめでたいことなので不満をいってはいけないのでしょうが、かなりの負担を感じている方が多いのではないでしょうか!?ところで、最近は出産の際にはどのくらい費用がかかるものなのでしょうか?
大熊社労士:
 そうですね、医療機関によりますが35万円~40万円ぐらいだと思います。ホテル並みの豪華な施設や食事サービスをしているところではプラス5万円~10万円だと聞いたことがあります。
宮田部長:
 へぇー、やはり結構するものですね。お金に余裕のある世帯は高級なサービスを求めてホテル並みの施設を希望するのでしょうが、そうではない働き始めて間もない若い夫婦にはかなり大きな負担になるでしょうね。こういうところからも少子化につながっているのではないでしょうか。
大熊社労士:
 確かにそうかも知れませんね。そこで政府が考えた出産費用にかかる負担を軽減する新しい制度をご紹介しましょう。医療機関が被保険者に代わって出産育児一時金等を受け取ることにより、被保険者等が医療機関の窓口において出産費用を支払う負担を軽減することを目的とした「出産育児一時金等の医療機関等による受取代理」制度で、平成18年10月から利用できるようになっています。
宮田部長:
 出産育児一時金については教えていただきました。一旦医療機関で出産の費用全額を支払った後、出産育児一時金請求書を社会保険事務所へ提出して、35万円の給付を受けるという手順でしたね。今度の新しい制度はどのような仕組みですか?
大熊社労士:
 出産の費用は、後で出産育児一時金の保険給付を受けられるとはいえ、一時的に大きな出費であることに変わりありません。ところが、この新しい制度を利用すると出産予定日まで1ヶ月以内の被保険者または被扶養者を有する者が、事前申請用の請求書と母子手帳など出産予定日を証明する書類の写しを添付して社会保険事務所へ届け出ることで、医療機関の窓口で支払う負担を軽減することができるようになるというものです。例えば、医療機関に支払う出産費用が40万円であったとき、医療機関の窓口で支払う額は5万円(40万円-5万円)でよい訳です。
宮田部長:
 ほぅ、それは負担が少なくてよいですね。被保険者の立場に立ったこういう制度をどんどん増やしてもらいたいものです。ところで、病院に払う費用が35万円未満だった場合はどうなるのですか?
大熊社労士大熊社労士:
 例えば、出産にかかる費用が30万円であったとき、医療機関の窓口への支払はなく、被保険者に5万円(35万円-30万円)が支給されることになります。しかし、出産に関しては分娩時だけではなくその前の妊婦健診等も基本的に自費扱いのため、その分の費用を含めて考えると出産育児一時金の35万円だけでは足りないケースが殆どだと思われますので、結局は被保険者の負担はそれなりにあると考えていた方がよいでしょう。
宮田部長:
 なるほど、妊婦健診費用も自費扱いですか。これも何とかなれば良いのですがねぇ。しかし、新しい制度があるだけでもかなり助かるでしょう。
大熊社労士:
 そうです、この制度を利用すれば窓口負担が軽減されますので、該当する社員さんが出てきたときには是非ご案内ください。なお、この制度を利用しなければ従前どおり、医療機関に一旦全額を支払った後、「出産育児一時金請求書」を提出するという手順になります。また、出産予定日の1ヶ月前よりも更に早い時期に出産があったときには、この制度の受付自体をしていないので利用できません。もう一つ、被扶養者等の場合は出産日に加入している保険者での取り扱いとなりますので、出産日の直前に転職等によって保険者が変った場合は利用できませんので注意してください。
宮田部長:
 これもまた結構複雑そうですね、覚えられるでしょうか。
大熊社労士:
 いまお伝えしたことは注意を要するケースですが、このようなケースは少ないと思われますので、基本的な取り扱いだけ覚えて、社員さんにご案内していただければよいでしょう。
宮田部長:
 そうですか、ほっとしました。わからなければ大熊先生にご相談すればよいということですね。そのときはよろしくお願いします。


>>>to be continued


[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス こんにちは、大熊です。前回に引き続き産前産後休業について取り上げてみました。今回は先日より制度運用が開始された健康保険の給付に関する「出産育児一時金等の医療機関等による受取代理」を解説しました。この制度は原則として事前申請となっており、出産予定日まで1ヶ月以内であることが要件とされていますので忘れないようにしてください。なお、この申請には分娩する医療機関の同意を得て、「請求書の受取代理人の欄」に記名押印してもらう必要があります。医療機関によってはこの処理に時間がかかる場合もありますので予め余裕をもって準備してください。しかし、出産はいつ始まるか分からないため場合によっては、書類のやりとりの最中に出産に至るケースが出てくることもあると思います。その場合は管轄の社会保険事務所に相談してみてください。



関連blog記事
2007年9月3日「出産に関する健康保険の給付について教えてください」
https://roumu.com/archives/64635674.html
2007年8月27日「産前産後休暇は社員からの請求が必要なのですか?」
https://roumu.com/archives/64625615.html
2007年8月9日「母性健康管理指導事項連絡カード」
http://blog.livedoor.jp/shanaikitei/archives/54764218.html
 
参考リンク
社会保険庁「出産育児一時金等の医療機関等による受取代理について」
http://www.sia.go.jp/topics/2006/n0925.html
社会保険庁「健康保険出産育児一時金請求書(事前申請用)」
http://www.sia.go.jp/topics/2006/n0925_2.pdf
社会保険庁「現行・改善後の流れ図」
http://www.sia.go.jp/topics/2006/n0925_4.pdf


(鷹取敏昭)


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