36協定の限度時間と特別条項とは何ですか?

 今回も前回に引き続き、36協定のお話をしていきたいと思います。大熊社労士は、前回に引き続き、36協定のレクチャーをしていますが、ここからはいわゆる特別条項の説明をしていきます。



大熊社労士:
 それでは36協定に関し、より具体的に運用の場面を想定して話をしていきましょう。36協定は労使でその時間外労働や休日労働をさせることができる総枠を取り組めるものですが、労使合意があれば、自由な時間数が協定できるわけではありません。
宮田部長:
 そうなんですか?なにせこれまで前年の協定書をそのまま書き換えて使っているような状態ですので、そんなことを考えたこともありませんでした。どのようなルールがあるのですか?
大熊社労士:
 はい、平成10年12月28日の労働省告示第154号に「労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準」というものがあり、36協定を締結する際の限度時間が定められているのです。それによれば、36協定で定める延長時間は、1ヶ月45時間、1年360時間以内(一年単位の変形労働時間制を採用している場合は1ヶ月42時間、1年320時間)以内にしないければならないとされているのです。
宮田部長宮田部長:
 それで当社の36協定は「1ヶ月45時間、1年360時間」となっているのですね。やっと根拠が分かりました。ただ、現実問題として、当社は教科書や官公庁からの印刷物が多いので、年度末が繁忙期じゃないですか。そのため、3月は45時間で収まらない社員が結構発生するんですよ。やはりこれは違反ということになるのでしょうか。
大熊社労士:
 はい、残念ながら36協定違反ですね。そうした場合のオプションが「特別条項付き協定」です。これは臨時的に限度時間を超えて時間外労働を行わなければならない特別の事情が予想される場合に、これを結んでおけば限度時間を超える時間を延長時間とさせることができるというものです。具体的には「一定期間についての延長時間は、1か月45時間とする。ただし、納期が集中し生産が間に合わないときは、労使の協議を経て、1か月60時間までこれを延長することができる」といった感じで協定を結ぶのです。
宮田部長:
 なるほど、ちょっとした抜け道があるんですね。
大熊社労士大熊社労士:
 この特別条項付きの協定の要件としては、以下の5つがあります。
36協定の中に特別条項も含めて協定すること
特別条項は「特別な事情」が生じたときに限り発動すること
「特別の事情」は「臨時的なもの」に限られること
「特別の事情」が生じたときの延長時間の限度を協定すること
特別条項の発動は労使間で決めた手続きを経る必要があること
宮田部長:
 かなり厳格に運用されているのですね。
大熊社労士:
 はい、この中で特にポイントとなるのがです。特別条項付き協定では、「特別の事情」は「臨時的なもの」に限られることを明確にする必要があります。「臨時的なもの」というのは、一時的または突発的に時間外労働を行わせる必要があるものであり、全体として1年の半分を超えないことという制限がなされています。かつては1年中特別条項に基づき時間外労働が行われているような実態がありましたが、過重労働対策の観点から平成16年の改正で年6回の臨時的なものという制限が追加されました。
宮田部長:
 よく分かりました。来年の36協定からはより実態に合わせた協定を作成したいと思います。ありがとうございました。


>>>to be continued


[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス こんにちは、大熊です。今回は36協定の限度時間と特別条項付き協定について取り上げてみました。最近は36協定に関する調査も厳しくなっていますので、確実に協定を行い、届出をすることが求められます。


 さて、以下では36協定の延長時間の限度基準が適用されないケースについてお話してみましょう。36協定は、すべての業種や業務に適用されるという訳ではありません。それは36協定の限度時間が全産業について全国統一の基準であるため、特に時間外労働が長くなっている事業を適用対象とすると限度時間が長くなってしなう恐れがあること、事業または業務の性格から限度時間の適用に馴染まないものがあること等の理由があります。「時間外労働の限度に関する基準」の第5条では、以下に当てはまる一定の事業または業務については、限度基準を適用しない旨定めています。こうした事業または業務については、必要に応じて限度時間を上回る36協定を締結することができます。もっとも過重労働対策はいずれにおいても必要ですので、注意をしてください。
(1)工作物の建設等の事業
 建設業は、限度時間が適用されません。建設の現場作業のみならず、本支店等の管理部門も同じように限度時間が適用されません。
(2)自動車の運転の業務
 四輪以上の自動車の運転の業務に従事する者については、別途「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」が適用されています。運送事業における自動車運転者のみに限らず、製造業、販売業等での製品運搬、配達等の業務に従事する自動車運転者も含まれます。
(3)新技術、新商品の研究開発の業務
 専門的、科学的な知識、技術を有する者が従事する新技術、新商品等の研究開発の業務に従事する者については、限度時間が適用されません。具体的には、次の業務が該当します。
1)自然科学、人文・社会科学の分やの基礎または応用的な学問上、技術上の問題を解明するため試験、研究、調査
2)材料、製品、生産・製品工程等の開発または技術的改善のための設計、製作、試験、検査
3)システム、コンピュータ、利用技術等の開発または技術的改善のための企画、設計
4)マーケティング・リサーチ、デザインの考案ならびに広告計画におけるコンセプトワークおよびクリエイティブワーク
5)その他1)から4)に相当する業務
(4)厚生労働省労働基準局長が指定するもの
 以下の業務については、1年間の限度時間のみ適用になります。
1)鹿児島県および沖縄県における砂糖製造業(砂糖精製業を除く)
2)造船業における船舶の改造または修繕に関する業務
3)郵政事業の年末・年始における業務
4)都道府県労働局長が地域を限って指定する事業または業務
5)電気事業における発電用原子炉およびその附属設備の定期検査ならびに付帯工事
6)ガス事業におけるガス製造設備の工事に関する業務


[関連通達]
平成15年10月22日 基発1022003号
1 「特別の事情」は、臨時的なものに限ることとすること。この場合、「臨時的なもの」とは、一時的又は突発的に時間外労働を行わせる必要があるものであり、全体として1年の半分を超えないことが見込まれるものであって、具体的な事由を挙げず、単に「業務の都合上必要なとき」又は「業務上やむを得ないとき」と定める等恒常的な長時間労働を招くおそれがあるもの等については、「臨時的なもの」に該当しないものであること。
2 「特別な事情」は、「臨時的なもの」に限ることを徹底する趣旨から、特別条項付き協定には、1日を超え3箇月以内の一定期間について、原則となる延長時間を超え、特別延長時間まで労働時間を延長することができる回数を協定するものと取り扱うこととし、当該回数については、特定の労働者についての特別条項付き協定の適用が1年のうち半分を超えないものとすること。



関連blog記事
2007年11月26日「36協定の労働者代表はどのように選出すれば良いのですか?」
https://roumu.com/archives/64742927.html
2007年11月19日「本社で36協定を届け出るだけではダメなのですか?」
https://roumu.com/archives/64734929.html
2007年2月8日「時間外労働・休日労働に関する協定届(36協定)」
http://blog.livedoor.jp/shanaikitei/archives/52082070.html


参考リンク
東京労働局「労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準(平成10年12月28日・労働省告示第154号)」
http://roudoukyoku.go.jp/roudou/jikan/roudou_kijuihou/20061212-roudoukizyun.html
大阪労働局「時間外労働の限度に関する基準(平成10年労働省告示第154号)」
http://osaka-rodo.go.jp/joken/jikan/aramasi/kokuji1.php
厚生労働省「パンフレット:時間外労働の限度に関する基準」
http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/kantoku/040324-4.html
神奈川労働局「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」
http://www.kana-rou.go.jp/users/kijyun/az_karou_unten_nakuso02-1.htm
石川労働局「時間外労働の限度基準」
http://www.roudou.go.jp/seido/joken/joken02.html


(福間みゆき)


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